
不良品の識別・隔離のやり方。後工程への流出を防ぐルール
「あれ、これさっき不良ではじいたやつじゃないか」。 台の上に置いておいた不良品が、いつの間にか良品の箱に紛れそうになっていた——そんなヒヤリとした瞬間は、ものづくりの現場では珍しくありません。
不良は、見つけた時点では止まっています。 でも、見つけたあとに「どこに置くか」「誰がどう分けるか」が決まっていないと、忙しさの中でまた良品の流れに戻ってしまう。そして後工程やお客さまのところで見つかると、話が一気に大きくなります。
不良を出さないこと自体はもちろん大事です。 ただ、どんな現場でも不良はゼロにはなりません。だからこそ、「出た不良を、その先へ流さない」という守りが、同じくらい大事になります。 この記事では、不良品をきちんと識別(見分けられる印をつける)して、隔離(良品と分けて置く)し、後工程に流さないためのルールを、まず1つから始められる形で一緒に整理します。
結論:後工程への流出を防ぐコツは3つだけです。①不良品には「見て分かる印」をつける(赤タグ・赤箱・赤マジックなど、良品と色で分ける)、②不良品専用の「置き場」を決める(良品の近くに置かず、フタや仕切りで戻れなくする)、③不良品を動かすときの「持ち出しルール」を決める(勝手に良品へ戻さない・処置が決まるまで隔離場所から出さない)。この3つを、いちばん流出が怖い工程から順に手を打っていきます。
むずかしい設備はいりません。赤いテープ、フタ付きの箱、「不良品」と書いた札。今ある物で今日から始められます。
何が起きているか — 「止めた不良」が、また流れに戻る

不良品の流出は、多くの場合「検査で見抜けなかった」ことより、「見つけた不良の扱いが決まっていない」ことから起きます。
不良が後工程へ流れてしまう現場には、だいたい次のような共通点があります。
- 不良品と良品が、見た目で区別できないまま同じ台の上に置かれている
- 不良を「とりあえずここに置いておく」だけで、専用の置き場がない
- 不良品を、あとで「直せるかも」と良品の近くに戻してしまう
- 誰が不良と判断し、どう処置するか(廃棄・手直し・特別採用)が決まっていない
どれも、人が不注意なのではありません。見つけた不良が「また流れに戻れる状態」で置かれているだけです。 だから対策も、「気をつけて分ける」ではなく、「戻したくても戻せない」形に変えていきます。
現場では、この「不良品を良品と分けて、まぎれないようにすること」を識別・隔離と呼びます。難しく考えず、識別=「これは不良だと見て分かる印をつけること」、隔離=「良品と混ざらない場所に分けて置くこと」だと思ってください。
具体例で見る — 赤タグと赤箱で「戻れなくする」
たとえば「寸法外れの部品を、良品の完成箱に入れかけた」というヒヤリ。
- 現象:検査ではじいた不良品を作業台の端に置いたまま、次の加工に入った。手が空いたとき、どれが不良か分からなくなり、良品の箱に入りそうになった
- なぜ起きやすいか:不良品にも良品にも印がなく、置き場も同じ台の上で混ざっていた
- 打った手(識別):不良品には必ず赤い識別タグを1枚つける。品番・不良内容・日付を一言だけ書く
- 打った手(隔離):作業台に「不良品」と書いた赤いフタ付きの箱を1つ置き、はじいた瞬間にそこへ入れる
これで、疲れている日でも「赤タグのないもの=まだ判定していない/赤箱の中=不良品」と目で分かります。 人の注意力を上げたのではなく、不良が「見えて・戻れなく」なったわけです。
もう一つ、「手直しすれば使えそうな品を、良品と一緒に流してしまった」というミス。
- 現象:「あとで直せる」と思った品を良品の近くに置き、直す前に次の工程へ一緒に運ばれてしまった
- 打った手(持ち出しルール):手直し待ちの品は「手直し」と書いた別の置き場に入れ、直して再検査で合格するまで良品には戻さない
- 打った手(判定を決める):廃棄・手直し・特別採用(客先了承のうえ使う)のどれにするかを、リーダーが1日1回まとめて判定する
ここで大事なのは、対策を一度に全部やらないことです。 まずは一番流出が怖い工程で、「赤タグをつける」か「赤箱を1つ置く」か、片方から始めれば十分です。
影響 — 流出は、あとで何倍にもなって返ってくる
不良の流出を「気をつける」で止めようとすると、対策も「次から注意する」で終わりがちです。 すると、しばらくは収まっても、人が入れ替わったり、忙しさが重なったりしたときに、また不良が良品にまぎれてしまいます。
後工程やお客さまのところで不良が見つかると、負担は静かに膨らみます。 現場で1個止められれば手直し1個で済んだものが、流れてしまうと、選別のやり直し、客先へのお詫び、是正報告書の作成、場合によっては同じロット全部の検査し直しにまで広がります。時間も、材料も、信頼も、まとめて削られてしまうのです。
