一日の終わりの町工場で、机の上に積まれた作業日報の束を手に取り、見積用紙と見比べようとしている担当者

作業日報から工数の実績を集める。次の見積の精度を上げる仕組み

一日の終わりに、現場から作業日報が上がってきます。 名前があって、品番があって、時間が書いてある。ちゃんと毎日、書いてもらえている。

なのに、次に同じ品番の引き合いが来たとき。 見積の前で電卓を持ちながら、頭に浮かぶのは「たぶん、これくらいだったはず」。

去年の日報は、キャビネットの中にあります。あるのは知っています。 でも、あの束をめくって時間を足し直す余裕は、今日もありません。

これは、日報の付け方が悪いからではありません。日報はもともと「誰が何時から何時まで働いたか」を残すために生まれた紙で、見積に使うことを想定した形になっていないことがほとんどだからです。

この記事では、日報を大きく作り替えずに、次の見積へつなげる形へ寄せる方法を、一緒に整理します。

結論:日報を見積に効かせるには、①1行に残す項目を「品番・段取り/加工の区別・実時間・数量・止まった理由」に絞る → ②月に一度、1品番だけ実績時間を合計する → ③見積時間と並べて、差の大きいものから次の見積に反映する、の順で進めるのがいちばん軽い形です。全品番を集計しようとすると続きません。まずは1品番から始めて大丈夫です。

何が起きているか

日報が見積に使えない理由は、たいてい次の3つのどれかです。

1. 段取りと加工が、ひとかたまりになっている

「9:00〜17:00 A社ブラケット」と書かれていると、そこに段取りが何分入っていたのかが分かりません。段取り時間は品番ごとに大きく違うので、ここが混ざったままだと、次の見積で段取り時間を乗せるときの根拠になりません。

2. 止まっていた時間が、加工時間に紛れている

材料待ち、図面の確認待ち、機械のトラブル。その間も日報の時計は進みます。止まった時間が加工時間に混ざったまま集計すると、実際より重い工数が出てしまい、見積が高くなります。逆に「止まっていたぶんは書きにくい」と現場が省くと、今度は軽く出ます。

3. 書いても、返ってこない

いちばん大きいのはこれかもしれません。書いた日報がどこで何に使われたのか、書いた本人に返ってこないと、日報は「出せば終わりの紙」になります。そうなると記入は少しずつ雑になり、集計しようとしたときには使えないデータの束になっています。

つまり問題は、現場の書き方ではなく、書いたものが一度も現場に戻っていないことにあります。ここは仕組み側で直せる部分です。

具体例:1品番だけ、実績を足してみると

現場の日報用紙、机上の集計表、見積書の3つが順につながり、見積からまた日報へ戻る循環を示した説明図

数字はわかりやすさのための例です。自社の数字に置き換えて読んでみてください。

繰り返し受注しているブラケット部品、1ロット50個の仕事があるとします。見積のときに置いた時間はこうでした。

これに対して、1か月分の日報から、この品番の行だけを拾って足してみます。

見積430分に対して、実績530分。差は100分(1時間40分)です。

この差を金額に直してみます。自社の時間チャージが1時間あたり4,500円だとすると、

1ロットあたり7,500円。この品番が年に12回流れているなら、年間で約9万円です。

金額の大きさに驚くというより、「思っていたより段取りが伸びていた」「加工が1個1.5分だけ重かった」という中身が見えたことのほうが大事です。1個1.5分の差は、現場に立っていても気づけません。日報を足して初めて姿を現します。

ちなみに、この差が出たからといって、現場が遅いわけではありません。見積の8分は、たぶん調子がよかった日の記憶から置かれた数字です。実績の9.5分のほうが、材料のばらつきも刃物の摩耗も含んだ、いつもの現場の姿です。直すべきは現場の速さではなく、見積に置く数字のほう、というだけの話です。

