加工機のそばで受話器を耳に当てながら、手元の図面と流動中の部品を見比べて「これ、もう削ってしまった」と気づいた町工場の担当者

客先の設計変更・仕様変更に慌てない。工程を止めずに受け止める手順

「図面、差し替えになりました」。

昼過ぎの電話で、そう言われる。 工程表を見ると、その仕事はもう半分が終わっている。材料は切ってあるし、荒取りも済んでいる。外注に出した分は、たぶん今日あたり加工が始まっている。

電話口では「わかりました、確認します」と答えるしかありません。 受話器を置いてから、じわじわと考えることが増えていきます。どこまで作り直しなのか。追加の費用は言えるのか。納期はどうなるのか。そして今、機械の前にいる人にどう伝えるか。

設計変更・仕様変更そのものは、避けられません。客先にも事情があって、変わるときは変わります。 この記事で一緒に整理したいのは、変更が来たあとの30分で何をすれば、工程と利益の崩れが最小で済むかです。書式を増やす話ではなく、聞く順番を決めておく話です。

結論:変更の連絡を受けたら、まずその仕事の加工を止めて、3つだけ確認します。①どこが変わったか(図面番号と改訂記号、変わった箇所)②どのロットから適用するか(いま流れている分は旧図のままでよいか)③仕掛品・材料・外注をどう扱うか(作り直し/手直し/そのまま納入)。この3つを1枚にメモして、費用と納期の増減を添えてメールで返す。ここまでやって、はじめて「変更を受けた」ことになります。

進め方は、この順番です。

  1. その仕事の加工を、いったん止める(新しい図面でも、まだ流さない)
  2. 変わった箇所と、適用するロットを客先に確認する
  3. 仕掛品を「加工済み」「未着手」「外注中」の3つに分けて数える
  4. 追加の費用と納期を出して、返事と一緒に返す
  5. 返事が返ってきてから、新しい図面で流し直す

いちばん大事なのは1番です。 「急ぎだから」と新しい図面で先に流してしまうと、あとで費用の話も納期の話もできなくなります。止めるのは、迷っているからではなく、確認するためです。

何が起きているか

変更連絡を受けたときに仕掛品を3つの置き場に分けて数える様子を表した説明図。左が加工済みの部品、中央が未着手の材料、右が外注に出している分
変更が来たら、まずその仕事のモノを「加工済み」「未着手」「外注中」の3つに分けて数える。扱いも費用も、この3つで変わる

設計変更が工程を崩すのは、変更の内容が難しいからではありません。 崩れるのは、たいてい次の3つのどれかです。

1つ目は、連絡が口頭で来ること。 電話や、現場に来た担当者の立ち話で「ここ、こう変わりました」と伝わる。その場では理解できても、あとで「どの版の話だったか」がわからなくなります。改訂記号のない変更は、記録に残りません。

2つ目は、途中から適用されること。 「次のロットから」なのか「今流れている分から」なのかが決まっていないと、現場は判断できません。判断できないまま進むと、同じ製番の中に旧図の品と新図の品が混ざります。これがいちばん厄介で、検査でも出荷でも取り違えの原因になります。

3つ目は、費用と納期の話が後回しになること。 とりあえず作り直して、納めてから請求しようとする。ところが納品後に「その話は聞いていない」となりやすく、結果として増えた材料費と工数を自社でかぶることになります。悪気があってこうなるわけではなく、言うタイミングを逃しただけであることがほとんどです。

つまり、変更対応で守りたいのは技術ではなく、情報の入口と、返事のタイミングです。ここが決まっていれば、変更が来ること自体は怖くありません。「いつもと違う」を見逃さない考え方は 4M変化点管理で「いつもと違う」を見逃さない にも近い話があります。

変更の連絡が来たら、最初の30分でやること

順番はこうです。慣れれば30分もかかりません。

1. 加工を止めて、変更の中身を文字にする

まず、その仕事に着いている人に「いったん止めてほしい」と伝えます。理由は「客先から変更の連絡が来たから、適用範囲を確認する」と一言で足ります。

そのうえで、聞いた内容をメモに落とします。項目は4つだけです。

「口頭で聞いた内容を、こちらが文字にして送り返す」ところまでがワンセットです。相手を疑うためではなく、双方の記憶を同じ形にしておくためです。

2. 適用するロットを、はっきり聞く

ここは遠慮せずに聞いていい部分です。聞き方は、この形が伝わりやすいです。

「現在、御社の◯◯(品番)を100個で流しております。うち30個は旧図(改訂A)で加工が終わっております。改訂Bの適用は、この100個からでしょうか。それとも次回ロットからでしょうか」

数量と進み具合をこちらから先に示すと、相手も判断しやすくなります。 「全部やり直しですよね」と決めつけずに、事実だけを並べるのがコツです。相手の設計担当も、現場がどこまで進んでいるかまでは知りません。

