
困りごとが上がってこない現場へ。声かけと10分の1on1で拾う手順
金曜の午後、3号機の主軸から異音が出て止まりました。
修理の人を呼んで、部品を待って、週明けの納期を調整して。ひと段落した夕方、担当の人がぽつりと言います。 「実は、火曜くらいから音がちょっと変だなとは思ってたんです」
「言ってくれればよかったのに」と、口から出かかる。 でも、その人がさぼっていたわけではないことも、本当はわかっています。火曜も水曜も、こちらは見積と電話で事務所にこもりきりでした。
困りごとが上がってこない現場は、言わない人が悪いのではありません。 たいていは、「言っていい場面」が、毎日の仕事の中に用意されていないだけです。
この記事で一緒に整理したいのは、話し上手になる方法ではありません。 現場リーダーが、困りごとを「待つ」のをやめて「聞きに行く」ための、小さな段取りです。
結論:困りごとは、待っていても上がってきません。①毎日の声かけは「何かある?」ではなく、具体的な問いにする ②月に1回、1人10分だけ、横に並んで話す1on1(短い面談)をする ③聞いたことには、必ず1週間以内に返事をする(やる・いつやる・今はできない理由)。いちばん効くのは③です。
進める順番は、こうです。
- 毎日の声かけの言葉を、1つだけ具体的に変える
- 月1回、1人10分の面談を、カレンダーに先に入れる
- 面談で聞くことを3つに絞る
- 聞いた困りごとを一枚に書き、3つに分ける
- 1週間以内に、本人に返事をする
何が起きているか──言わないのには、ちゃんと理由がある
困りごとを抱えたまま黙っている人の頭の中には、だいたい次の3つのどれかがあります。
1つ目は、「忙しそうで悪い」。 リーダーや社長が電話に出ながら図面を見て、合間に段取りをしている。そこに「ちょっといいですか」と割り込むのは、思った以上に勇気がいります。少人数の現場ほど、上に立つ人がいちばん忙しそうに見えます。
2つ目は、「言っても変わらない」。 前に一度言ったけれど、そのあと何も起きなかった。返事もなかった。こうした経験が1回あると、次からは言わなくなります。言った側からすると、返事がないのは「却下」と同じに聞こえるからです。
3つ目は、「自分のせいにされそう」。 異音に気づいたのが遅かった、段取りで手間取った、測定でよくわからない値が出た。言えば「なんでもっと早く」と返ってきそうな気がして、自分の中で様子を見ることにしてしまう。
どれも、性格の問題ではありません。 場面と、返事と、空気の問題です。そしてこの3つは、リーダーの側から先に手を打てる部分です。
毎日の声かけ──「何かある?」をやめてみる

最初に変えるのは、毎日の声かけの言葉です。
現場を通りかかったときの「何かある?」「大丈夫?」は、聞く側の気づかいとしては十分です。ただ、聞かれた側は「大丈夫です」と答えるのがいちばん楽なので、たいていそこで会話が終わります。
効くのは、答えが「はい/いいえ」にならない、具体的な問いです。
| よく使う言葉 | 言い換えの例 |
|---|---|
| 何かある? | 今日いちばん手間取ったのはどこ? |
| 大丈夫? | この段取りで、やりにくいところはある? |
| 問題ない? | 機械の音とか、いつもと違うところはない? |
| 困ってることない? | 次に同じ仕事が来たら、どこを変えたい? |
全部覚える必要はありません。自分が言いやすい1つだけを選んで、1週間使ってみてください。
声をかけるタイミングは、作業の切れ目です。加工中に話しかけると手元が危ないうえに、本人も落ち着いて答えられません。段取り替えの前後、ワークを置いた瞬間、休憩明けの数分あたりが話しやすい時間です。
もうひとつ大事なのが、返ってきた答えを、その場で評価しないことです。 「手間取ったのは、治具を付け替えるところですね」と言われたら、「なんでそこで」ではなく「そうか、そこか」と受け取って終わりにします。理由を掘り下げるのは、次の面談で十分です。その場で詰められないとわかると、次の日も答えてくれます。
異音や違和感のような「気づき」を記録に残す仕組みは ヒヤリ・ハットが集まらない現場で、報告を続ける仕組みのつくり方 にまとめています。声かけは、その手前の入口のようなものです。
月1回、10分の面談(1on1)
毎日の声かけで拾えるのは、その日の小さなことが中心です。 「この仕事、自分に向いていない気がする」「あの工程はいつも自分ばかり」のような、少し重い困りごとは、立ち話では出てきません。そのために、月に1回、1人10分だけ、話す時間を取ります。
1. 先にカレンダーに入れてしまう
「手が空いたら話そう」と思っていると、手は空きません。 月初めに、全員分の日と時間を先に決めて、ホワイトボードや予定表に書いておきます。5人の現場なら、月に50分です。
2. 場所は、向かい合わせより横並び
会議室で机をはさんで向かい合うと、どうしても「評価される場」の空気になります。 休憩室の長いす、作業台の端、機械の横。同じ方向を見ながら並んで座れる場所のほうが、話が出やすくなります。
3. 聞くことは3つだけ
- 最近、やりにくいと感じていることはある?
- 自分ひとりで抱えていることはない?
- こちら(会社)に、手伝ってほしいことは?
