
工程能力(Cp・Cpk)の出し方。30個測ってばらつきを数字にする手順
客先からのメールに、こう書いてあった日。
「量産前に、工程能力を提出してください」
図面は読めるし、加工もできる。検査もやっている。 でも、工程能力と言われた瞬間だけ、手が止まる。
なんとなく「統計の話だ」というのはわかる。ネットで調べると、σ(シグマ)だの正規分布だの、学校で見たような記号が出てくる。読んでいるうちに、だんだん自分の現場の話に見えなくなってくる。
でも、正直なところ、工程能力の計算そのものは、そんなに難しくありません。難しく見えるのは、説明が統計の言葉で書かれているからです。
やることを現場の言葉に直すと、こうです。
「同じ設定で作った30個を測って、寸法が図面の許容範囲のどのへんに、どれくらい散らばって収まっているかを、数字1つで表す」
それだけです。この記事では、その1つの数字の出し方を、Excelの操作まで含めて順番に見ていきます。
結論:やることは4つです。①連続して作った30個を、途中で調整せずに測る ②Excelで平均と標準偏差を出す(関数2つ)③Cp と Cpk を式に入れて計算する ④ヒストグラム(山の形のグラフ)を描いて、山の形を見る。①〜③は30分もかかりません。そして、いちばん大事なのは④です。
何が起きているか──「不良ゼロ」でも安心できない理由
先に、工程能力という言葉が何のためにあるのかを整理させてください。ここがわかると、あとの計算がぐっと楽になります。
たとえば、φ20±0.05(19.95〜20.05mm)の穴を100個あけたとします。全部測って、全部OKでした。不良ゼロです。
このとき、次の2つの現場は、どちらも「不良ゼロ」です。
- A社:測った値が 19.99〜20.01 の間にきれいに収まっている
- B社:測った値が 19.96〜20.049 まで、規格ギリギリまで散らばっている
数字の上ではどちらも合格です。でも、来月も同じ結果になりそうなのは、どう見てもA社のほうですよね。B社は、材料のロットが変わったり、刃物が少し摩耗したりしただけで、あっさり規格から外れます。
工程能力は、この「余裕の量」を数字にしたものです。
客先が工程能力を求めてくるのは、意地悪ではありません。「今回のロットが良かった」ではなく、「この工程なら、来月も再来月も大丈夫そうだ」を知りたいからです。逆に言えば、この数字を自分で出せるようになると、社内でも「この加工は綱渡りです」と根拠をもって言えるようになります。
ちなみに、公差そのものの読み方が不安なときは 図面の公差を現場で読み違えないための見方 と用語ページの 公差とは が土台になります。
手順1:連続して作った30個を、調整せずに測る
計算より先に、データの取り方です。ここを間違えると、あとの数字が全部意味を持たなくなります。
集めるときのルールは3つだけです。
連続して作ったものを測る
朝の10個、昼の10個、夕方の10個、ではありません。同じ設定・同じ材料ロットで、続けて作ったものを測ります。途中で刃物を替えたり、オフセットを直したりしたら、そこで一度区切ってください。
途中で直さない
これがいちばん引っかかるところです。測っていて「あ、少し大きくなってきたな」と気づくと、つい機械の設定を直したくなります。気持ちはよくわかります。
でも、直してしまうと、その工程が本来どれだけ散らばるのかがわからなくなります。工程能力を出すための30個だけは、手を入れずに通してください。もちろん、規格から外れそうなら止めて構いません。そのときは「この工程は30個も続けて流せない」という、それ自体が大事な情報です。
選別した後のものを測らない
全数検査をして、はねたものを除いた残りを測ると、当たり前ですが「全部規格内」になります。この数字で工程能力を出しても、工程の実力ではなく、検査の実力を測っていることになります。測るのは、選別する前のものです。
抜き取りと全数の考え方は 工程内検査の抜き取りと全数検査の使い分け に整理しています。
