
QC工程表の作り方。検査ポイントを決める最初の一歩
「あの検査、誰がどこで見てたっけ」。 ベテランが休んだ日に、ふとそう思って手が止まったことはないでしょうか。
品質は保てている。でも、その多くは頭の中にある。 「この工程では、この寸法を、このタイミングで見る」——それが人の記憶に頼っていると、休みや引き継ぎのたびに不安が顔を出しますよね。
QC工程表は、その「どこで・何を・どうやって見るか」を一枚に並べた地図のようなものです。 ただ、いきなり全工程を埋めようとすると、たいてい途中で止まってしまいます。 この記事では、まず1工程だけから始めて、検査ポイントを決めていく順番を一緒に整理します。
結論:QC工程表は「全部の工程を完璧に埋める書類」ではありません。加工の流れに沿って、外したら一番困る特性を『どこで・何で・どう判定するか』を1行ずつ書き足していく地図です。まずは不良やクレームが一番多い1工程を選び、そこの検査ポイントを1つ決める。それだけで、頭の中にあった品質のルールが、誰でも見える形になり始めます。
作り始めるときにまずやりたいのは、フォーマットを立派に整えることではありません。 「今いちばん困っている1工程」を選ぶことです。
まず、次の順で1点にしぼります。
- 不良・手直し・クレームが一番多い工程を1つ選ぶ
- その工程で「外したら一番困る特性(寸法・機能・外観)」を1つ挙げる
- その特性を「どこで・何で測って・何を基準に合否を決めるか」を1行書く
この1行が書けたら、QC工程表はもう始まっています。 全工程を一度に埋めようとせず、困っている工程から一行ずつ増やしていきましょう。
何が起きているか — QC工程表は「検査の地図」

QC工程表(QC工程図とも呼ばれます)は、材料の受け入れから出荷までの工程を順番に並べ、それぞれの工程で「何を管理し、どこで・どう検査し、何を基準に合否を決めるか」を一覧にしたものです。難しく言えば品質保証の設計図ですが、現場の感覚では「検査の地図」と思っておくと扱いやすくなります。
1行に入れたい項目は、まずこのくらいで十分です。
- 工程名:どの工程か(例:外径旋削、バリ取り、受入)
- 管理項目・特性:その工程で守りたい寸法・機能・外観(例:外径φ20、はめあい)
- 検査方法・測定具:何で見るか(例:マイクロメータ、限度見本、目視)
- 時期・頻度:いつ・どれだけ見るか(例:初物+道具替え後、抜き取り)
- 判定基準:何なら合格か(例:図面公差内、限度見本以内)
- 記録・担当:どこに記録し、誰が見るか
現場で「検査はしているのに、なぜか大事なところで流れる」というとき、原因は検査の量ではなく、この地図が頭の中にしかないことが多いのです。
判断がぶれやすいのは、たとえばこんな場面です。
- ベテランが休むと、どの工程で何を見るかが曖昧になる
- 「重要そうだから見る」だけで、なぜ・何を基準に見るかが人によって違う
- 図面は変わったのに、検査のやり方が更新されていない
- 検査はしたが、どこに記録するか決まっておらず後から追えない
QC工程表は、この「頭の中のルール」を紙に出して、誰が見ても同じ順で確かめられるようにする道具です。
具体例 — ある町工場の「1行目」
たとえば、外径を削る旋盤加工でバリと寸法の不良が続いていたとします。 まず、その工程だけを1行目に選び、こう書き出します。
- 工程名:外径旋削
- 管理項目:外径φ20 −0.02(はめあい部)/端面のバリ
- 検査方法:外径はマイクロメータ、バリは限度見本で目視
- 時期・頻度:外径は初物+刃物交換直後は必ず、その後は抜き取り。バリは全数を目視で軽く
- 判定基準:外径は図面公差内、バリは限度見本以内
- 記録・担当:検査記録表に記入、担当は加工者本人+リーダー確認