見積と現場に与える影響

この100分は、放っておくと毎回そのまま流れていきます。

見積時間が実績より短いままだと、その品番は受注するたびに少しずつ利益が薄くなります。しかも困ったことに、赤字にはならないことが多いので気づけません。「なんとなく忙しいのに、思ったほど残らない」という感覚だけが残ります。この感覚の正体を数字にするのが、日報の集計です。

もうひとつ、納期のほうにも効きます。1品番あたり100分ずれていると、週に何本も流れる工場では、週末に向けてじわじわ計画が後ろにずれていきます。負荷山積み表や工程表を作っていても、そこに入れている標準時間が実績とずれていれば、絵の上では間に合っているのに現場は間に合わない、という状態になります。

そして、集計した結果を現場に戻すと、日報そのものが変わります。

「先月のブラケット、日報を足したら段取りが55分だった。見積は30分で出してたから、次から55分で出すことにした」

これを朝礼で一言伝えるだけで、日報は「出せば終わりの紙」から「見積に使われる紙」に変わります。責める必要はまったくありません。事実を共有して、見積のほうを直したと伝えるだけで十分です。むしろ「ちゃんと書いてくれていたから直せた」と言えると、次の月の日報はもっと正確になります。

なお、止まっていた時間(材料待ちの40分)は工数には入れませんが、捨てずに残しておくと別の役に立ちます。同じ理由が何度も並ぶようになったら、それは工程側で潰せる小さな停止です。

明日やること

全品番をそろえようとしないのがコツです。まず1品番だけ、次の順に進めてみましょう。

  1. 繰り返し受注している品番を1つ選ぶ。毎月流れていて、社内で「よく出るやつ」と呼ばれているもので構いません。単発の特注品は最後で大丈夫です。
  2. 今の日報の様式を1枚見て、段取りと加工が分けて書けるか確認する。分けられないなら、行の端に「段」「加」のどちらかに丸をつける欄をひとつ足すだけで足ります。新しい様式を作り直す必要はありません。
  3. 「止まった理由」の欄を作る。自由記述にすると書いてもらえないので、材料待ち/図面待ち/機械/その他から丸をつける形にします。分数は5分単位のざっくりで十分です。
  4. 1か月ためて、その品番の行だけ拾って合計する。段取りの合計、加工の合計、止まりの合計の3つだけ出します。電卓でもExcelでもかまいません。
  5. 見積に置いていた時間と並べて、差を見る。差が10%以内なら今の見積は使えています。大きければ、次の見積から実績の数字に寄せます。
  6. 直したことを、現場に一言戻す。ここまでやって、ようやく仕組みが一周します。

スマホやタブレットで工数を入力できるツールもありますが、最初から入れる必要はありません。紙の日報でも、集計して見積に返す一周さえ回れば効きます。回り始めてから、手入力がつらい部分だけ道具に置き換えれば十分です。

もし日報自体がまだ無い、あるいは形骸化しているなら、標準時間の決め方から入ったほうが早いこともあります。順番はどちらからでも大丈夫です。

作業日報を見積につなげるチェックリスト

まず1つだけやるなら、これだけで十分です。

この1回だけで、自社の見積が重めなのか軽めなのかの感触がつかめます。 残りは、手が空いたときに少しずつで大丈夫です。

慣れてきたら確認:

全部そろっていなくて構いません。上の2つが動くだけでも、次の見積は確実に変わります。

よければ、こちらも

朝の工場の事務机で、集計した実績の紙をそばに置いて、落ち着いた表情で見積書を書いている担当者

日報を書いてもらうのは、現場に手間をお願いすることです。 その手間に見合うものを返せていないと感じていたなら、それはとても真っ当な感覚だと思います。

一度でいいので、1品番だけ足してみてください。 そこで出た「思っていたより25分長かった段取り」は、去年からずっとそこにあった数字です。誰も気づけなかっただけで、現場はその25分を、毎回きちんと働いていました。

見積の精度は、勘のよさで決まるものではありません。 書いてもらった紙を、一度だけ足す。それを次の見積に返す。この地味な一周を回した工場が、少しずつ当たるようになります。

今日この記事を開いて、キャビネットの日報を思い出したなら、その一周はもう始まっています。

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