
「だいたい何時間」を卒業する、作業の標準時間の決め方
「この加工、だいたい2時間くらいかな」。 見積を出すときも、工程を組むときも、頭の中の「だいたい」で時間を決めていませんか。
その「だいたい」は、長年やってきた経験の裏づけがあるものです。決していい加減ではありません。ただ、人によって答えが違ったり、忙しい日に頼まれると勘が鈍ったりする。ベテランが休むと、とたんに見積が出せなくなる。そんな心細さを感じたことがあるなら、この記事は役に立つはずです。
結論:作業の標準時間は、いきなり全部の作業でそろえようとしなくて大丈夫です。①よく出る代表的な作業を数個だけ選び、②実際にかかった時間を数回測って平均を出し、③段取りや余裕を分けて足す——この3つで、まず「基準になる一本」ができます。完璧な数字より、「みんなが同じ土台で考えられる目安」があること。それが、見積のバラつきと納期の慌てを減らす第一歩です。
標準時間とは、その作業を無理のないペースで進めたとき、どれくらいの時間でできるかの目安のことです。難しく考えず、「この仕事は、ふつうにやればこのくらい」という共通の物差しだと思ってください。
まずは、次の3つを順番に見ていきます。
- どの作業から手をつけるか、対象をしぼる
- 実際にかかった時間を測って、平均を出す
- 段取りと余裕を分けて足し、「基準の時間」にする
この順で進めると、「勘の2時間」が「根拠のある2時間」に変わっていきます。
何が起きているか
時間の基準が人の頭の中にしかないと、現場ではいくつかの困りごとが同時に起こります。
見積を出す人によって、同じ仕事なのに金額が違う。 納期を聞かれて即答した時間が、実際とずれて後で苦しくなる。 ベテランが不在だと、工数の見当がつかず仕事が止まる。 「思ったより時間がかかった」の原因が、段取りなのか加工なのか分けられない。
これらの多くは、現場の腕が悪いからではありません。 時間という一番大事な数字が、言葉にも紙にもなっていないために、人から人へ受け渡せず、比べることも見直すこともできないのです。
勘が優れているのは、町工場の大きな財産です。標準時間づくりは、その勘を否定するものではありません。ベテランの頭の中にある「だいたい」を、みんなが使える形に翻訳していく作業だと考えると、気持ちが少し楽になります。
まず「どの作業から測るか」をしぼる

標準時間づくりでいちばん挫折しやすいのは、「全部の作業でやろう」として最初に力尽きてしまうことです。
品番が何百とある現場で、すべてに標準時間をつけるのは現実的ではありません。まずは、効果の大きいところから数個だけ選びます。目安はこの3つです。
- 数がよく出る作業:リピートで何度も流れる、主力の加工。ここが正確になると、見積と工程の精度がぐっと上がります。
- 時間が読みにくい作業:見積が外れやすい、人によってバラつく作業。基準ができると、いちばん助かります。
- 段取りに時間がかかる作業:加工より準備で時間を食っている作業。分けて測る価値があります。
最初は3〜5個で十分です。 「まずこの代表作業だけ」と決めてしまえば、測る対象がはっきりして、手が動き出します。全部そろうのはずっと先でいい。一本目の基準ができることのほうが、何倍も価値があります。
実際にかかった時間を「数回」測って平均を出す
対象が決まったら、その作業に実際どれくらいかかっているかを測ります。 ここでのコツは、一回で決めず、数回ぶんを測って平均を見ることです。
- ストップウォッチや、機械の稼働時間、開始・終了のメモで、作業にかかった時間を記録する
- 同じ作業を、できれば3〜5回ぶん記録する(日をまたいでも構いません)
- 極端に速かった回・遅かった回は、理由をメモしておく(材料違い、トラブルなど)
一回だけの計測だと、たまたま調子が良かった日や悪かった日に引っ張られます。数回ぶんを平均すると、「ふつうにやればこのくらい」という真ん中が見えてきます。
測るときに、ひとつだけ気をつけたいことがあります。 計測は、人の速さを評価するためのものではないと、現場に先に伝えておくことです。「タイムを測る=誰かを急かす・査定する」と受け取られると、無意識に急いで危険な作業になったり、数字がゆがんだりします。目的は、仕事そのものにかかる時間を知って、見積と段取りの土台にすること。ここを丁寧に共有しておくと、協力が得やすくなります。
なお、測った時間はあくまで自社・その設備・その材料での目安です。機械や材料、担当が変われば変わります。他社の数字や教科書の数値をそのまま当てはめず、自分の現場で測った値を基準にするのが、いちばん確かです。
段取りと余裕を分けて足し、「基準の時間」にする