個数の目安:最低30個です。50〜100個あれば、山の形がはっきり見えて判断しやすくなります。ただ、いきなり100個は大変なので、まず30個で1回やってみるのがおすすめです。1回通せば、次からは流れがわかります。
もうひとつ。測定器そのものがばらついていると、工程のばらつきと区別がつきません。同じ1個を3回測って、値がそろうかだけ先に確かめておくと安心です。ノギスやマイクロメータの点検は 測定器(ノギス・マイクロメータ)の校正と日常点検 にまとめました。
手順2:Excelで平均と標準偏差を出す
30個の測定値が集まったら、Excelを開きます。使う関数は2つだけです。
A列に、測定値を縦に入力します(A2からA31まで、30個)。そして、空いているセルに次を入れます。
| 出したいもの | 入れる式 | 意味 |
|---|---|---|
| 平均 | =AVERAGE(A2:A31) | 30個の真ん中の値 |
| 標準偏差 | =STDEV.S(A2:A31) | ばらつきの大きさ |
標準偏差(σ・シグマ)というのは、「値が平均からどれくらい散らばっているか」を表す数字です。全部の値が平均の近くにかたまっていれば小さく、バラバラなら大きくなります。それだけ押さえておけば、この記事では十分です。
STDEV.S の最後の S は「標本(Sample)」の意味です。手元の30個は、これから作る全部の製品のうちの一部を取り出したものなので、こちらを使います。よく似た STDEV.P もありますが、現場の工程能力では STDEV.S を使うのが一般的です。
ここでは、次の結果が出たとして話を進めます。
- 図面の指示:φ20±0.05(下限 19.95 / 上限 20.05)
- 平均:20.010
- 標準偏差:0.012
手順3:CpとCpkを計算する
数字が2つ出たら、あとは式に入れるだけです。似た記号が2つ出てきますが、見ているものが違います。
Cp(シーピー)= ばらつきの大きさだけを見る
Cp =(上限 − 下限)÷(6 × 標準偏差)
さっきの数字を入れます。
- 上限 − 下限 = 20.05 − 19.95 = 0.10
- 6 × 0.012 = 0.072
- Cp = 0.10 ÷ 0.072 = 約1.39
Cpは、規格の幅に対して、ばらつきの幅がどれくらい小さいかだけを見ています。山が規格の真ん中にあるか端に寄っているかは、いっさい見ていません。
Cpk(シーピーケー)= 中心のズレも入れて見る
上側 =(上限 − 平均)÷(3 × 標準偏差)
下側 =(平均 − 下限)÷(3 × 標準偏差)
Cpk = 上側と下側の、小さいほう
同じ数字で計算します。
- 上側 =(20.05 − 20.010)÷ 0.036 = 0.040 ÷ 0.036 = 約1.11
- 下側 =(20.010 − 19.95)÷ 0.036 = 0.060 ÷ 0.036 = 約1.67
- Cpk = 小さいほうを取って 約1.11
Excelで一気に出すなら、こう書けます(B1に平均、B2に標準偏差、B3に上限、B4に下限が入っている場合)。
Cp =(B3-B4)/(6*B2)
Cpk =MIN((B3-B1)/(3*B2),(B1-B4)/(3*B2))
この2つの差が、いちばん大事な情報
Cpは1.39なのに、Cpkは1.11でした。この差が、狙いのズレそのものです。
ばらつきの幅(Cp)は十分なのに、山が上限側に寄っているせいで、Cpkが下がっている。つまりこの工程は、腕が足りないのではなく、狙いが少しずれているだけなんです。
ここが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。
仮に、ばらつきはそのままで、平均だけを20.000(規格の真ん中)に寄せたらどうなるか。
- 上側 =(20.05 − 20.000)÷ 0.036 = 0.050 ÷ 0.036 = 約1.39
- 下側 も同じく 約1.39
- Cpk = 約1.39
