早朝の町工場で、電話を切ったばかりのスマートフォンを片手に持ち、まだ誰も立っていない機械のほうを見て今日の段取りを考えている現場リーダー

急な欠勤で人が足りない日。何を止めて何を通すか、決める順番

朝の6時50分。着替えている途中でスマホが鳴る。

「すみません、子どもが熱を出してしまって」。 声は申し訳なさそうで、こちらも「いいよ、お大事に」としか言えません。電話を切って、作業場を見る。今日は5人で回すはずだった日でした。

そこから頭の中で計算が始まります。あの機械は誰が見る。検査は誰がやる。夕方の便に間に合うのか。 そして多くの場合、そのまま「全部いつも通り回す」つもりで一日が始まってしまいます。ひとり分の穴を、残った全員が少しずつ埋める。誰も文句は言わない。けれど夕方になると、出荷は遅れ、検査は雑になり、明日の段取りは何も進んでいない。

人が足りない日にいちばんつらいのは、忙しさそのものより、一日の終わりに「結局どれも中途半端だった」と気づくことだと思います。

この記事で一緒に整理したいのは、根性でカバーする方法ではありません。 朝の10分で「今日は何を通して、何を止めるか」を先に決めてしまう順番です。

結論:欠勤の朝に決めることは3つだけです。①今日出荷するものだけを書き出して、それ以外は今日進まなくていいと決める ②足りない穴の埋め方を「人を移す」「順番を替える」「連絡する」の3つから選ぶ ③遅れるなら午前中のうちに客先へ一報を入れる。夕方に連絡するのがいちばん信用を減らします。

進める順番は、こうです。

  1. 朝いちの10分で、今日出荷の仕事だけを書き出す
  2. その仕事に必要な人と機械を並べて、埋まらない穴を1つはっきりさせる
  3. 穴の埋め方を、人を移す/順番を替える/連絡するの3つから選ぶ
  4. 遅らせるなら、午前中に連絡する(部分出荷の提案とセットで)
  5. 夕方に3分、何が起きたかを一行だけ残す

大事なのは1番です。 「今日出荷するもの」と「今日進めたいもの」は、別のものです。人が足りない日にこの2つを混ぜたまま走ると、どちらも間に合いません。まず今日の約束だけを紙に出す。それだけで、その日の判断がずいぶん楽になります。

何が起きているか──「全員で少しずつカバー」がいちばん高くつく

人がひとり欠けたとき、現場でいちばん自然に起きるのは「みんなで少しずつ持つ」対応です。 これは善意から出てくるやり方で、悪いことではありません。ただ、町工場の仕事とは相性がよくないところがあります。

理由は、段取り替え(次の加工へ機械を切り替える作業)にあります。

人をひとつの機械から別の機械へ移すたびに、その人は今やっている加工を途中で止めます。止めた側の機械も、戻ってきたときにもう一度立ち上げが要る。加工そのものは10分でも、切り替えの前後で20分、30分と溶けていきます。これが3人分同時に起きると、「全員が少しずつ動いた結果、全体としてはほとんど進んでいない」という一日になります。

もうひとつは、判断の量です。 いつもの日なら、誰がどこに立つかは決まっています。決まっていないのは今日だけ。だから欠勤の日は、朝から夕方までずっと「次どうする」を考え続けることになる。この負荷が、リーダーひとりに集中します。夕方に判断が雑になるのは、性格の問題ではなく、単純に朝から考え続けたからです。

だからこそ、朝のうちに「今日は考えない範囲」を決めてしまうのが効きます。今日出荷しないものは、今日は止めていい。止めると決めたものについては、もう考えなくていい。考える対象を減らすことが、いちばん確実なリカバリーになります。

穴の埋め方は、この3つから選ぶ

人が足りない日の穴の埋め方を3つ並べた説明図。左が作業者が隣の機械へ移動する絵、中央が予定の札を入れ替える絵、右が電話をかけている絵
埋め方はこの3つしかない。朝の10分で「どれを使うか」を選んでしまえば、その日の迷いは半分になる

