
着手前の準備段取りで手戻りを防ぐ。材料・図面・治具をそろえる手順
朝いちばん、材料を台車で運んで、マシニングの前に立つ。図面を広げて、さあ始めようとしたところで「あれ、この仕事の治具、どこに置いたっけ」。 探して戻ってきたら、今度は指示書の図面が一つ前の版だったことに気づく。事務所に確かめに行って、戻ってきたときにはもう30分。 そんな朝、ありませんか。
これは、段取りが下手だからでも、確認が甘いからでもありません。 必要なものが「そろっているか」を、着手する前に確かめる場所とタイミングが決まっていないと、機械の前に立った瞬間が、はじめての確認になってしまうからです。 足りないのは注意力ではなく、前の日にそろえておく、という一手間の置き場所です。
結論:着手前の準備段取りは、①そろえるものを5つに決める(材料・図面と指示書・治具と工具・測定具・前工程の完了) ②前日の夕方に、翌日の仕事ぶんを1つのかごにまとめる ③そろわないものがあったら、その仕事には着手せず、そろっている仕事を先に流す、の3つで始められます。特別な仕組みは要りません。かごを1つ用意して、前日の夕方15分を「そろえる時間」にするところからで十分です。
進める順番は、こうです。
- 「そろえるもの」を5つに決めて、紙1枚にする
- 翌日の仕事ぶんの「準備かご」を用意する
- 前日の夕方に、5つをそろえてかごに入れる
- そろわなかったものは、その場で手を打つ
- そろわない仕事には着手せず、順番を入れ替える
何が起きているか──止まる理由は、だいたい5つのどれか
機械の前で作業が止まるとき、理由を書き出してみると、だいたい次のどれかに当てはまります。
材料が、まだ届いていない/足りない 「入っているはず」と思っていた材料が、置き場に行ったら別の寸法だった。数を数えたら1本足りなかった。 材料の手配は済んでいても、「いまここにあるか」までは確かめていない、ということがよくあります。
図面や指示書が、最新の版になっていない 客先から改訂版の図面が届いていたのに、現場に回っていたのは前の版のまま。 加工してから気づくと、いちばん大きな手戻りになります。改訂の受け方は 客先の設計変更・仕様変更に慌てない。工程を止めずに受け止める手順 でも扱っています。
治具や工具が、見つからない/使える状態ではない 前回この品物を流したのは3か月前。治具は誰かが別の場所にしまっていて、刃物は欠けたまま。 置き場の決め方は 工具・治具の置き場を決めて、探すムダを減らす整理の手順 にまとめています。
測定具が、そろっていない ゲージやマイクロメータが別の機械のところにあって、初品を測ろうとしたところで取りに行くことになる。 校正の期限が切れていて、そのままでは使えないこともあります。
前の工程や外注が、まだ終わっていない 前工程の作業が残っていたり、外注に出した熱処理がまだ戻っていなかったり。 モノがそろっていないのに、計画上は「今日やる仕事」になっている、というずれです。
どれも、着手してから気づくと「探す・確かめる・待つ」の時間になります。 逆に言えば、着手の前に確かめる場所さえあれば、ほとんどは前の日のうちに片づけられるものです。
手順を小さく分けて、準備段取りを始める

手順1:「そろえるもの」を5つに決めて、紙1枚にする
まず、着手する前にそろっていてほしいものを、5つに決めます。
| そろえるもの | 確かめること |
|---|---|
| 材料 | 材質・寸法・数量が指示書どおりか。置き場から実際に出せるか |
| 図面と指示書 | 図面の版(改訂記号)が最新か。指示書と図面の版が合っているか |
| 治具と工具 | その仕事の治具があるか。刃物が欠けていないか、本数は足りるか |
| 測定具 | 要るゲージ・マイクロメータがあるか。校正の期限内か |
| 前工程の完了 | 前の工程・外注・支給品が、着手する日までにそろうか |