平均が出たら、それをそのまま基準にする前に、中身を分けておくと後がぐっと楽になります。おすすめは、次の3つに分けることです。
- 加工そのものの時間:実際にモノを作っている正味の時間
- 段取りの時間:材料や治具の準備、機械の設定、後片付けにかかる時間
- 余裕(ゆとり):段取り替えの前後や、道具を取りに行く・確認するといった、避けられない細かな時間
なぜ分けるかというと、あとで見直すときに「どこを縮められるか」がはっきりするからです。合計だけを「3時間」と持っていると、長いのか短いのかも、何を直せばいいのかも分かりません。加工が2時間・段取りが40分・余裕が20分と分けておけば、「段取りが長いから、ここを改善しよう」と次の一手が見えてきます。
とくに段取りの時間は、加工時間だけ数えていると見落とされがちで、見積が外れる大きな原因になります。加工が短くても段取りに時間がかかる仕事は、そこを分けて持っておくだけで、少量・試作の見積の精度が変わってきます。
こうして足し合わせた時間を、その作業の「基準の時間」として一枚の表に書き出します。立派な様式はいりません。作業名・基準時間・内訳・測った日付が並んだ、手書きやExcelの一覧で十分です。これが、見積のときも、工程を組むときも、みんなが同じ物差しで話せる土台になります。
標準時間づくりチェックリスト
忙しい日でも回せるよう、二段に分けました。上の最低ラインだけでも、見積のバラつきは変わってきます。
まずはここだけ(最低ライン)
- よく出る代表作業を3〜5個にしぼって選んだか
- 一回だけでなく、数回ぶんの時間を測ったか
- 極端に速い・遅い回は理由をメモしたか
余力があれば
- 加工・段取り・余裕を分けて足しているか
- 「計測は査定ではない」と現場に先に伝えたか
- 他社や教科書の数字でなく、自社で測った値を使ったか
- 作業名・基準時間・内訳・日付を一覧に書き出したか
- 半年に一度など、見直すきっかけを決めたか
全部を一度にそろえなくて大丈夫です。 まずは「代表作業をひとつ、数回測って平均を出す」——これだけでも、頭の中の「だいたい」がひとつ、紙の上の基準に変わります。残りは手が空いた日に、少しずつで構いません。
よければ、こちらも
- 段取りにかかる時間の数え忘れを防ぎたいときは、段取り時間を見積に入れ忘れない、確認のコツ が役立ちます。
- 測った時間を工程管理に活かしたいときは、工程進捗表をExcelで作る、続けやすい簡単なひな形 もあわせてどうぞ。
- 出した基準をもとに納期を落ち着いて答えたいときは、「いつできますか」に慌てない、後工程を守る納期回答の決め方 が参考になります。

標準時間づくりは、ベテランの勘を数字で縛る作業ではありません。 ひとりの頭の中にあった「だいたい」を、みんなで使える形にして、次の世代へ渡していく仕事です。
一本の基準ができれば、見積は少しそろい、納期の即答は減り、ベテランが休んでも現場は止まりにくくなります。それは派手な改善ではないけれど、確かに現場の足腰を強くしてくれます。
今日、代表作業をひとつ選んで、時計を見ながら測ってみる。それだけで、あなたの現場はもう「だいたい」から一歩、前へ進んでいます。