
工場の間接費を製品原価にのせる。配賦の考え方をやさしく整理
「材料費と加工の工賃までは出せる。でも、家賃や電気代、事務や管理の人の給料は、見積のどこにのせればいいんだろう」。 原価を細かく詰めていくほど、この目に見えにくい費用の扱いで手が止まりますよね。
直接その部品にかかったわけではない。 でも、工場を動かしている以上、確かにかかっているお金です。 これを見積に入れ忘れると、一品ごとは利益が出ているように見えて、年間で締めると手元に残らない——そんなことが起きます。
この記事では、工場の間接費を製品原価にのせる「配賦(はいふ)」の考え方を、現場でまず一つの数字から始められる順番で一緒に整理します。
結論:間接費の配賦は、いきなり費目ごとに細かく分けなくて大丈夫です。まず「1年間の間接費の合計」を出し、それを「1年間の総作業時間」で割って、1時間あたりいくらのせるかという数字を1つ作ります。見積のときは、その部品の加工時間にこの数字を掛けて足すだけ。精度を上げるのは、この1つの数字が回り始めてからで十分です。
配賦と聞くと会計の難しい話に感じますが、現場でやることはシンプルです。 「工場を1時間動かすと、材料と工賃のほかに、いくら費用がかかっているか」を1つの数字にする。それだけです。
まず、次の順で1つの数字を作ります。
- 1年間の間接費をざっくり合計する(家賃・光熱費・間接部門の人件費・減価償却・保険など)
- 1年間の総作業時間を出す(現場の人が実際に加工していた時間の合計)
- 合計の間接費 ÷ 総作業時間 で「1時間あたりの配賦額」を出す
この1つが決まってから、部門別・設備別へと細かくしていきます。 最初から費目ごと・機械ごとに分けようとすると、集計だけで力尽きてしまいます。
配賦とは — 「直接ひもづかない費用」をみんなで分け合うこと

原価は、大きく2つに分かれます。
- 直接費:その部品に直接ひもづく費用。材料費、その加工にかかった作業者の工賃など。
- 間接費:工場全体を動かすためにかかるが、どの部品にいくら、と直接は分けられない費用。
間接費(かんせつひ)というのは、家賃や光熱費のように「工場を動かすための共通の費用」のことです。 どの部品のために使ったかを1円単位で分けるのが難しいので、いったん全部まとめてから、なんらかの物差しで各製品に振り分けます。この振り分けが配賦です。
町工場でよく間接費に入るものを挙げると、次のようなものです。
- 工場・事務所の家賃(自社所有なら固定資産税・修繕費など)
- 電気・ガス・水道などの光熱費(特定の機械の電力を個別に測っていない分)
- 現場を直接動かしていない人の人件費(社長・工場長・事務・営業・検査専任など)
- 機械や設備の減価償却費(購入費を使う年数で割った、その年の負担分)
- 消耗品・工具・保険・通信費など、共通でかかるもの
大事なのは「正確に1円まで分ける」ことではありません。 入れ忘れなく、だいたい妥当な物差しで分けること。ここがそろっているだけで、見積の芯がしっかりします。
なぜ配賦しないと、利益が静かに消えるのか
配賦をしないと、見積は「材料費+工賃」だけになります。 一見それで利益が出ているようでも、家賃や光熱費、事務の人の給料は、その裏で毎月確実に出ていきます。
たとえるなら、部品ごとの帳簿では黒字なのに、会社の通帳は増えていない状態です。 月末に「思ったより残っていないな」と感じるとき、この配賦されていない間接費が原因のことは少なくありません。
とくに次のような案件で、間接費ののせ忘れは効いてきます。
- 単価の安い量産品を、工賃ぎりぎりで受けているとき
- 段取りや検査に時間がかかる部品を、加工時間だけで見ているとき
- 「暇なよりマシ」と、原価すれすれで受けた仕事が続いたとき
間接費は、受注が少ない月でも減りません。 だからこそ、一品ずつの見積に少しずつのせて、みんなで負担しておく必要があります。
明日やること — 1時間あたりの配賦額を1つ出す
ここからは、実際に手を動かす部分です。 数字は例なので、自社の帳簿の数字に置き換えてください。決算書や試算表があれば、そこから拾えます。
① 1年間の間接費を合計する
昨年の1年分で、間接費に当たるものをざっくり足します。1円まで合わせなくて大丈夫です。
- 家賃:120万円
- 光熱費:180万円