3. 仕掛品を3つに分けて数える

図の3区画のとおり、その仕事のモノを分けて数えます。

外注中の分だけは、先に電話を入れます。相手先でも加工が進んでいれば、こちらと同じことが起きているからです。連絡が1日遅れると、そのぶん相手の手直しも増えます。外注先とのやり取りは 外注先の納期を握るための発注・督促のコツ の考え方がそのまま使えます。

4. 追加の費用と納期を、返事と同時に出す

ここが、いちばん言いにくいところだと思います。 でも、言いにくいだけで、言ってはいけないことではありません。設計が変わって作業が増えたなら、その分の費用と時間が発生するのは当たり前のことです。

出し方は、金額をぽんと出すのではなく、内訳で示すと通りやすくなります。

たとえば、100個の仕事で30個が旧図で加工済み、板厚が変わって材料から作り直しになった場合です。

項目内容金額
材料費旧図で加工済み30個分の材料(800円/個)24,000円
追加工数30個の作り直し 1個3分=90分(時間チャージ6,000円)9,000円
段取り替え追加1回 30分3,000円
合計36,000円

納期は「材料の手配に2日、加工に1日で、当初の納期から3日いただきたい」という形で、理由と日数をセットで伝えます。

金額の根拠になる時間チャージ(賃率)の出し方は 加工賃の時間チャージ(賃率)を自社で計算する手順 にまとめています。自社の数字が1本決まっていると、こういう場面で迷わずに済みます。

なお、加工済み分が手直しで済むケース(穴が1つ増えるだけ、面取りが追加されるだけ)もあります。この場合は作り直しより安く早く終わるので、「作り直すと36,000円ですが、追加工で対応すれば12,000円で1日短縮できます」と、選べる形で出せると相手も助かります。

影響──「小さい変更」が積もると、原価がわからなくなる

1回の変更で増える工数は、たいしたことがないかもしれません。穴が1つ、面取りが少し、寸法が0.5mm。

ただ、これを毎回「サービス」で吸収していると、2つのことが起きます。

ひとつは、実際原価が見積からずれ続けること。作業日報には追加工の時間が乗るのに、売上は元の見積のままなので、あとから振り返ったときに「この仕事は利益が薄い」という結論だけが残ります。本当は仕事の中身ではなく、変更対応の分だったのに、です。見積と実績の差の見方は 実際原価と見積原価の差を月次で振り返る仕組み が参考になります。

もうひとつは、変更が軽く扱われるようになること。こちらが毎回無償で吸収していると、相手にも「あそこは言えば直してくれる」という前提ができます。これは相手が悪いのではなく、費用が発生していることが見えていないだけです。1回目に内訳を出しておくと、2回目からは相手の社内でも変更の重さが共有されます。

金額を請求するかどうかは、そのつど判断で構いません。 大事なのは、「本来これだけかかっています」を数字で見せたうえで、今回は入れる/入れないを自分で選ぶことです。見えないまま吸収するのと、見せたうえで判断するのとでは、次の仕事の条件が変わってきます。

変更後に、現場で必ずやる2つのこと

返事が返ってきて、新図で流し直すことが決まったら、現場側でやることは2つです。

旧図を回収する。 現場、外注先、検査場所に散っている旧図をすべて集めて、処分するか「無効」と大きく書いて保管します。これをやらないと、次の人が棚から旧図を出してきます。1枚でも残っていると、変更対応そのものがやり直しになります。

現品票と作業指示書を書き換える。 改訂記号を新しいものに直し、旧図で加工済みの分には「要確認」の札をつけて、通常の流れから外れた場所に置きます。モノと紙をそろえておく考え方は 作業指示書と現品票の整え方 に詳しく書いています。

この2つを済ませたら、変更対応はいったん完了です。 朝礼で「◯◯の図面が改訂Bになりました。旧図は回収済みです」と一言共有できれば、なお安心です。

明日やること

明日、20分だけ時間が取れたら、この順番で試してみてください。

全部を今日そろえる必要はありません。 聞く項目を1枚の紙にしておくだけで、次に電話が鳴ったときの30分がかなり楽になります。

設計変更・仕様変更のチェックリスト

10個そろっている現場は、そう多くありません。 いま3つか4つに丸がつくなら、変更の受け止め方はもう形になっています。残りは、次に電話が鳴ったときに1つ足せば十分です。

よければ、こちらも

新しい改訂の図面を作業台に広げ、若手とベテランのふたりが変更箇所を確認しながら落ち着いて次の段取りを話している町工場の様子

設計変更が来ると、どうしても「せっかく作ったのに」という気持ちになります。 削った時間も、段取りにかけた手間も、なかったことになるように感じるからです。

でも、あの30分で止めて、数えて、内訳を出す。 その手間は、なかったことにはなりません。次に同じ客先から変更の連絡が来たとき、相手の言い方が少し変わります。「進み具合はどうですか」から始まるようになったら、それはこちらの整理が伝わった証拠です。

図面が変わっても、現場が止まらないように受け止められる工場は、実は多くありません。 今日は、聞く項目を紙に1枚書いておくところまでで十分です。