空になった材料棚の前で、これでは今日の分が流せないと気づき、急いで発注の手配をしようとする町工場の担当者の横顔と手元

材料が欠品して慌てない、発注点(発注タイミング)の決め方

「よし、これを流そう」と図面を手に材料置き場へ行ったら、棚が空。 在庫表を見た記憶ではまだあったはずなのに、実際には切れている。あわてて仕入れ先に電話しても「入荷は数日後」。今日流すつもりだった仕事は、材料が届くまで動かせません。

その数日、段取りを組み替え、後工程に頭を下げ、場合によってはお客さんへ納期の相談をする。加工そのものより、材料が届くのを待つしかない時間のほうが、よほど現場に重くのしかかる。そんな朝に、心当たりはありませんか。

これは、在庫の管理がずさんだったからでも、うっかり者だからでもありません。「無くなってから発注する」——その順番のままだと、どんなに気をつけていても、届くまでの待ち時間はついて回ります。だから今日決めたいのは、「気づいたら頼む」をやめて、在庫がここまで減ったら頼む、という一本の線を引くことです。

結論:欠品で慌てないコツは、「無くなったら発注」ではなく「在庫が◯◯まで減ったら発注する」という線=発注点をあらかじめ決めておくことです。発注点は、①1日に使う量、②注文してから届くまでの日数(調達リードタイム)、③念のための安全在庫、の3つがあれば決められます。式は「発注点=1日に使う量 × 届くまでの日数 + 安全在庫」。全部の材料でやる必要はありません。まずは「よく使う・切れると痛い」材料ひとつで、この線を一本引くところから始めれば十分です。

材料を多めに買えば欠品はしませんが、その分お金が寝て、置き場も食います。かといってギリギリにすると、少しの遅れで止まる。 だから決めたいのは「たくさん持つ」でも「持たない」でもなく、どのタイミングで頼むかという一点です。

まずは、次の3つを順番に見ていきます。

  1. 「よく使う・切れると痛い」材料をひとつ選ぶ
  2. その材料の「1日に使う量」「届くまでの日数」「安全在庫」を書き出す
  3. 3つをかけ算・足し算して発注点を決め、棚に印をつける

この順で進めると、「なんとなく減ってきたから頼む」ではなく、「ここまで減ったら頼む」と、根拠を持って手配できるようになります。

何が起きているか

材料が切れて仕事が止まる現場には、よく似た事情があります。

在庫が今いくつあるのか、正確なところは棚を見ないとわからない。 どのくらいのペースで減っていくのか、感覚では分かっていても数字にしていない。 注文してから何日で届くのか、材料や仕入れ先によってバラバラで、頭の中にしかない。 気をつけてはいるけれど、日々の加工に追われて在庫を見に行く余裕がない。

これらの多くは、担当者の注意不足ではありません。 「無くなってから動く」しかない状態が、そのままになっているために起きています。減っていく途中で手を打とうにも、「いつ頼めばいいか」の拠り所がないのです。

もう一つ見落とされやすいのが、届くまでの時間差です。私たちは「在庫がゼロになったら困る」と考えがちですが、本当に困るのはゼロになる少し前。注文してから届くまでに数日かかるなら、その数日分を使い切る前に頼まないと間に合いません。「無くなったら頼む」では、いつも一歩遅いのです。

だから最初の一歩は、あわてて材料を買い込むことではなく、「無くなる前のどこで頼むか」という線を一本引くことになります。その線が、発注点です。

「よく使う・切れると痛い」材料をひとつ選ぶ

いきなり全部の材料に線を引こうとすると、項目が多すぎて続きません。まずは一つに絞ります。選ぶ目安は、次の二つが重なるものです。

たとえば、定番でリピート受注している製品の材料。毎週のように使い、しかも切れるとその仕事が丸ごと止まる——そういう材料が、最初の一本を引くのにいちばん向いています。

反対に、たまにしか使わない特殊材や、すぐ近くの店で即日買えるものは、後回しで大丈夫です。全部をやろうとせず、いちばん困っている材料ひとつから始める。それが続けるコツです。

「1日に使う量」「届くまでの日数」「安全在庫」を書き出す

在庫が日々減っていき、発注点の線に達したら発注し、リードタイムの後に入荷して在庫が回復する流れを示した説明図
在庫が「発注点」の線まで減ったら発注する。届くまでの間も安全在庫でしのげるので、切らさずに回せる。