- 間接部門の人件費(社長・事務・検査など):600万円
- 減価償却・保険・消耗品など:100万円
- 合計:1,000万円/年
② 1年間の総作業時間を出す
現場の人が実際に「加工していた時間」の合計を出します。 たとえば現場3人が、年間の実働のうち加工に使う時間をならして1人あたり年1,670時間ほどとすると、3人で約5,000時間です。有給や会議、手待ちの時間は引いて考えます。
- 総作業時間:5,000時間/年
③ 1時間あたりの配賦額を計算する
間接費の合計を、総作業時間で割ります。
- 1,000万円 ÷ 5,000時間 = 1時間あたり2,000円
つまり、工場を1時間動かすたびに、材料と工賃のほかに2,000円の間接費がかかっている、ということです。
④ 見積にのせる
見積では、その部品の加工時間に、この配賦額を掛けて足します。
- 加工時間が3時間の部品なら:3時間 × 2,000円 = 6,000円 を間接費として上乗せ
- これを「材料費+工賃」に足したものが、その部品の原価の目安になります
すでに加工賃を「時間チャージ(賃率)」で出している工場なら、このチャージの中に間接費を含める形にすると、二重計上を防げてすっきりします。チャージの組み立て方は 加工賃の時間チャージを自社で計算する手順 で整理しています。
もう少し精度を上げたくなったら
1時間あたり1つの数字で回り始めたら、少しずつ実態に近づけます。ただし、これは余裕が出てからの任意項目です。
物差しを「作業時間」以外にする。 自動運転の機械が多い工場では、人の作業時間より「機械の稼働時間」で割ったほうが実態に合うことがあります。人手中心なら作業時間、設備中心なら機械時間、と選びます。
高い機械だけ別の配賦率にする。 大型のマシニングやレーザーなど、償却費や電気代が飛び抜けて高い設備は、その機械の時間だけ配賦率を高くすると、見積の精度が上がります。まずは1〜2台の主力設備からで十分です。
年に1回、実績で見直す。 決算のあとに「実際の間接費の合計」と「実際の総作業時間」で割り直し、翌年の配賦額を更新します。毎月やる必要はありません。年1回、数字を入れ替えるだけで、だんだん自社の実態に合っていきます。
見積の原価と、実際にかかった原価がズレていないかを振り返る習慣があると、この見直しがしやすくなります。振り返り方は 実際原価と見積原価の差を月次で振り返る仕組み にまとめています。
間接費を見積にのせるチェックリスト
全部を一度にやろうとすると、特に一人・少人数で見積を担う人には重くなります。まずは最低ラインの2点だけ満たせば及第。残りは余裕があるときや、大きい見積のときの任意項目と考えてください。
最低ライン(ここだけは)
- 見積が「材料費+工賃」だけで終わっていないか
- 1年間の間接費 ÷ 総作業時間 で「1時間あたりの配賦額」を1つ出しているか
余裕があれば/大きい見積のとき
- 間接費の合計に、間接部門の人件費(社長・事務・検査など)を入れているか
- 減価償却・保険・消耗品など、見えにくい費用を拾えているか
- 総作業時間から、会議・手待ち・有給などの非加工時間を引いているか
- 加工賃のチャージに含める場合、間接費を二重にのせていないか
- 高い主力設備は、別の配賦率にしたほうが実態に合わないか
- 年に1回、決算の実績で配賦額を見直しているか
配賦率のもとになる家賃や光熱費、人件費は、年によって変わります。 とくに電気・燃料の単価は動きやすいので、大きく変わった年は、次の見積に反映する前に最新の数字で割り直しておくと安心です。電気代・燃料費の反映は 電気代・燃料費の高騰分を見積に反映する考え方 でも触れています。
よければ、こちらも
- 間接費を含めた工賃そのものの決め方は、加工賃の時間チャージを自社で計算する手順 で順を追って整理しています。
- 見積で抜けやすい費用をまとめて点検したいときは、見積で見落としがちな原価 もあわせてどうぞ。

間接費の配賦は、一度で完璧な数字を出す計算ではありません。 まず1つの数字を作って、年に一度、実績で少しずつ合わせていくものです。
目に見えにくい費用まで見積にのせようとする今日のひと手間が、月末の通帳を静かに守っています。 1時間あたりの配賦額を1つ出そうとしているなら、その見積はもう一歩、利益の残る形に近づいています。