夕方の町工場で、部品を載せた台車を押しながら、自分が今日何度もこの通路を往復したことに気づいて足を止めた作業者

工場のレイアウト・動線を見直す。運搬のムダを減らす小さな手順

夕方、台車を押しながらふと思うことがあります。

今日は朝からずっと動いていた。座った記憶もほとんどない。 なのに、加工そのものはあまり進んでいない気がする。

作業日報を見ても、そこには「〇〇加工 3時間」としか書かれていません。その間に何回、材料を取りに行って、できたものを次の機械まで運んだかは、どこにも残りません。

運搬は、加工と違って形が残らない仕事です。だから見積にも乗りにくいし、改善のネタとしても後回しになります。でも実際には、少人数の現場ほど、加工している人がそのまま運ぶ人を兼ねている。運ぶ時間が増えると、そのぶん機械の前に立つ時間が減ります。

この記事で一緒にやりたいのは、工場を建て直す話ではありません。 機械を1台も動かさずに、今週から減らせる運搬を見つける手順です。

結論:レイアウト改善は、機械の配置換えから始めなくて大丈夫です。順番は3つ。①3日だけ「運んだ回数」を数えて、どこと どこの間を往復しているかを紙に出す ②置き場・棚・パレットの位置を動かして、いちばん多い往復を短くする ③それでも減らないところだけ、機械の移設を検討する。①と②は費用ゼロで、今週中にできます。

進める順番は、こうです。

  1. 3日間、運んだ回数と行き先だけをメモする
  2. 工場の平面図に、行き来した線を引く(きれいでなくていい)
  3. いちばん太くなった線を1本だけ選ぶ
  4. その線を、モノの置き場を動かして短くできないか考える
  5. 1週間試して、回数が減ったかをもう一度数える

大事なのは3番です。全部の線を細くしようとすると、何も決まらないまま夏が終わります。いちばん太い1本だけを選んでください。

何が起きているか──運搬は「原価に乗らないのに時間を食う」仕事

運搬がやっかいなのは、それ自体が悪いことに見えないところです。

材料は運ばないと加工できません。できた部品も、次の工程へ持っていかないと進みません。だから運搬をゼロにはできない。ゼロにできない仕事は、多すぎても気づきにくいんです。

もうひとつ、運搬には「ついで」がくっつきます。

一つひとつは数十秒です。責めるような話でもありません。ただ、往復の回数が多いと、この「ついで」も回数分だけ増えます

ざっくり数えてみましょう。仮に、材料置き場と加工機の間を1往復するのに2分かかるとします。1日に40往復あれば、2分×40回=1日あたり約80分。月に20日稼働なら1600分で、月およそ27時間です。人ひとりが3日以上、ただ歩いていた計算になります。

この数字は、あくまで「この条件ならこうなる」という例です。現場によって距離も回数も違います。だから、他所の数字を当てはめるのではなく、自分の現場で3日だけ数えてみるのがいちばん早いです。

そして、もし時間を金額に置き換えたくなったら、加工賃の時間チャージ(賃率)を自社で計算する手順 で出した1時間あたりの金額を掛けるだけで、社内で話をするときの根拠になります。「歩いている時間がもったいない」より、「月◯時間ぶんです」のほうが、社長にも現場にも通じやすいと思います。

まず3日、運んだ回数だけ数える

いきなり図面を広げなくて大丈夫です。最初にやるのは、数えることだけです。

A4の紙を1枚、作業場の柱に貼ります。書くのは3つだけ。

これを3日続けます。全員でなくて構いません。その週いちばん動いている人ひとりで十分です。むしろ、全員に書かせようとすると、書くこと自体が新しい手間になって続きません。

3日たったら、正の字を数えます。たいてい、上位2〜3本の往復で全体の半分以上を占めています。ここが、今回いじる場所です。

ちょっとしたコツ:数えるとき、「運んだ理由」は書かなくていいです。理由を書こうとすると手が止まります。数えるのは回数と行き先だけ。分析は、あとで紙を眺めながらやれば足ります。

平面図に線を引く(きれいでなくていい)

工場の平面図に運搬の動線を書き込んだ比較図。左は線が何本も交差して絡まっている状態、右は線が短くまとまった状態
置き場を動かすだけでも、線は短くまとまる。まずは自分の工場の「絡まり方」を紙に出すところから

数えた紙ができたら、工場の平面図に線を引きます。

平面図は、方眼紙に手で描いた四角と丸で十分です。CADで描く必要はありません。機械の位置、材料棚、検査台、出荷口。この4つが入っていれば使えます。

そこに、数えた往復の線を引いていきます。回数が多い往復ほど、線を太く、あるいは2本3本と重ねて引く。すると、紙の上に「絡まり」が見えてきます。この線の絵は、現場ではスパゲッティ図と呼ばれることがあります(歩いた跡が絡まった麺のように見えるため)。名前を覚える必要はありませんが、他の人に説明するときに通じやすい言葉です。

線を眺めると、たいてい次のどれかが見つかります。

このうち、回数がいちばん多い1本に丸をつけます。距離が長い線ではなく、回数が多い線です。1回100歩でも月に2回なら200歩ですが、1回20歩でも1日40回なら1か月で16000歩です。回数のほうが効きます。