この表を、そのまま紙1枚にして、作業場の目につく場所に貼っておきます。 品物ごとに細かく変える必要はありません。どの仕事でも同じ5つを見る、と決めるほうが続きます。
手順2:翌日の仕事ぶんの「準備かご」を用意する
次に、仕事1件につき1つのかごを用意します。コンテナでも、台車の一段でも構いません。
- かごには、作業指示書を1枚クリップで留めておく(製番や品番が見えるように)
- 置き場所は「明日やる仕事」の棚や台を1か所に決める
- 機械ごとに並べておくと、朝そのまま持っていける
かごに入れるのは、材料・図面と指示書・治具と工具・測定具の4つです。前工程の完了は、モノではなく確認なので、指示書の余白にチェック欄をつくっておきます。
手順3:前日の夕方に、5つをそろえてかごに入れる
前日の夕方、終業の15分前を「そろえる時間」にします。
- 翌日の計画に入っている仕事を、上から順に1件ずつ見る
- 手順1の5つを、紙を見ながら1つずつ確かめて、かごに入れる
- そろったものには、指示書の余白にチェックを入れる
全部を一人でやらなくても大丈夫です。機械の担当者が、自分の翌日の仕事ぶんをそろえる形にすると、自分の手で確かめたぶん、朝の動き出しも早くなります。 外段取り(機械を止めずに先にできる準備)の考え方とも近いので、内段取り・外段取りとは もあわせてどうぞ。
手順4:そろわなかったものは、その場で手を打つ
確かめていくと、そろわないものが必ず出てきます。そこが、この準備のいちばん大事なところです。
- 材料が足りない → 置き場の別の棚、仕入先への確認、代わりの材料を使ってよいかの確認
- 図面の版が古い → 事務所や営業に最新版を確かめる。客先への確認が要るなら、翌朝いちばんに聞けるようにメモを残す
- 治具・刃物がない → 置き場を探す、刃物を発注・研磨に回す
- 測定具がない → 別の機械から借りる段取りを決めておく
- 前工程が終わっていない → 前工程の担当者や外注先に、いつそろうかを確かめる
夕方のうちに気づければ、まだ手が打てます。 朝、機械の前で気づくと、その日の計画そのものが崩れます。この差が、準備段取りの効き目です。
手順5:そろわない仕事には着手せず、順番を入れ替える
最後は、使い方の約束です。
5つがそろっていない仕事には、着手しない。 そろっている仕事を先に流します。
「とりあえず始めて、途中で足りないものを取りに行く」のは、一見、早そうに見えます。 でも、加工の途中で止まると、段取りをやり直したり、機械を半端なまま空けたりすることになります。始めてから止まるより、そろうまで待って、その間に別の仕事を流すほうが、結局は早く終わります。
順番の入れ替え方は どれを先に流すか迷わない、生産の優先順位ルールの作り方 が参考になります。
具体例──マシニング1台の、ある水曜日
マシニングセンタ1台を担当する作業者が、翌日(水曜日)に3件の仕事を予定していたとします。火曜日の夕方、15分で準備かごをそろえてみました。
| 仕事 | 材料 | 図面と指示書 | 治具と工具 | 測定具 | 前工程 | 判断 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| ブラケット 20個 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | 朝いちばんに着手 |
| プレート 10枚 | ○ | 版が古い | ○ | ○ | ○ | 夕方に最新版を確かめる |
| フランジ 8個 | ○ | ○ | 刃物が欠け | ○ | 熱処理が水曜昼に戻る | 午後に回す |
プレートの図面は、事務所に確かめると前の週に改訂版が届いていました。その場で差し替えて、かごに入れ直します。 フランジは、欠けていた刃物を予備と入れ替え、熱処理の戻りが水曜の昼なので、午後の仕事に回しました。
水曜日の朝、作業者はかごを持って機械の前に立ち、ブラケットからそのまま始められました。
