夜の工場で、長く使ってきた加工機のそばに立ち、修理伝票の束を手に「そろそろか」と機械を見上げている町工場の経営者

その設備、直すか買い替えるか。町工場で迷ったときの判断の順番

夜、みんなが帰ったあとの工場で、いつもの機械の前に立つ。 今月もまた止まった。サービスを呼んで、部品を替えて、なんとか動いている。

「まだ使えるしな」 「今ここで大きい買い物はできんな」

そう言って、もう何年か経っている——そんな設備、一台くらい心当たりがありませんか。

これは、決断が遅いからではありません。判断するための材料が、頭の中にバラバラに散らばっているからです。修理の請求書は経理のファイル、止まった時間は現場の記憶、部品がまだあるかどうかはメーカーの担当者の頭の中。並べて見比べたことが、たぶん一度もない。

この記事では、その散らばった材料を三つに絞って並べ、直すか買い替えるかを落ち着いて決める順番を整理します。難しい計算はしません。電卓ひとつと、去年一年分の伝票があれば足ります。

結論:判断は、次の三つを並べるところから始めます。①この1年の修理費/②止まっていた時間(停止時間)/③補修部品がまだ手に入るか(部品供給)。①と②を足した「1年あたりの持ち出し」が、買い替えた場合の「1年あたりの負担」に近づいてきたら、買い替えを検討する時期です。ただし③だけは金額と関係なく効きます。部品が出ないと分かった設備は、金額に関係なく次の手を考え始める——そこだけは先に決めておくと、あとの判断がぐっと楽になります。

いま、現場で何が起きているか

直すか買い替えるかの判断が先送りになるのは、だいたい次のどれかです。

そして先送りが続くと、いちばん困る形で決着します。納期直前に壊れて、選ぶ余裕のないまま高い緊急対応を打つ、という形です。

判断を早めるのは、けちけちするためではありません。選べるうちに選ぶためです。

三つを、紙一枚に並べる

一台の設備について、修理費・停止時間・部品供給の三つを机の上に並べて見比べている場面の説明図
散らばっている材料を、この三つだけに絞って一枚に並べる。ここまでできれば、判断はほとんど終わっている

対象は、いちばん止まる一台だけにします。全部の設備を一度に見ようとすると、まず終わりません。

①この1年の修理費

去年1年分の、その設備にかかった修理費を足します。サービス出張費、部品代、外注の修理代、自社で買った消耗部品。経理の伝票をめくれば1時間ほどで出ます。保全記録をつけていれば、そこから拾えます。

ここで大事なのは、1回いくらではなく、1年でいくらかを見ることです。1回15万円は「まあ仕方ない」で流せますが、年3回で45万円と書き出すと、見え方が変わります。

②止まっていた時間(停止時間)

その設備が動かず、加工が進まなかった時間の合計です。分単位まで正確でなくて構いません。「たしか2月に丸一日、5月に半日、あと細かいのが何回か」——それを足して、ざっくり何時間かにします。

出した時間に、その設備の時間チャージ(1時間動かして稼ぐはずの金額)を掛けると、止まったことによる持ち出しが金額になります。時間チャージの決め方は 加工賃の「時間チャージ」を自社で計算する手順 にまとめています。

③補修部品がまだ手に入るか(部品供給)

メーカーに電話して、「この型式、補修部品はいつまで出ますか」と聞くだけです。無料で、その日のうちに分かります。

そして、この一本の電話がいちばん効きます。部品供給が終わっている設備は、次に壊れたときに直せないからです。金額の話をどれだけ精密にやっても、直せない設備は直せません。逆に部品がまだ何年も出るなら、当面は修理で粘るという判断に自信が持てます。

数字を並べてみる(例)

たとえば、こんな一台があったとします。

修理側(この1年の実績)

買い替え側(見積を1社取ってみた)

