
展示会で渡す一枚もの、町工場の会社案内の作り方
展示会に出ることになった。あるいは、久しぶりに新しい相手と商談することになった。 そんなとき、「渡せる会社案内がない」と気づいて、少し慌てた経験はありませんか。
昔作った会社案内は情報が古い。かといって、印刷会社に頼んで立派なパンフレットを作る時間もお金もない。名刺だけ渡して帰ってきたけれど、あとで「あの工場、何ができるんだっけ」と忘れられていないか気になる——。技術に自信があっても、それを一枚の紙で伝える準備までは、なかなか手が回らないものです。
結論:展示会や商談で渡す会社案内は、分厚いパンフレットでなくて大丈夫です。A4一枚に、①何が得意な工場か、②具体的にできること(設備・材質・ロット・納期)、③加工事例の写真、④「こんな困りごとの方へ」の呼びかけ、⑤連絡先——この5つが入っていれば十分に役目を果たします。凝ったデザインより、相手が「自分の困りごとを頼めそう」と分かることが大事です。まず今ある材料で一枚作り、渡しながら直していきましょう。
会社案内というと、表紙があって、社長挨拶があって、沿革があって……という何ページもの冊子を思い浮かべがちです。 でも、展示会や飛び込みの商談で相手が実際に見るのは、そのうちのほんの一部です。多くの人は、もらった資料をあとでざっと見て、「何ができる会社か」だけを確かめます。
だからまず作りたいのは、立派な冊子ではなく、A4一枚で「うちはこれができます」が伝わる紙です。 その一枚に何を載せるか、順番に整理していきましょう。
何が起きているか
会社案内が用意できていない現場には、よく似た事情があります。
日々の加工で手一杯で、自社を紹介する資料まで作る時間がない。 「デザインができないと、ちゃんとした会社案内は作れない」と思って、手が止まってしまう。 昔の会社案内はあるけれど、設備も取引先も変わっていて、今の自社と中身が合っていない。 そして展示会や商談の場では、口頭で説明するしかなく、相手の手元に何も残らない。
これらの多くは、伝える力がないからではありません。 「会社案内はきちんとしたものでなければ」という思い込みが、一歩目を重くしているだけ、ということが多いのです。
展示会で一日に何十社もの資料を受け取った相手が、あとで思い出せるのはごくわずかです。 そのとき手元に、写真付きで「何ができるか」が分かる一枚が残っていれば、それだけで思い出してもらえる可能性がぐっと上がります。豪華さより、「見返したときに用件が分かること」のほうが、ずっと仕事につながります。
まず、一枚に載せる5つの中身を決める

一度に完成品を目指さず、まずは載せる中身を箇条書きで決めてしまいましょう。 A4一枚に入れたいのは、次の5つです。
1. 何が得意な工場か(一番上に、短く一文で) 「小ロット・特急の金属加工の相談先」「難削材の精密切削が得意な町工場」のように、相手が最初に見る場所に、得意分野を一文で置きます。ここが決まると、あとの流れも作りやすくなります。
2. 具体的にできること 設備、対応できる材質、加工方法、ロットの目安、納期の目安を短く並べます。「〜が得意」だけでは相手は判断できません。「アルミ・ステンレスの切削/1個〜対応/最短◯日」のように、頼めるかどうかを判断できる材料を出します。
3. 加工事例の写真(2〜3点) 文章より、実際に作ったものの写真が一番伝わります。「どんな形のものを、どんな用途で作ったか」を短い説明とともに載せます。守秘義務のある案件や取引先名は伏せ、事前に許可を得たものだけにしておくと安心です。
4. 「こんな困りごとの方へ」の呼びかけ 「他で断られた小ロットでお困りの方へ」「試作から相談したい方へ」など、相手の困りごとの言葉で呼びかけます。主語を「うち」から「相手」に変えるだけで、ぐっと自分ごとに感じてもらえます。
5. 連絡先と、問い合わせへの返信の目安 会社名、担当者、電話、メール、あれば自社サイトのアドレス。「お問い合わせには◯営業日以内にお返事します」と一言添えると、連絡するハードルが下がります。
この5つを紙に書き出すだけで、会社案内の骨組みはできあがりです。
見た目より、「用件が分かること」を優先する