機械を動かさずにできる3つの手

丸をつけた1本を、どう短くするか。ここで「機械を動かす」から入ると、話が止まります。基礎工事、電源、配管、エア配管、稼働を止める日程。町工場で機械1台を動かすのは、簡単な話ではありません。

先に試すのは、この3つです。

1. モノを、使う場所の近くへ持っていく

いちばん効くのに、いちばん見落とされるのがこれです。

機械は動かせなくても、材料・部品・治具・完成品の置き場は動かせます。棚も、パレットも、コンテナも、キャスター台も動きます。

やり方はシンプルで、いちばん往復している材料だけを、その機械のすぐ横に置く。全部の材料を動かすのではありません。丸をつけた線に関係する材料だけです。

置き場所がないと感じたら、たいていその周りに「今動いていないもの」が置かれています。半年動いていない治具、いつか使うかもしれない端材、前の客先の仕掛品。まずそこを空けるところから始めると、置き場は意外と出てきます。

工具や治具まわりの整理をあわせてやるなら、工具・治具の置き場を決めて、探す時間を減らす方法 に手順をまとめています。

2. 運ぶ回数を、まとめて減らす

同じところを1日40回往復しているなら、1回に運ぶ量を増やせないかを考えます。

小さなコンテナで5個ずつ運んでいるなら、キャスター付きの台に20個載せる。手で抱えているなら、台車を1台その工程に固定してしまう。台車を「共用」にすると、探す時間が増えるので、よく使う工程には専用で1台置くほうが結果的に安く済みます。

ただし、まとめすぎには気をつけてください。1回に運ぶ量を増やすと、工程の途中で待っている仕掛品が増えます。仕掛品が増えると、不良が見つかったときにまとめて作り直しになる。このバランスの考え方は 仕掛品の滞留を減らす、工程間の受け渡しの工夫 が近い話です。

目安としては、次の工程が半日で消化できる量までにしておくと、大きく外しません。

3. 通路を空けて、線をまっすぐにする

線が絡まる原因の半分は、配置ではなく通路にモノが置かれていることです。

まっすぐ行けるはずのところを、パレットを避けて遠回りする。台車がすれ違えなくて待つ。これは配置の問題ではないので、片付けるだけで直ります

やることは1つだけ。主要な通路に、床のテープで線を引く。そして、その内側にはモノを置かない、と決めます。テープ1本で、翌週からの動きが変わることがあります。

「置く場所がないから通路に置いている」という現場も多いと思います。その場合は、通路を全部空けようとせず、丸をつけた1本の線が通る通路だけを先に空けてください。全部やろうとすると、たいてい途中で止まります。

機械を動かすかどうかは、後から決める

ここまでの3つを1週間試したら、もう一度3日数えます。

回数が減っていれば、それで十分です。減らなければ、そこで初めて「機械の配置そのものを見直すか」を考えます。

機械の移設を検討するときに、先に確認しておきたいのはこのあたりです。

移設は、加工機の精度に関わる作業です。据付やレベル出しは、機械メーカーや専門業者に相談したほうが確実な部分があります。自社でどこまでやるかを先に決めておくと、当日の判断が減ります。

そして、機械を動かすなら、加工の流れの順番に並べるのが基本の考え方です。切る→削る→洗う→測る→出す。この順に近づけるほど、線は短くなります。とはいえ、多品種少量の現場では流れが品物ごとに違うので、いちばん本数の多い品物の流れに合わせるのが現実的です。

工程全体の詰まりを見るなら ボトルネック工程の見つけ方と、負荷を平らにする手順、納期そのものを縮める視点は 受注から納品までのリードタイムを短縮する着眼点 にまとめています。

明日やること

明日できる範囲まで小さくすると、こうなります。

  1. A4を1枚、作業場の柱に貼る(「いつ・どこからどこへ・正の字」だけ)
  2. その週いちばん動いている人に、3日だけ書いてもらう
  3. 3日後に集計して、回数の多い往復を1本選ぶ
  4. その往復に関係する材料か治具を1つだけ、機械のすぐ横へ動かす
  5. 動かせないなら、その通路のパレットを1枚どける
  6. 1週間後、また3日数える
  7. 減っていたら、次に多い1本へ進む

7番まで行けば、それはもう改善が回り始めています。1本目で劇的に減らなくても、気にしなくて大丈夫です。線が見えるようになったこと自体が、いちばん大きな変化です。

チェックリスト

自分の現場で確認するときは、上から順に見てみてください。

13個そろっている現場は、まずありません。 上から3つに丸がつけば、今週の分としては十分です。

よければ、こちらも

片付いて広くなった通路を、部品を載せた台車が短い距離ですっと通っていく明るい町工場の情景。作業者が満足そうに見ている

工場のレイアウトは、たいてい「そのときいちばん良かった形」で組まれています。機械を買った順番、仕事が増えた順番、人が入った順番。その積み重ねでできた配置なので、絡まっているのは誰のせいでもありません

そして、絡まりに気づけるのは、毎日そこを歩いている人だけです。図面を見ているだけの人には見えません。今日、台車を押しながら「これ、遠いな」と思ったなら、それは現場の人にしか出せない改善のネタです。

まずは紙を1枚、柱に貼るところから。正の字が3日ぶん並んだら、それだけで次にやることは決まります。