
自主保全(TPM)を少人数の町工場で無理なく始める第一歩
朝いちばんに機械の電源を入れて、何ごともなく動けばそのまま生産へ。 調子が悪くなって初めて、油をさしたり、詳しい人を呼んだり——。 「点検も保全も、手が空いた人か機械に強い人まかせ」になっていませんか。
少人数の現場で、専任の保全担当を置くのは難しいものです。 みんな加工で手一杯で、機械の面倒まで見る余裕がない。だから故障が出てから慌てて対応する。 それは、現場が横着をしているからではありません。人と時間が限られている中で、目の前の納期を守るのが先になるのは自然なことです。
この記事では、そんな現場でも始められる自主保全の第一歩を、仕組みを増やさずに整理します。 大きな活動として構えるのではなく、「使う人が、自分の機械を毎日ちょっと見る」。まずはそこだけです。
結論:自主保全は「掃除・給油・増し締め・目で見る点検」を、その機械を使う本人が日常の中でやることです。専門的な修理はプロに任せたまま、まず一台、一日五分の“見る掃除”から始めれば十分。全部の設備・全部の項目を一度にやろうとしないことが、続けるいちばんのコツです。
自主保全(じしゅほぜん)とは、保全担当や外部の業者だけに任せず、その設備を毎日使うオペレーター自身が、自分の機械の異常を早めに見つけて防ぐ取り組みのことです。TPM(Total Productive Maintenance/全員参加の生産保全)という活動の柱のひとつで、「自分の設備は自分で守る」という考え方が土台にあります。
とはいえ、いきなり全社活動として始める必要はありません。決めることは、次の三つだけです。
- どの機械から始めるか(一番よく使う・止まると一番困る一台)
- 誰が見るか(その機械を毎日使っている人)
- 何を見るか(掃除・給油・ゆるみ・いつもと違う音や熱の四つくらい)
この三つが決まっていれば、忙しい日でも「電源を入れる前にひと回り見る」ことなら続きます。
手順を小さく分けて始める

いきなり全設備を対象にすると、点検そのものが仕事になって続きません。一台に絞って、小さく刻みます。
まず、掃除をする。 自主保全は「掃除は点検である」から始まります。切り粉や油汚れを拭き取っていると、いつもは見えない油のにじみ、細かなキズ、ゆるんだボルトに自然と気づきます。 最初の一週間は、給油も増し締めもいったん置いて、ただ「担当機を一日五分きれいにする」だけでも構いません。汚れを落とす手が、そのまま異常を探す手になります。
次に、給油をする。 機械の取扱説明書やメーカーの給油指示を見て、「どこに・何を・どれくらいの間隔で」さすかを確認します。ここは自己流で油の種類を変えると不具合のもとになるので、まずはメーカーが指定する油脂と間隔にそろえるのが安心です。 給油口が汚れていないか、油量が窓の線の範囲にあるか——見る場所を一つずつ覚えていきます。
その後、増し締めをする。 振動で少しずつゆるむボルトやカバーの固定を、決めた箇所だけ手やレンチで確かめます。全部のねじを毎日締める必要はありません。「ここがゆるむとまずい」という要所を、詳しい人に一度聞いて数か所に絞ります。
最後に、目で見て点検する。 電源を入れる前後で、いつもと違う音・振動・におい・熱・漏れがないかを五感で確かめます。「昨日と同じか」を感じ取ることが、故障が大きくなる前のいちばん早いサインになります。異音や振動の見つけ方は、あとで紹介する記事もあわせてどうぞ。
この四つは、別々の作業ではなく「担当機を一回りするあいだにまとめてやる」もの。慣れれば、五分から十分の朝の習慣になります。
続けるために、記録は一枚に絞る

自主保全がうまく続かない現場の多くは、記録の負担が重すぎることが原因です。項目が多い立派な点検表を作っても、書くのが面倒で三日で止まります。
続けるコツは、記録を欲張らないことです。 まずは機械のそばに一枚だけ貼り、「掃除・給油・増し締め・見る点検」を今日やったら日付の欄にチェックを入れる。それだけで十分です。何か気づいたことがあれば、余白に一言メモを残す。異常のときだけ詳しく書けば、普段の負担はほとんどありません。 点検表を現場が実際に続けられる形に整えるコツは、あとで紹介する記事にまとめています。
一台がうまく回り出したら、次の一台へ。対象を少しずつ広げていくほうが、最初から全設備を対象にするより確実に根づきます。焦らず、一台ずつでいいのです。
自主保全を始めるチェックリスト
- 最初に始める一台(よく使う・止まると困る機械)を決めたか
- その機械を毎日使う「見る人」を決めたか
- まず一週間は「一日五分の掃除」だけと割り切れているか
- 給油の場所・油の種類・間隔をメーカー指示で確認したか
- 増し締めする要所を数か所に絞ったか(全部やろうとしない)
- 電源前後の「音・振動・におい・熱・漏れ」を見る習慣を決めたか
- 記録は機械のそばの一枚にチェックを入れるだけにしたか
全部にチェックがつかなくて大丈夫です。最初は上の1〜3、つまり「一台を決めて、五分の掃除から始める」ところまでできれば十分。給油や増し締め(4〜7)は、掃除が習慣になってから足していけば構いません。忙しい日は、担当機をぐるっと一回り見るだけでも確かな一歩です。
よければ、こちらも
- 記録を続けやすい形にするなら、設備の日常点検表を現場で続けられる形にする工夫 が下地になります。
- 「いつもと違う」に気づく力を磨くなら、機械が止まる前に気づく異音・振動のチェック点 が続きになります。
自主保全は、専任の担当がいない現場でも始められます。 一台の機械を、使う人が毎朝ちょっと見て、拭いて、印を入れる。その小さな習慣が、ある日の突発故障を静かに一つ防いでくれます。
派手ではなくても、今日あなたが担当機を一回り見たことが、来月の「止まらない一日」につながっています。 最初の五分の掃除を終えた時点で、あなたの現場はもう、壊れてから直す側から、壊れる前に気づく側へと動き始めています。