Cpkが1.11から1.39まで上がりました。 しかも、やったことは工具のオフセットを0.010mm動かしただけです。設備を買い替えたわけでも、腕を上げたわけでもありません。
ばらつき(Cp)を小さくするのは、機械の精度や刃物や治具の話になるので、時間もお金もかかります。でも、中心を規格の真ん中に寄せるのは、たいてい今日できます。Cpkが低いと言われたら、まずCpと見比べて、「ばらつきの問題か、中心の問題か」を分けてください。中心の問題なら、明日直せます。
数字をどう読むか
出た数字の目安です。ただし、これは一般的によく使われる目安であって、絶対の基準ではありません。
| Cpkの値 | 一般的な受け取られ方 |
|---|---|
| 1.33以上 | 余裕がある。多くの客先が求める水準 |
| 1.00〜1.33 | 規格内には入っているが、余裕は少なめ |
| 1.00未満 | 条件が少しずれると規格から外れやすい |
大事な注意が2つあります。
ひとつは、要求される水準は客先によって違うことです。1.33のところもあれば、重要保安部品などで1.67を求められることもあります。自社で勝手に決めず、図面の指示・品質協定書・客先の担当者に確認してください。「業界標準は1.33なので」と自己判断で進めると、あとで作り直しになります。
もうひとつは、数字が低くても、それは現場の努力不足ではないということです。そもそも公差が厳しすぎる図面もあります。その設備では原理的に届かない精度もあります。数字が低いとわかったら、それは「この条件では無理があります」と客先に相談できる材料になります。責められるための数字ではなく、話をするための数字です。
手順4:山の形を見る(ここがいちばん効く)

数字が出たら、最後にグラフを描きます。ここを飛ばす人が多いのですが、現場の改善につながるヒントは、数字よりも形のほうに出ます。
ヒストグラムというのは、測定値をいくつかの区間に分けて、「この範囲に何個あったか」を棒の高さで表したグラフです。だいたい山のような形になります。
Excelなら、測定値の列を選んで[挿入]→[グラフ]から「ヒストグラム」を選ぶだけです(Excel 2016以降に標準で入っています)。区間の数は、30個なら5〜6個、100個なら10個くらいが見やすい目安です。
描けたら、形を見ます。よくあるのは次の4つです。
ひとつの山が、なだらかにできている
これが基本の形です。工程としては落ち着いています。あとは山の位置(平均)を規格の真ん中に寄せられないかを考えます。
山がふたつある(ふた山)
これが見えたら、条件の違うものが混ざっています。ほぼ間違いなく、原因は次のどれかです。
- 機械が2台ある(1号機と2号機で寸法が違う)
- 材料のロットが途中で変わった
- 作業者が2人いる
- 段取り替えをはさんでいる(前と後)
このときは、混ざったまま計算した工程能力に意味はありません。データを条件ごとに分けて、それぞれで描き直してください。分けた瞬間に、きれいな山が2つ出てくることがよくあります。「いつもと違う」を見つける考え方は 4M変化点管理で「いつもと違う」を見逃さない が近い話です。
片側がスパッと切れている(絶壁)
規格の線のところで棒が垂直に落ちている形です。これは、選別した後のデータである可能性が高いです。手順1に戻って、選別前のもので取り直します。
片側の裾が長く伸びている
時間とともに寸法がずれていく要因があるサインです。工具の摩耗、機械の暖機不足、加工が進むにつれた発熱などが定番です。夏場の温度・湿度による影響は 夏場の熱・湿気で加工がぶれるときの現場対策 にまとめています。
原因を絞り込む進め方は 不良の原因を絞り込む「なぜなぜ分析」の進め方 が使えます。
気をつけたいこと
3つだけ、押さえておくと安心です。
1. 工程が暴れているときは、工程能力の数字だけ見ても意味が薄い
工程能力は「この工程は、いつもこの調子で作れる」という前提の上に立っています。日によって、あるいはロットによって寸法が大きく動く工程だと、たまたま良かった30個で高い数字が出てしまいます。まずは、測定値を測った順番に並べた折れ線を描いて、時間とともに大きく動いていないかを見ておくと確かです。
