町工場の事務所で、電話を切ったあと受話器を置き、断った依頼のメモを見つめて少し考え込む担当者

協力会社と横のつながりで仕事を融通し合う、町工場の関係づくり

「すみません、その加工はうちの設備では……」。 そう言って電話を切ったあと、少しだけ胸がちくっとしたことはありませんか。

せっかく声をかけてくれたお客さん。手一杯の時期だったり、持っていない機械の仕事だったり、断る理由はちゃんとある。 それでも「次はもう、うちには声がかからないかもしれない」と気になってしまうのは、目の前のお客さんを大事にしてきたからこそです。

この記事では、自社だけで抱えきれない仕事を、近くの協力会社と融通し合える関係にしていく手順を、一緒に整理します。

結論:横のつながりは、いきなり「仲間づくり」を頑張らなくても始められます。①頼れそうな協力会社を3社だけ書き出し、得意な加工と設備を知る、②顔を合わせて「お互いに回せる仕事」を話してみる、③回すときの決めごと(窓口・品質の責任・お金)を最初に一枚にしておく、という順番です。今日できるのは、3社の名前を紙に書くところまでで十分です。

協力会社との融通は「断る」を「つなぐ」に変えること

自社でできない仕事が来たとき、選べる道は「断る」だけではありません。

どちらも、お客さんから見れば「相談したら、ちゃんと行き先を示してくれた」という体験になります。 断って終わるより、次も声をかけてもらえる理由がひとつ残ります。

何が起きているか:一社で全部は抱えきれない

左は担当者がお客さんと協力会社の人を引き合わせて紹介している場面、右はお客さんとは自社だけがやり取りし、自社と協力会社の間で仕事を往復させる流れを示した説明図
紹介は「直接つなぐ」、仲間回しは「自社で受けて一部を頼む」。お客さんへの窓口と責任の持ち方が違う

町工場の多くは、旋盤なら旋盤、板金なら板金と、得意な加工に絞って腕を磨いてきました。 だからこそ品質で選ばれる。一方で、お客さんの図面はそうはいきません。旋削のあとにフライスで溝を入れる、溶接したあとに表面処理をかける。一枚の図面に、いくつもの工程が並んでいます。

そこへ繁忙期の重なりが加わると、「設備はあるのに、今月は手が回らない」という場面も出てきます。 自社だけで全部に応えようとすると、どこかで断るか、無理をして納期や品質を削るか、になりがちです。

横のつながりがあると、その間にもう一つの道ができます。 相手の得意で自社の苦手を埋め、相手の忙しいときにはこちらが受ける。設備を買い足さなくても、お客さんに返せる答えの幅が広がります。

具体例:旋盤の工場と、マシニングの工場

たとえば、旋盤加工が中心の工場Aと、同じ地域でマシニングセンタを中心にやっている工場Bがあるとします。

ふだんから顔を知っていれば、AはBにポケット加工だけを頼み(仲間回し)、BはAに軸物の依頼を紹介できます。 お客さんは断られずに済み、AもBも「相談に乗ってくれる工場」として残る。どちらも新しい機械を買わずに、です。

もちろん、最初からこんなにうまく回るわけではありません。 はじめは年に1〜2件、「困ったときに電話できる相手がいる」くらいで十分です。それだけでも、断るときの胸のちくっとした感じは、ずいぶん軽くなります。

影響:つながりがあると、何が楽になるか

一方で、気になるのは「お客さんを取られないか」「品質で揉めないか」だと思います。 ここは気持ちの問題ではなく、決めごとで守れる部分です。次の手順の③で、最初に一枚にしておきましょう。

協力会社との関係づくりで明日やること

いきなり全部をそろえなくて大丈夫です。順番に進めましょう。

① 協力会社の候補を3社だけ書き出す

付き合いのある外注先、組合や商工会で会った人、展示会で名刺を交わした工場。思い浮かぶ順に3社でかまいません。 それぞれについて、わかる範囲で次を書いておきます。

全部埋まらなくても大丈夫です。空欄は「次に会ったら聞くこと」になります。

② 顔を合わせて「お互いに回せる仕事」を話してみる

電話一本で済ませず、一度は相手の工場を見に行くのがおすすめです。機械の並びや現場の整い方を見ると、どんな仕事なら安心して頼めるかが見えてきます。 話すのは難しいことではありません。「うちはこういう仕事が得意で、こういうのは受けられない。そちらは?」と、お互いの得意と苦手を交換するだけです。

③ 回すときの決めごとを一枚にしておく

実際に仕事を融通するときに揉めやすいのは、ほぼ次の4つです。最初に話して、紙一枚に残しておきましょう。

決めておくこと紹介のとき仲間回しのとき
お客さんの窓口紹介先が直接やり取りする自社が窓口のまま
品質・納期の責任紹介先が持つお客さんに対しては自社が持つ
お金の流れ紹介先とお客さんで直接自社が協力会社に支払う(単価・支払日を書面で)
お客さんへの関わり方紹介したことを伝える協力会社からお客さんへ直接営業しない、を確認

仲間回しをするときは、お客さんとの取引基本契約に「外注(再委託)する場合は事前に承認を得る」といった定めがないかも、一度確かめておくと安心です。 また、こちらが発注する側になるので、単価・納期・支払日は口約束にせず、注文書などの書面で渡しておきましょう。相手を大切にすることが、長く続く関係のいちばんの土台です。

横のつながりを始めるときのチェックリスト

全部にチェックがつかなくても大丈夫です。最初の1つ、3社を書き出すだけでも、「困ったときに思い出せる顔」が手元に残ります。

よければ、こちらも

協力会社の工場を訪ねた担当者が、相手の工場の人と機械の前で笑顔であいさつを交わしている明るい情景
困ったときに思い出せる顔が、ひとつあるだけで心強い

自社でできない仕事があるのは、得意を磨いてきた証です。弱さではありません。 足りないところを、近くの誰かの得意で埋められたら、お客さんに返せる答えはもっと増えます。

今日は、頼れそうな協力会社の名前を3つ、紙に書くところまでで十分です。 次に「その加工、うちでは……」と言いかけたとき、その紙を思い出してみてください。断るはずだった電話が、新しいつながりの最初の一本になるかもしれません。