もし準備をしていなかったら、どうなっていたでしょう。 プレートは古い版の図面で加工を始めて、途中で気づけば作り直し。フランジは朝から段取りをして、刃物を探し、熱処理が戻っていないことに気づいて段取りを崩す。 同じ水曜日で、同じ3件。違うのは、前の日の夕方に、そろっているかを見たかどうかだけです。
影響──探す・待つ時間が減り、計画が崩れにくくなる
準備段取りが回り始めると、変わることがいくつかあります。
- 機械の前で止まる時間が減る:着手してから探したり確かめたりする時間が、1回20分、週に6回あったとすると、週120分、月4週で480分=8時間です。前日の夕方15分を週5日(月20日で300分=5時間)使っても、手元に戻ってくる時間のほうが大きくなります。
- 作り直しが減る:図面の版を着手前に確かめるだけで、「加工してから古い版だったと気づく」手戻りがぐっと起きにくくなります。
- 計画が朝に崩れにくい:そろわない仕事が前の日に分かるので、順番の入れ替えを落ち着いて決められます。朝礼での確かめ方は 朝礼で進捗の遅れを早くつかむ、5分の確認と夕方の締め でも扱っています。
- 段取り替えが短くなる:要るものが手元にそろっているので、機械を止めている時間(内段取り)が短くなります。段取りそのものを短くする方法は 段取り替えを短くする、シングル段取りの始め方 にまとめています。
- 誰が担当しても同じように始められる:かごと紙1枚があれば、ベテランの頭の中にあった「始める前に見ておくこと」が、新人にも引き継げます。
かける手間は、前日の夕方の15分と、かご1つです。
明日やること
明日、この順番で1つずつ試してみてください。
- 「そろえるもの」5つ(材料・図面と指示書・治具と工具・測定具・前工程の完了)を紙1枚に書いて、作業場に貼る
- 準備かごを1つ用意して、「明日やる仕事」の置き場所を決める
- 終業の15分前に、翌日の仕事1件ぶんだけ、5つをそろえてかごに入れてみる
- そろわなかったものを、その場でメモして、誰に何を確かめるか決める
- 翌朝、かごを持って機械の前に立ち、すぐに始められたかを振り返る
全部の仕事で一度に始めなくても大丈夫です。 まずはいちばん止まりやすい機械の、翌日の1件から。かご1つでも「そろってから始める」が回ると、その気持ちよさが現場に伝わっていきます。
着手前の準備段取りチェックリスト
- 着手前に「そろえるもの」が5つに決まっていて、紙1枚になっているか
- 材料の材質・寸法・数量を、置き場で実際に確かめているか
- 図面の版(改訂記号)が最新か、指示書と合っているかを確かめているか
- その仕事の治具と工具がそろっていて、刃物が使える状態か
- 要る測定具があり、校正の期限内か
- 前工程・外注・支給品が、着手する日までにそろうか確かめているか
- 仕事1件につき1つの準備かごがあるか
- 「明日やる仕事」のかごの置き場所が決まっているか
- 前日の夕方に、そろえる時間をとっているか
- そろわなかったものを、その日のうちに誰かに確かめているか
- そろっていない仕事には着手せず、そろっている仕事を先に流しているか
全部がそろっていなくても大丈夫です。 「図面の版を確かめる」と「前日の夕方に1件だけかごにまとめる」の2つだけでも、明日の「あれ、どこだっけ」はひとつ減ります。
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機械の前で「あれ、どこだっけ」と立ち止まった朝があっても、それはあなたの段取りが悪かったからではありません。 いくつもの仕事を抱えながら、始める前の確かめまで、ずっと頭の中だけで回してきたからです。それで今日まで納期をつないできたこと自体、もう十分にがんばっています。
前の日の夕方に、かごを1つ用意して、5つをそろえる。始めることはそれだけです。 まずは明日の1件ぶん、そろえてみてください。翌朝、かごを持って機械の前に立ったとき、その日のいちばん最初の一手が、驚くほど軽くなっているはずです。