穴の埋め方は、突き詰めるとこの3つしかありません。悩む時間を減らすために、先に見分け方を決めておきます。

1. 人を移す

使う場面:欠けた工程を、残った人の誰かが「立ち上げまで一人でできる」場合。

条件はひとつだけです。段取りから一人でできるかどうか。「見ていればできる」「教われば動かせる」は、今日は数えません。今日は教える日ではないからです。

移すときのコツは、移す人を1人に絞ること。2人・3人と動かすと、さっきの段取り替えのロスが人数分だけ増えます。そして、移した人が抜けた側の機械は、今日は止めていいと決める。空いた機械を無理に埋めようとした瞬間に、玉突きが始まります。

「機械を止めるのはもったいない」と感じるのは自然です。ただ、止まっている機械は明日また動きますが、混乱した一日は取り返せません。今日は、動かす台数を減らすほうが結果的に多く出ます。

2. 順番を替える

使う場面:欠けた工程を一人でできる人がいないけれど、今日出荷の仕事のなかに、その工程を通らないものがある場合。

やることは単純です。今日出荷の仕事のうち、残った人と機械だけで最後まで行けるものを先に流します。欠けた工程を通る仕事は、後ろに回す。

ここで効くのが、すでに段取りが済んでいる機械です。朝の時点で前の日の続きが載っている機械があれば、それを最優先で回す。段取り済みの仕事は、今日いちばん安く数が出せる仕事です。人が足りない日ほど、段取りが要らない仕事から順に流すと決めておくと迷いません。

逆に、今日新しく段取りを組む必要がある仕事は、よほど急ぎでなければ明日に回す。段取りは、人がそろっている日にやるほうが速く終わります。

3. 連絡する

使う場面:1でも2でも、今日の便に間に合わない仕事が残る場合。

このとき決めるべきなのは「どうやって間に合わせるか」ではなく、「いつ連絡するか」です。答えは午前中です。

午前中の連絡がなぜ効くかというと、客先の側にも段取りがあるからです。午前中なら、相手は組立の順番を入れ替えたり、便を1本ずらしたりできます。17時に「今日は出せません」と言われると、相手はもう何も打つ手がありません。同じ遅れでも、朝に言うのと夕方に言うのとでは、相手の受け取り方がまったく変わります

連絡するときは、原因より先に「いつ・どれだけ出せるか」を伝えると話が早く終わります。

連絡の文例(電話・メールどちらでも)

いつもお世話になっております。〇〇製作所の△△です。
本日出荷予定の品番◇◇(〇〇個)の件でご連絡いたしました。
本日、作業者の急な欠勤があり、当初お伝えしていた本日の便に全数は間に合わない見込みです。
現在、〇〇工程まで完了しております。本日の便では〇〇個までお出しでき、残りの〇〇個は明日〇時の便で出荷できる見込みです。
ご迷惑をおかけして申し訳ございません。もし本日中に必要な数量や、優先していただきたい品番がございましたら、そちらに合わせて組み替えます。

ポイントは、「全部遅れます」ではなく「ここまでは出せます」と数字で言うことです。部分出荷ができるなら、それを先に提案する。相手が本当に困るのは、遅れることそのものより、何個来るのかわからないことだからです。

こういう日に、やらないほうがいいこと

人が足りない日に、良かれと思ってやったことが翌日に効いてくることがあります。3つだけ挙げておきます。

検査・出荷を薄くしない 人を前工程に集めたくなりますが、最終工程を薄くすると、そこで止まるはずのものが外に出ます。不良が客先に届くと、その日一日で取り返せる話ではなくなります。人を減らすなら、今日出荷しない仕事の前工程から減らす。検査と出荷は、最後まで人数を維持するのが結果的にいちばん安く済みます。