中身が決まったら、一枚に配置します。ここでつい、あれもこれもと詰め込みたくなりますが、ぐっとこらえます。
文字は、読ませるより「拾ってもらう」つもりで。 相手はじっくり読みません。見出しと写真だけで用件が分かるくらいがちょうどいいです。設備の型番をずらりと並べるより、「何に使える設備か」を一言添えるほうが伝わります。
余白を怖がらないこと。 空いている場所を埋めようとすると、かえって読みにくくなります。要点を絞って余白を残したほうが、忙しい相手にもすっと入ります。
デザインは、パワポやワード、無料のテンプレートで十分です。 きれいなロゴや凝ったレイアウトがなくても、写真がきちんと写っていて、文字が読みやすければ役目は果たせます。まずは白い紙に、得意分野・できること・事例・呼びかけ・連絡先を、この順番で置いてみましょう。
なお、載せる内容は事実にとどめます。「業界No.1」「日本一の精度」といった、根拠を示せない最上級の言葉は避けます。比べて勝とうとしなくても、「こういう困りごとなら力になれます」と具体的に示すほうが、かえって信頼されます。対応できる材質・ロット・納期の目安も、実際にできる範囲で正直に書いておくと、あとで話がかみ合わないトラブルを防げます。
渡したあと、反応を見て一枚を育てる
会社案内は、一度作って終わりではありません。渡しながら育てていくものです。
展示会や商談で渡すと、相手の反応が返ってきます。 「この事例に興味を持ってもらえた」「この一言で質問が来た」「ここは伝わっていなかった」——そうした手応えが、次の版をよくするヒントになります。
刺さった事例は前のほうに移す。あまり見られていない情報は削る。よく聞かれる質問への答えを一言足す。 そうやって少しずつ直していくと、渡すたびに伝わりやすい一枚になっていきます。最初から完璧を目指さず、「今ある材料でまず一枚」を合言葉にしましょう。
渡すときのひと工夫として、名刺と一緒にこの一枚を添えるだけでも、相手の手元に残る情報の量がまるで変わります。口頭で話したことは忘れられても、写真付きの一枚は、机の上や引き出しに残って、思い出すきっかけになってくれます。
一枚もの会社案内づくりのチェックリスト
忙しい日でも回せるよう、二段に分けました。上の最低ラインだけでも、渡したときの伝わり方は変わってきます。
まずはここだけ(最低ライン)
- 得意分野を、一番上に短く一文で書いたか
- できること(設備・材質・ロット・納期の目安)を並べたか
- 加工事例の写真を2〜3点入れたか(守秘は伏せる)
- 連絡先と担当者を分かりやすく載せたか
余力があれば
- 「こんな困りごとの方へ」と相手の言葉で呼びかけたか
- 文字を詰め込みすぎず、余白を残したか
- 「日本一」など根拠のない最上級の表現を避けているか
- 材質・ロット・納期を、実際にできる範囲で正直に書いたか
- 事例に載せる取引先名・写真の許可を確認したか
- 問い合わせへの返信の目安を一言添えたか
全部を一度にそろえなくて大丈夫です。 まずは「うちの得意分野を一文で書く」ところから。それだけでも、次に人と会うときに渡せる一枚に近づきます。余力のある項目は、手が空いた日に少しずつで構いません。
よければ、こちらも
- 会社案内に載せる「得意分野」がうまく言葉にならないときは、新規開拓の前に、自社の強みを言葉にする3つの問い が土台になります。
- 加工事例をもっと問い合わせにつなげたいときは、自社サイトに加工事例を載せて問い合わせを増やす整え方 もあわせてどうぞ。

会社案内づくりは、立派な冊子を作ることでも、デザインの腕を競うことでもありません。 自分たちが何をできて、それが誰の役に立つのかを、一枚の紙に正直にまとめる。それだけで、渡した相手の記憶に残り、価格だけでは比べられないきっかけを作ってくれます。
派手ではなくても、日々こなしてきた加工の一つひとつが、その一枚に載せられる確かな実績です。 今日、「うちの得意分野」を一文で書き出せたなら、その会社案内はもう作り始まっています。