ここで大事なのは、同じ工程でも特性ごとに検査のやり方を変えてよいということです。 はめあい部の外径は外したら客先が困るので「初物と道具替え直後は必ず」。バリは手直しで直せるので「全数だが目視で軽く、判断は限度見本でそろえる」。
この1行が書けたら、次はその隣の工程へ。 一度に全部を埋めるのではなく、困っている順に1行ずつ足していけば、地図は自然に広がっていきます。
影響 — 地図がないと、品質が人に張りつく
QC工程表がないまま品質を保っていると、静かに2つの負担がたまります。
ひとつは、品質が特定の人に張りついてしまうことです。 「あの人がいれば大丈夫」は心強い一方で、その人が休んだ日・辞めた日に、どこで何を見ていたのかが分からなくなります。技能や判断が言葉になっていないと、引き継ぎのたびに品質が揺れてしまいます。
もうひとつは、トラブルのときに振り返れないことです。 検査ポイントと判定基準が紙になっていないと、不良が流出したとき「どの工程で・何を基準に見ていたのか」を後から確かめられません。原因を絞り込むのにも、是正報告書を書くのにも、よりどころがなくて苦しくなります。
逆に、困っている工程から検査ポイントを一行ずつ書き出しておくだけで、品質のルールが人から紙へ移っていきます。 検査は増やすより、見えるようにするほうが効くことが多いのです。
明日やること — 「困っている1工程」から地図を1行書く
明日、立派なフォーマットを用意する必要はありません。 紙でもExcelでもかまいません。今いちばん困っている工程を1つ選んで、次の3ステップだけやってみてください。
- 困っている工程を1つ選ぶ:不良・手直し・クレームが一番多い工程に○をつける
- 困る特性を1つ挙げて基準を書く:外したら一番困る寸法・機能・外観を1つ選び、「何で測って、何なら合格か」を一言書く
- 時期と記録先を添える:その特性を「いつ・どれだけ見るか(初物+道具替え後など)」と「どこに記録するか」を書き足す
もし工程の途中で早めに気づく仕組みも整えたいときは、工程内検査 の考え方をあわせて見てみてください。 検査項目そのものの並べ方に迷ったら、検査表のつくり方 が土台になります。
QC工程表を作り始めるチェックリスト
7項目ありますが、全部を一度にそろえなくて大丈夫です。まずは「今日やる最低ライン」の3つだけに集中してください。
今日やる最低ライン(この3つだけ)
- 不良・手直し・クレームが一番多い工程を1つ選べているか
- その工程で「外したら一番困る特性」を1つ決めたか
- その特性を「何で測って・何なら合格か」を1行書けたか
余裕が出たら、ここから先へ
- その特性を「いつ・どれだけ見るか(初物+道具替え後など)」を書いたか
- 検査結果をどこに記録し、誰が確認するかを決めたか
- 図面や仕様が変わったら表も直す、と置き場所とルールを決めたか
- (後回し可)隣の工程へ1行ずつ広げ、材料〜出荷までつなげたか
最後の項目は時間がかかるので、必須ではありません。まずは困っている工程ひとつで、外したら困る特性の検査ポイントを1行書く。それだけでも、頭の中にあった品質のルールが、誰でも読める地図に変わり始めます。
よければ、こちらも
- 検査項目を表に落とし込むところからなら、検査表のつくり方、まず決めたい3つの項目 もあわせてどうぞ。
- 全数と抜き取りのどちらで見るか迷うときは、抜き取り検査と全数検査の使い分け で整理しています。
- 不良の原因を工程までたどりたいなら、なぜなぜ分析の進め方 が役に立ちます。

QC工程表は、一度で全工程を完璧に埋める仕事ではありません。 困っている工程をひとつ地図にして、外せない検査ポイントを一行ずつ足していく。その積み重ねで、品質は人の記憶から、みんなが読める形へ移っていきます。
全部を今日そろえなくて大丈夫です。 「この工程では、ここを見る」と1行書けたなら、あなたの現場の品質は、もう一歩、続けやすい形になっています。