残業でのカバーは、その日だけにする 1日だけなら残業は効きます。ただ、翌日も同じ人が欠けている場合、2日目の残業は疲れが乗った状態での作業になります。欠勤が2日以上続きそうなら、残業ではなく工程の組み替えに切り替える、と先に決めておくと判断が楽です。

「なぜ休んだか」を朝の議題にしない 休んだ理由の話は、その日の生産を1ミリも進めません。しかも、それをやると次から連絡が遅くなります。朝いちで連絡してくれたこと自体が、いちばん助かっているところです。振り返りは、人がそろった日に落ち着いてやれば十分です。

平時にできる、たった一枚の準備

ここまでは「その日の話」でした。もし今日、少しだけ余裕があるなら、次の欠勤に効く準備をひとつだけ紹介します。

機械ごとに「代われる人」を書いた一枚を作っておくことです。

作り方は難しくありません。縦に機械や工程の名前、横に人の名前を並べて、次の3つの印だけを入れます。

この3段階で十分です。細かく分けるほど、埋めるのが面倒になって続きません。

この一枚があると、欠勤の朝に「誰なら代われるか」を思い出す時間がゼロになります。◎と○の人だけを見て決めればいい。そして表を眺めると、◎がその人ひとりしかいない工程が浮かび上がってきます。そこが、次に人を育てる場所です。この状態を属人化と呼びますが、少人数の現場ではどうしても生まれるもので、悪いことではありません。どこにあるかを知っているかどうかが違いになります。

もう少し丁寧にやるなら、スキルマップのつくり方、多能工化はまず一枚の表から に、続けられる形の作り方をまとめています。ただ、欠勤対策としては、上の3つの印の表を1枚貼っておくだけで、朝の10分がだいぶ変わります。

なお、この時期は熱中症や夏バテでの欠勤も増えます。当日の動き方とあわせて、熱中症対策の義務化。町工場で最低限そろえる3つと当日の動き方 も一度見ておくと、そもそも欠勤を減らす方向にも効きます。

明日やること(欠勤の朝の10分)

その日の朝、この順番で紙1枚に書き出します。

  1. 今日出荷する仕事を、品番と数量で書き出す(今日進めたいだけの仕事は書かない)
  2. それぞれに必要な工程を書き添える
  3. 欠けた人が担当していた工程に印をつける
  4. 印がついた仕事について、人を移す/順番を替える/連絡するのどれかを選んで書く
  5. 「連絡する」を選んだ仕事は、午前中の連絡担当と時刻を決める
  6. 今日は止めると決めた仕事に、線を引く(もう考えない)
  7. 朝礼で、止める仕事と今日の担当だけを共有する(理由の説明は短くていい)

7番まで書けたら、その紙は夕方まで置いておきます。夕方に3分だけ見返して、「どの工程で詰まったか」を一行書き足す。これが3回たまると、次に人を育てる場所がはっきり見えてきます。

チェックリスト

急な欠勤の連絡が入った朝に、上から順に確認してみてください。

13個そろっている日は、まずありません。 上から4つに丸がつけば、その日はもう乗り切れる形になっています。

よければ、こちらも

夕方の町工場で、出荷用の箱を台車に積み終えた現場リーダーと作業者が、荷物の前で一息ついて笑い合っている明るい情景

人が足りない日は、どうしても「自分の段取りが悪かったのかな」と思ってしまいます。 けれど、体調も家庭の事情も、誰にも読めません。少人数で回している現場では、ひとり欠けるだけで形が変わるのは当たり前のことです。それは、ひとりひとりがちゃんと役割を持って働いている証拠でもあります。

今日できたことは、全部を守ることではなくて、どれを守るかを自分で決めたことです。それは十分に立派な判断です。

まずは明日、機械の名前を縦に書いた紙を1枚だけ用意してみてください。◎と○を入れるのは、時間があるときで大丈夫です。次に朝の電話が鳴ったとき、その紙が10分をつくってくれます。