2. 片側だけの規格のときは、片側だけで計算する
「Ra 3.2以下」「1.5mm以上」のように上限か下限しかない場合、Cpは計算できません(幅がないため)。Cpkだけを、規格がある側だけで出します。上限しかないなら(上限 − 平均)÷(3 × 標準偏差)です。
3. 数字は「いつ・どの条件で取ったか」とセットで残す
工程能力の数字だけが独り歩きすると、あとで「これ、どの機械のときの値だっけ」となります。日付・機械・材料ロット・作業者・測定器を、数字と同じ紙に書いておいてください。検査記録の残し方は 検査表の作り方の基本、工程のどこで何を測るかを決める話は QC工程表を作って検査ポイントを決める手順 が土台になります。
明日やること
明日できる大きさまで小さくすると、こうなります。
- 図面を見て、その寸法の上限と下限を紙に書き出す
- 連続して作った30個を、途中で調整せずに確保する
- 同じ1個を3回測って、測定器の値がそろうかを先に確かめる
- 30個を測って、ExcelのA列に縦に入力する
=AVERAGE(A2:A31)と=STDEV.S(A2:A31)を入れる- CpとCpkを式に入れて計算する
- ヒストグラムを描いて、山の形と位置を見る
- CpとCpkに差があれば、中心を寄せられないかを検討する
8番まで行ければ十分です。というより、7番の山の形が見えた時点で、たいてい次にやることは決まっています。ふた山なら分ける。絶壁なら取り直す。右に寄っているなら中心を寄せる。数字の1.11という値そのものより、そちらのほうが現場では役に立ちます。
チェックリスト
自分の現場で確認するときは、上から順に見てみてください。
- 測ったのは、連続して作ったものか
- 途中で刃物交換や設定変更をしていないか
- 選別する前のもので測っているか
- 30個以上あるか
- 測定器の値が、同じ1個で3回そろうか
- 図面の上限・下限を正しく書き出せているか
- 標準偏差は
STDEV.Sで出しているか - Cpだけでなく、Cpkも出しているか
- CpとCpkの差を確認したか(中心のズレ)
- ヒストグラムを描いて、山の形を見たか
- ふた山になっていないか(条件が混ざっていないか)
- 客先が求める水準(1.33か1.67か)を確認したか
- 日付・機械・材料ロット・測定器を記録に残したか
13個そろっている現場は、そう多くありません。 上から5つに丸がつけば、今日の分としては十分です。
よければ、こちらも
- 公差の読み方は 図面の公差を現場で読み違えないための見方・公差とは が土台になります。
- 測る側の精度が気になるときは 測定器(ノギス・マイクロメータ)の校正と日常点検 をどうぞ。
- 寸法不良そのものを減らす手順は 寸法不良を減らす測定・検査の基本手順 に整理しています。
- 数字を継続して見ていくなら 不良率を記録して傾向をつかむ簡単な集計の始め方 が次の一歩です。
- 段取り替え直後のばらつきが気になるときは 段取り替え後の「初物検査」で不良の作り込みを防ぐ が近い話です。
- 用語の整理は 工程内検査とは・不良率とは・QCDとは にまとめています。

工程能力という言葉は、はじめて出てきたときはどうしても身構えます。統計の記号が並ぶと、自分の現場とは別世界の話に見えてしまう。
でも、やっていることは、毎日ノギスで測っている値を、30個ぶん並べただけです。新しい技術でも、特別な資格でもありません。すでに現場でやっていることに、電卓を1回通しただけです。
そして、数字が思ったより低く出たとしても、落ち込まなくて大丈夫です。むしろ、それがわかったこと自体が前進です。中心を寄せれば届くのか、そもそも公差が厳しすぎるのか。今まで感覚で「この加工はきわどい」と感じていたことに、はじめて根拠がつきます。
きわどさを感覚で持っていた人が、それを数字で言えるようになる。 それは、客先と対等に話をするための、静かで強い武器になります。
まずは30個。測ってExcelに並べるところから始めてみてください。