並べると、修理を続けた場合の年58万円に対し、買い替えた場合の年45万円。この一台に関しては、買い替えのほうが年13万円ほど軽い、という見え方になります。

ただし、この数字は「だから今すぐ買い替え」と結論を出すためのものではありません。見てほしいのは、修理側は年々増えていきやすく、買い替え側は10年ほぼ同じ額で読める、という性質の違いのほうです。先が読める金額のほうが、資金繰りは組みやすくなります。

なお、実際にはリース料や金利、下取り、既存機の処分費、そして修繕費として一括で経費にできるのか、資本的支出として減価償却になるのかという税務の扱いも効いてきます。ここは判断が分かれるところなので、金額が大きい話になったら顧問税理士に一度確認してください。この記事の計算は、あくまで「どちらの方向に傾いているか」をつかむための粗い当たりです。

金額では決まらない、四つの判断軸

数字が拮抗しているとき、最後に効くのは金額以外の要素です。次のどれかに当てはまるなら、金額が少し不利でも買い替えに傾けて構いません。

  1. 補修部品がもう出ない。次の故障が「修理不能」になる可能性がある。
  2. 精度が出ない・不良が出る。寸法が安定せず、手直しや選別が常態化している。品質のばらつきは、修理費より高くつくことがあります。
  3. 安全に不安がある。安全カバーや非常停止が今の使い方に合っていない、あるいは無理な使い方でしのいでいる。人の安全は、金額と天秤にかけません。
  4. 直せる人がいない。メーカーのサービスが終了した、社内で構造を分かっていた人が辞めた。「動いているうちは触れない」状態は、実質もう選べない状態です。

逆に、部品が出て・精度も出て・安全も問題なく・直せる人がいるなら、多少修理費がかさんでいても、もうしばらく大事に使うという判断は十分に理にかなっています。長く使ってきた機械には、その工場のやり方が染み込んでいます。それを手放すことだけが正解ではありません。

明日やること

一日で全部やろうとしなくて大丈夫です。上から順に、できるところまでで構いません。

  1. 対象を一台だけ決める。「いちばん止まるやつ」で選べば、たいてい間違いません。
  2. メーカーに電話して、補修部品の供給見通しを聞く。5分で終わり、費用もかかりません。まずこれだけでも価値があります。
  3. 経理の伝票から、その設備の1年分の修理費を拾って足す
  4. 止まっていた時間をざっくり足し、時間チャージを掛ける
  5. 買い替えの概算を1社だけ取る。相見積は後で構いません。まずは桁を知るのが目的です。
  6. 紙一枚に、三つの数字を並べて書き出す。ここまでくれば、判断はほとんど終わっています。

補助金を使えないかを調べたくなったら、それは6のあとにしてください。先に「うちはどちらに傾いているか」を出しておかないと、補助金の締切に判断を引きずられます。制度の要件や公募時期は年によって変わるので、使うと決めたら必ずその年の公募要領と、地元の商工会議所や支援機関の窓口で最新の内容を確認しましょう。

判断のためのチェックリスト

全部にチェックがつかなくても大丈夫です。まずは2番(部品供給の確認)と3番(1年分の修理費)の二つ。この二つが揃うだけで、「なんとなく不安」が「こういう状況だ」に変わります。

よければ、こちらも

朝の工場で、機械のそばに立つ経営者と若手が並んで、これからの段取りを穏やかに話している場面

「直すか、買い替えるか」は、お金の話のようでいて、この工場をこれから何年続けるつもりかという話でもあります。だから重いし、後回しにもなります。

でも、答えを出す必要はまだありません。今日必要なのは、メーカーへの一本の電話と、伝票をめくる1時間だけです。それだけで、机の上に三つの数字が並びます。

長く働いてくれた機械を、迷いながら大事に使ってきたこと。その時間は、けっして先送りではありません。判断を急がなかったぶん、いま材料をそろえれば、いちばん納得のいく形で決められます。

明日の朝、メーカーの番号を押すところから。それでもう、半分は進んでいます。