逆に、「見て分かる印」と「専用の置き場」を用意しておくと、流出は人に依存しにくくなります。 赤タグをつける。赤箱に入れる。手直し品は別に置く。こうした小さな仕組みが一つ増えるたびに、「まぎれさせないよう気を張る」しんどさが少しずつ減っていきます。
新しく入った人が早くなじめるのも、こうした現場です。 「どれが不良で、どこに置くか」が見れば分かる状態になっているぶん、教える側も楽になります。
明日やること — 「赤い印」と「専用の箱」を1つから
大がかりに始めなくて大丈夫です。まずは、いちばん流出が怖い工程を1つだけ思い浮かべてください。
- 対象を一つに絞る
- 「どの工程で・どんな不良が・どこに流れると困るか」を一行で書く
- 流出のヒヤリが多い順に、まず1件だけ選ぶ(欲張らない)
- 識別する(見て分かる印をつける)
- 色を決める:不良品は赤で統一(赤タグ・赤箱・赤マジックのどれか)
- タグに一言:品番・不良内容・日付を短く。「なぜ不良か」が後で分かる程度で十分
- 良品と色を変える:良品側は無地や別色にして、赤=流さない、を一目で
- 隔離する(専用の置き場を決める)
- 不良品専用の箱・トレーを1つ用意し、はじいた瞬間にそこへ入れる
- 良品の近くに置かない:フタ付き・別の棚など、うっかり戻せない場所に
- 「手直し待ち」は別枠に:良品でも不良品でもない中間の置き場を分ける
- 流さないルールを決める(持ち出しの約束)
- 良品へ戻すのは、再検査で合格したものだけ、と決める
- 処置(廃棄・手直し・特別採用)が決まるまで、隔離場所から勝手に出さない
- 判定する人を決める:迷ったら止めて、リーダーが1日1回まとめて判定する
- 効果を一度だけ確かめる
- 手を打ったあと、良品への混入や後工程からの差し戻しが減ったかを2〜4週間ゆるく見る
- 減っていなければ、置き場をもっと離す・フタをつけるなど一段だけ強める
- うまくいったら横に広げる
- 同じやり方が効きそうな別の工程に、赤箱と赤タグをコピーする
- 「うちはこう分けている」を写真1枚で残すと、次の人に引き継ぎやすい
対策は、たくさん並べるほど守られなくなります。 まずは一点、赤箱を1つ置くか、赤タグを1種類決めるか。今日できる一手から始めれば十分です。
不良品の識別・隔離チェックリスト(コピーして使えます)
「全部やる」を目指さず、流出が怖い一点から順に潰していきます。まずは「今日やる最低ライン」の3つに集中してください。
今日やる最低ライン(この3つだけ)
- 流出がいちばん怖い工程を1つに絞った(どの工程・どんな不良か一行で)
- 不良品に「赤い印」をつけると決めた(赤タグ・赤箱・赤マジックのどれか)
- 不良品専用の置き場を1つ用意した(良品の近くに置かない)
余裕が出たら、ここから先へ
- タグに品番・不良内容・日付を一言書くようにした
- 「手直し待ち」を良品とも不良品とも別の枠にした
- 良品へ戻すのは再検査で合格したものだけ、と決めた
- 廃棄・手直し・特別採用の判定を、誰がいつするか決めた
- 2〜4週間、混入や差し戻しが減ったかをゆるく確認する予定を決めた
深追いしない目安
- 単発・軽微で、後工程に流れても大きな影響がないものは、「最低ライン3つ」で一区切りにしてよい
- 客先クレーム・安全に関わる・同じ流出が3回以上は、置き場やルールを一段しっかり作る
迷ったときの原則
- 「気をつける」で終わらせない。「戻したくても戻せない」形(色分け・専用置き場)を一つ足す
全部を一度にそろえなくて大丈夫です。 まずは「不良品に赤い印をつけて、専用の箱に入れる」。この一つを足すだけで、後工程への流出はぐっと減ります。
よければ、こちらも
- そもそもの見落としを減らす検査のつくり方は、検査表のつくり方、まず決めたい3つの項目で整理しています。
- 段取り替え直後の不良を作り込まないためには、初物検査のやり方、段取り替え後の一手もあわせてどうぞ。
- 流出してしまったあとの対応は、クレーム発生時の初動と是正報告書の書き方で落ち着いて進められます。

不良品が後工程に流れてしまうのは、あなたの現場の注意力が足りないからではありません。 見つけた不良が「また良品の流れに戻れる状態」で置かれている——その「まぎれやすい状態」が、まだ残っているだけです。
派手ではなくても、赤い印を1つつける、専用の箱を1つ置く。その小さな一手が、後工程とお客さまへの信頼を静かに守っています。 今日、流出が怖い一点に気づけたなら、その現場はもう前に進んでいます。