最初の数回は、「特にないです」で終わるかもしれません。それで構いません。毎月この時間があること自体が、「ここでは言っていい」という合図になります。3回目、4回目あたりから、ぽつりと出てくることが多いです。
4. 話すのは相手、こちらは聞くほう
10分のうち、こちらが話すのは2〜3分までが目安です。 アドバイスしたくなっても、まずは「それで、どうなった?」「ほかには?」と続きを聞きます。解決策を考えるのは、面談のあとで構いません。
新人の受け入れ時期の振り返りは 新人の定着は最初の3か月。町工場の受け入れでやることの順番 で書いた15分の面談がそのまま使えます。この記事の面談は、その先──入って何年たった人とも続ける、毎月の10分です。
聞いたことを返す──ここがいちばん大事
声かけと面談で困りごとが出てきたら、一枚の紙(またはスプレッドシート)に書き出して、3つに分けます。
| 区分 | 中身 | 本人への返事の例 |
|---|---|---|
| すぐやる | 今週中に手が打てるもの | 「工具の置き場、明日一緒に変えよう」 |
| いつやるか決める | 設備・予算・人の手配がいるもの | 「主軸の点検、来月の休みにメーカーを呼ぶ」 |
| 今はできない | 理由があって手を付けられないもの | 「人を増やすのは今期は難しい。代わりに週1回、応援に入る」 |
大事なのは、3つ目の「今はできない」にも、必ず返事をすることです。 できない理由を聞くのは、言った側からするとがっかりします。でも、返事がないまま放っておかれるよりは、ずっと納得できます。「ちゃんと聞いてもらえた」という感覚は、通ったかどうかより、返事があったかどうかで決まります。
返事の期限は、1週間以内を目安にします。「来月考える」でも、その「来月考える」を1週間以内に伝えれば十分です。
出てきた困りごとを改善につなげる流れは 改善提案が出ないのは、やる気の問題じゃない。提案が集まる整え方 と重なります。面談で出た困りごとは、そのまま改善提案の種になります。
影響──拾えた困りごとは、トラブルの前ぶれであることが多い
冒頭の異音の話のように、現場の困りごとには設備故障・不良・ケガの前ぶれがよく混ざっています。 「最近、この材料はバリが出やすい」「この段取り、たまに位置がずれる」──こういう一言が、早めに拾えれば点検や手順の見直しで済み、拾えなければ止まってから対応することになります。
人の面でも同じです。 「あの工程はいつも自分ばかり」という声は、放っておくと、ある日突然の退職の理由になることがあります。早く聞けていれば、担当を回す、スキルマップで多能工化を進める、といった手が打てます。進め方は スキルマップのつくり方、多能工化はまず一枚の表から にまとめています。
かける時間は、毎日の声かけが数分、面談が月に1人10分。 それで、止まってから慌てる時間が少しでも減るなら、割に合う使い方だと思います。
明日やること
明日、現場に出たら、この順番で試してみてください。
- 言い換え表の中から、自分が言いやすい問いを1つ選ぶ
- 作業の切れ目で、2人にだけその問いを使ってみる
- 返ってきた答えは、その場で評価せず「そうか、そこか」で受け取る
- 夕方、聞いたことを紙に1行ずつ書き出しておく
- 来月の予定表に、1人10分の面談の日を全員分入れる
全部やらなくて大丈夫です。 「何かある?」を、具体的な問いに1回だけ変えてみる。それだけでも、返ってくる言葉は変わります。
困りごとを拾う声かけ・面談のチェックリスト
- 毎日の声かけで、「はい/いいえ」で終わらない具体的な問いを使っているか
- 声をかけるのは、加工中ではなく作業の切れ目にしているか
- 声かけで返ってきた答えを、その場で評価・叱責していないか
- 月1回・1人10分の面談の日が、先に予定表に入っているか
- 面談は、向かい合わせより横並びで座れる場所でしているか
- 面談で聞くことを3つ程度に絞っているか
- 面談で、こちらが話す時間は全体の3割以下になっているか
- 聞いた困りごとを一枚に書き出しているか
- 困りごとを「すぐやる/いつやるか決める/今はできない」に分けているか
- 「今はできない」ものにも、理由を添えて返事をしているか
- 聞いてから1週間以内に、本人に返事をしているか
11個そろっている現場は、そう多くありません。 いま3つか4つに丸がつくなら、聞く土台はもうあります。次は、「返事をする」の行に丸をつけるところから始めてみてください。
よければ、こちらも
- 気づきを記録に残す仕組みは ヒヤリ・ハットが集まらない現場で、報告を続ける仕組みのつくり方 にまとめています。
- 困りごとを改善につなげるなら 改善提案が出ないのは、やる気の問題じゃない。提案が集まる整え方 をどうぞ。
- ベテランの頭の中にあることを聞き出す問いは ベテランの勘・コツを言葉にする、暗黙知を引き出す問いかけ方 が近い内容です。
- 担当の偏りを減らすなら スキルマップのつくり方、多能工化はまず一枚の表から が使えます。
- 用語の整理は 属人化とは・技能伝承とは にまとめています。

「言ってくれればよかったのに」と思った日は、少しだけ自分を責めたくなります。 もっと現場を見ていれば、もっと話しやすい雰囲気だったら、と。
でも、少人数で見積も納期も設備も抱えながら、現場の一人ひとりを気にかけてきたこと自体が、もう十分に大変なことです。
困りごとが上がってくる現場に必要なのは、話し上手なリーダーではなく、具体的な問いを1つと、月10分と、必ず返す返事です。 明日は、「何かある?」を1回だけ言い換えてみてください。返ってくる言葉が、きっと少し変わります。