材料を一つ決めたら、その材料について次の3つを書き出します。難しい調査はいりません。日々の感覚を、数字に置き直すだけです。

この3つは、いちど決めたら終わりではありません。使うペースが変わったり、仕入れ先の納期が延びたりしたら、その都度見直します。まずは今の実感でかまわないので、空欄を三つ埋めることを目指してください。

3つをかけ算・足し算して、発注点を決める

数字がそろったら、発注点はこの式で出せます。

発注点=1日に使う量 × 届くまでの日数 + 安全在庫

先ほどの例で計算してみます。

発注点 = 20本 × 5日 + 30本 = 100本 + 30本 = 130本

つまり、在庫が130本まで減ったら発注する、と決めます。こう決めておけば、発注してから届くまでの5日間で使う100本は手元にあり、さらに30本の安全在庫が遅れやばらつきを受け止めてくれます。無くなる前に、余裕を持って次が届く、という流れです。

考え方はシンプルです。「届くまでの間に使う分」+「もしもの保険」、この二つを足したところが、頼みどきの線になります。

ここで在庫を数えやすくするひと工夫として、棚やケースに発注点の位置へ印をつけておくと確実です。「この赤いテープの高さまで減ったら発注」「このかごが空になったら発注」のように、目で見て分かる形にしておけば、いちいち数えなくても頼みどきが分かります。数字の線を、現物の合図に変えておくのが、続けるコツです。

なお、「いくつ頼むか(発注量)」は、また別の話です。まとめて買うと単価は下がりますが置き場とお金を食い、少なくすると発注の回数が増える。ここは「1回でどれくらいなら置けるか・仕入れ先の最小ロットはいくつか」で決めれば十分で、まずは頼むタイミング(発注点)だけをはっきりさせるところから始めましょう。

具体例:定番品の丸棒で毎月ひやりとしていた現場

たとえば、毎週のように受けるリピート品があり、その加工に決まった径の丸棒を使う——そんな現場を思い浮かべてみます。

これまでは「棚を見て、少なくなってきたら頼む」でした。ところが忙しい週は在庫の減りが早く、頼んだつもりが頼めておらず、月に一度は「材料待ちで流せない」が起きていました。

この現場でやったのは、大量に買い置きすることではありません。

やったことは、線を一本引いて棚に印をつけただけ。買い足した在庫もわずかです。それでも、テープが見えたら頼む、という合図ができたことで、「気づいたら空だった」がなくなりました。減っていく途中の一点で頼むと決めるだけで、少ない在庫のまま、材料待ちの朝を減らせるのです。

明日やること

明日、まず一つだけやるなら、これです。

いちばんよく使う材料を一つ選んで、「1日に使う量」「届くまでの日数」を書き出す。

正確でなくてかまいません。「だいたい1日20本」「頼んで5日くらい」——この二つが分かれば、あとは安全在庫を少し足して、かけ算・足し算するだけで発注点が出ます。

数字が出せたら、その材料の棚に「ここまで減ったら発注」の印を一つつけてみてください。全部の材料に広げるのは、その次の日からで大丈夫です。まずは、いちばん困っている一つに線を引く。それだけで、次の「材料待ち」の朝が一つ減ります。

チェックリスト

発注点を決めるとき、この項目を手元に置いてみてください。

全部を一度にそろえなくて大丈夫です。 まずは「一つの材料で、1日に使う量と届くまでの日数を書き出す」——これひとつだけでも、次の欠品を防ぐ線が一本引けます。ほかの材料は、手が空いた日に少しずつで構いません。

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材料の欠品をなくす仕事は、たくさん買い置きすることでも、在庫を一本残らず数え続けることでもありません。 よく使う材料ひとつに、「ここまで減ったら頼む」という線を一本引く。棚に目で見える印をつける。その小さな備えが、次に「今日流せない」と気づく朝から、あなたを、そして納期を待つお客さんを、静かに守ってくれます。

派手ではなくても、「この材料は、無くなる前にちゃんと頼める」という線が一本できたなら、それはもう欠品への備えが一歩進んだということです。全部の材料に引けていなくても、今日ひとつ書き出せたなら、それで十分に前へ進んでいます。

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