
バリ取り・手仕上げの工数を見積に入れる、測り方と乗せ方
「加工そのものは値段どおりだったのに、終わってみると思ったほど残らない」。 その差が、バリ取りや手仕上げに消えていることがあります。
バリ取りは、機械が回っている時間ではありません。 手すきの人が空いた時間にやったり、パートさんが箱ごと引き受けたり——工程表に名前のないまま流れていく作業です。 名前がないので、見積にも行がありません。
これは見落としというより、見えにくい作業の宿命です。誰のせいでもありません。 この記事では、バリ取り・手仕上げの工数を測って、見積に乗せるまでの順番を一緒に整理します。
結論:手仕上げの工数は「①どこまでやるかを決める → ②1個あたりの時間を実際に測る → ③手作業の賃率をかけて見積に1行足す」の順で考えると入れやすくなります。ポイントは、機械のチャージではなく人の時間でお金を出すことと、1個あたりが数十秒でも数量で効いてくるのを見ておくことです。
何が起きているか
バリ取りが見積から抜けやすいのには、いくつか理由があります。
- 図面に「バリなきこと」としか書かれておらず、どこまでやるかが決まっていない
- 機械が止まっている時間なので、加工時間の集計に出てこない
- 手すきの人がやることが多く、「誰の何時間」として記録に残らない
- 1個あたりが数十秒と短いので、感覚として小さく見える
とくに効いてくるのが最後の一つです。 1個30秒でも、300個あれば2時間半。半日近くが、見積のどこにも書かれていない状態になります。
材質や工法によっても差が出ます。アルミや樹脂は返りが出やすく、ステンレスは硬くて時間がかかる。 レーザーやプレスの後工程では、面積や板厚で手間がまったく変わります。 同じ「バリ取り」でも中身が違うので、品物ごとに一度見ておくと安心です。
具体例:1個あたりを測って、数量をかける

たとえば、ある部品のバリ取りに1個45秒かかるとします。 このとき、次のように見ていくと金額まで出せます。
- 300個のロットなら:45秒 × 300個 = 13,500秒 = 約3.75時間
- 30個のロットなら:45秒 × 30個 = 1,350秒 = 約0.4時間
ここに「手作業の時間あたり賃率」をかければ、仕上げ分の金額になります。 仮に手作業の賃率を1時間3,000円と置けば、300個なら約11,250円、30個なら約1,125円です。
大事なのは、ここで機械のチャージをそのまま使わないことです。 機械のチャージには設備の減価償却や動力費が入っています。バリ取りは機械が止まっている作業なので、それを乗せると高く出すぎます。 逆に、賃率をゼロ扱いにすると、人が動いた時間がまるごと消えます。 人件費と間接費をもとにした手作業用の賃率を、ひとつ決めておくと迷いません。賃率そのものの出し方は、別記事の手順とあわせて見直すと整理しやすいです。
段取りと違うのは、バリ取りは数量に比例するという点です。 段取りは1回かければ済むのでロットが大きいほど1個あたりが軽くなりますが、手仕上げは個数がそのまま時間になります。まとめ発注でも安くならない部分がある、と覚えておくと値づけの説明がしやすくなります。
見積と現場に与える影響
手仕上げの工数が見積に入っていないと、数量の多い仕事ほど利益が薄くなります。 「たくさん出るありがたい品物」が、実は一番残っていなかった——そういうことも起こります。
もうひとつ、金額以外の影響もあります。 どこまでやるかが決まっていないと、担当者によって仕上げの程度がばらつきます。 丁寧な人は時間をかけ、急ぐ人はさっと済ませる。あとから「前回はもっときれいだった」と言われて、やり直しになることもあります。
ここは、程度の基準を決めておくと両方が楽になります。 面取りの指示(C0.2、C0.5 など)を図面でもらう、あるいは良品の見本をひとつ手元に置いておく。 基準が決まれば、かかる時間も決まります。時間が決まるから、見積にも書けるという順番です。判断の基準をそろえる進め方は、限度見本の記事でもふれています。
数量がまとまって手仕上げが重いと分かったときは、専用の工具や治具、ブラシ・バレル研磨などで機械側に寄せる相談もできます。 近年はロボットや専用機によるバリ取りの選択肢も広がってきましたが、少量多品種の町工場では、まずいまかかっている時間を数字にするのが先です。数字がないと、投資の判断もできません。
明日やること
明日いきなり全品目を測る必要はありません。 数量がまとまって出る代表品をひとつ選んで、次の順に進めてみましょう。
- その品物の仕上げが「どこまで」かを決める(面取りの指示、または良品の見本をひとつ確保する)
- 10個だけ、実際にバリ取りをしてストップウォッチで測る。合計時間 ÷ 10 で1個の時間が出る
- 手作業の賃率をひとつ決める(機械のチャージは使わず、人の時間で考える)
- 1個の時間 × 個数 × 賃率 で、仕上げ分の金額を出す
- 見積に「バリ取り・仕上げ」の行をひとつ足す(単価に溶かし込む見せ方でも構いません)
測るのは10個で十分です。全数を測ろうとすると、たいてい途中で止まってしまいます。 実績がないところから始めるなら、最初は「だいたい1分」と仮置きして1行入れてしまい、次に同じ品物が流れたときに1回だけ測って直す。それで十分に前に進みます。
見せ方は、客先に合わせて2通り持っておくと安心です。 別行で「仕上げ工数」として見せる方法と、加工単価に溶かし込む方法。どちらでも、実際にいくらかかっているかの根拠は自社に持っておく——ここだけ崩さなければ大丈夫です。
手仕上げ工数のチェックリスト
まず1つだけやるなら、これだけで十分です。
- 代表品ひとつのバリ取りを、10個だけ実際に測ってみたか
ここさえ通れば、あとは数量をかけるだけで金額が出ます。 時間が取れないうちは、残りは飛ばして構いません。下のリストは、慣れてきたら少しずつ確認する補助です。一度に全部そろえる必要はありません。
慣れてきたら確認:
- 仕上げの程度(面取り指示・良品見本)を決めているか
- 1個あたりの時間を持っているか(最初は仮置きでよい。後から実測で直す)
- 機械のチャージではなく、手作業の賃率を使っているか
- 数量が増えたとき、その分の時間も増えることを見積に反映しているか
- 材質・工法が変わったとき、仕上げの手間も変わっていないか見ているか
- 手すきの人・パートさんがやった時間も、原価として数えているか
- 仕上げ分を「サービス」で飲み込んでいないか
よければ、こちらも
- 手作業の賃率をどう出すかは、加工賃の時間チャージを自社で計算する手順 で整理しています。
- 同じく見積から抜けやすい時間は、段取り時間を見積に入れ忘れない、確認のコツ でもふれています。
- 仕上げの程度をそろえたいときは、限度見本で良品・不良品の判断をそろえる方法 もあわせてどうぞ。
- 測った時間が合っていたかは、実際原価と見積原価の差を月次で振り返る仕組み で確かめられます。

バリ取りや手仕上げは、地味で、記録に残りにくくて、それでも誰かが必ずやっている作業です。 その時間に名前をつけて見積に一行足すことは、その手を動かした人の仕事を、ちゃんと数字にすることでもあります。
一度測ってしまえば、次からは同じやり方で他の品物にも広げられます。 今日、代表品ひとつのストップウォッチを押そうとしているなら、その見積はもう一歩、現場の実際に近づいています。