
停電で設備が止まったら。町工場の初動と復旧の段取りを紙1枚に
旋盤の音、コンプレッサの音、換気扇の音。それが一瞬で全部消えて、工場の中がしんと静かになる。
窓の光だけになった工場で、みんなが顔を見合わせる。「停電?」「うちだけ?」「あの機械、加工の途中だったよね」。
雷の季節や台風の季節に、一度は経験したことがある場面だと思います。そして多くの工場で、このときの動き方はその場にいたいちばん慣れた人の頭の中にしかありません。
それで回ってきたのなら、それは現場の力です。ただ、その人がいない日に止まることもあります。今日は、その頭の中を紙1枚に写しておく話です。
結論:停電や断水で設備が止まったときは、①人の安全を確かめる → ②機械の電源を切って、勝手に動き出さない状態にする → ③原因と範囲を確かめて、社内と関係先に知らせる → ④電気が戻ったら、順番を決めて1台ずつ立ち上げる → ⑤止まった瞬間に加工していた品物を、初物と同じように確かめる。この5つを紙1枚にして、配電盤のそばと事務所に貼っておけば、誰が居合わせても同じ順番で動けます。
やることを並べると、こうなります。
- 停電のときの初動3つ(止める・確かめる・知らせる)を紙に書く
- 電気が戻ったときの立ち上げの順番を決める
- 止まった瞬間の品物の扱いを決める
- 連絡先の一覧を紙で持っておく
- 年に1回、みんなで紙を読み合わせる
今日いちばん手軽なのは、配電盤の場所と、主なブレーカーがどの設備につながっているかを確かめることです。扉を開けて表示を見るだけなら、10分もかかりません。
何が起きているか — 止まることより、戻るときに困る
停電そのものは、工場の側ではどうにもできません。落雷、台風、電線のトラブル、構内の設備の不具合。原因はいろいろです。
現場で困りやすいのは、実は止まった瞬間よりも電気が戻る瞬間です。
- 電源スイッチが入ったままの機械が、電気が戻った途端に動き出す
- すべての設備に一度に電気が入って、ブレーカーがまた落ちる
- 加工の途中で止まった品物を、そのまま続きから削ってしまう
- 機械の原点や工具の位置がずれたまま、いつもどおりに動かしてしまう
どれも「早く元に戻したい」という気持ちから起きることです。納期を抱えている現場ほど、急ぎたくなるのは当然です。だからこそ、急いでいるときに迷わない順番を、落ち着いているうちに決めておきます。
ほんの一瞬だけ電気が途切れる瞬時停電(瞬停)もあります。照明はすぐ戻っても、機械の制御装置やコンプレッサだけが止まっていたり、アラームが出ていたりします。「すぐ戻ったから大丈夫」ではなく、瞬停のあとも同じ確認をしておくと安心です。
断水も、工場によっては設備に関わります。冷却に水を使っている設備、水で洗浄する工程、そして手洗いやトイレ。どの設備が水を使っているかは、工場ごとにずいぶん違うので、自分の工場の分だけ書き出しておけば十分です。
初動は「止める・確かめる・知らせる」の3つ

止まった直後にやることは、3つだけです。
止める — 人の安全と、勝手に動き出さない状態
まず、けがをした人がいないかを声をかけ合って確かめます。暗くなった工場では、足元の切りくずや工具につまずきやすくなります。懐中電灯を決まった場所に置いておくと、ここで慌てずに済みます。
次に、止まった機械の電源を切ります。 電気が戻ったときに、機械が思わぬ動き方をしないようにするためです。
- 各設備の電源スイッチ(操作盤の電源、機械の主電源)を切る
- 機械の扉は、中の様子が落ち着いてから開ける。刃物やワークに手を入れない
- エアで動く治具や、クレーンで吊っている荷がないかを確かめる
機械ごとの停電時の扱いは、取扱説明書に書かれていることが多いので、「停電したら」のページに付箋を貼っておくと心強いです。
確かめる — うちだけか、周りもか
次に、止まった範囲を確かめます。
- 工場の一部だけが止まった → 構内のブレーカーが落ちた可能性。どのブレーカーかを確かめる
- 工場全体が止まった → 構内の主な遮断器、または外からの停電の可能性
- 近所も暗い、信号も消えている → 地域の停電の可能性が高い
地域の停電かどうかは、契約している電力会社の停電情報のページやアプリで確かめられることが多いです。事務所の誰かのスマートフォンに入れておくと、ここが早くなります。
構内のブレーカーが落ちていた場合、原因が分からないまま何度も入れ直すのは避けて、どの設備の系統かを確かめてから入れます。受電設備(キュービクル)のある工場で、そこが原因らしいときは、保安の点検をお願いしている電気の専門の方に連絡するのが確実です。
知らせる — 社内と、関係する先へ
止まったことを、社内の責任者に伝えます。そのうえで、長引きそうなら関係する先にも。
- 社内:社長・工場長・各工程のリーダー
- 電気関係:電力会社、保安をお願いしている電気の専門の方、電気工事の業者
- 設備関係:止まった設備のメーカーのサービス窓口
- お客さん:今日・明日に納める品物がある先(長引きそうなとき)
停電中はパソコンが使えないことがあります。連絡先は紙に書いて、事務所と配電盤のそばに貼っておきます。 スマートフォンの電話帳だけに頼らないのがコツです。
お客さんへの連絡の仕方は、納期遅延が起きた日の連絡と、再発を防ぐ振り返り方 にまとめています。「分かっていることと、まだ分からないこと」を分けて早めに伝えるのは、停電のときも同じです。
具体例 — 夕立の雷で止まった30分
ある工場での話として追ってみます。
マシニングセンタ3台と旋盤2台、コンプレッサ1台の工場です。夏の午後、夕立の雷のあと工場全体が止まりました。
そのときは、いちばん長くいるベテランが自然に指示を出しました。みんなの無事を確かめて、機械の電源を切って回り、近所も暗いことを確かめて、電力会社の停電情報を見ました。地域の停電で、30分ほどで電気が戻りました。
ここまでは順調でした。困ったのは、戻ってからです。
- 誰かが「早く動かそう」と、コンプレッサと全部の機械を続けて入れた
- マシニングセンタの1台で、止まったときに加工していた品物の続きをそのまま削った
- その品物は、あとの検査で段差の寸法が外れていた
止まった瞬間に刃物がワークに当たったままで、わずかな段が付いていたのです。続きから削ったので、その段が残ってしまいました。
リーダーは、次の週にベテランと二人で、停電のときの動き方を紙1枚に書き出しました。
| 順番 | やること | 担当 |
|---|---|---|
| 1 | みんなの無事を声で確かめる | その場の全員 |
| 2 | 各機械の電源を切る | 各機械の担当 |
| 3 | 構内だけか、地域の停電かを確かめる | リーダー(不在なら事務所) |
| 4 | 社長と、今日納める先に連絡するか決める | リーダー |
| 5 | 電気が戻ったら、コンプレッサ → 機械を1台ずつ立ち上げる | リーダーの合図で |
| 6 | 止まったときに加工中だった品物は、初物と同じに確かめる | 各機械の担当 |
2か月後、今度は瞬停で機械が2台止まりました。その日はベテランが休みでしたが、若手が紙を見て、同じ順番で立ち上げました。加工途中だった品物は脇に分けて測り、問題のないことを確かめてから続きに入りました。
紙1枚が、ベテランの頭の中を、みんなの手元に移してくれた形です。
影響 — 戻し方ひとつで、そのあとの半日が変わる
停電で止まった時間は、取り戻せません。でも、戻し方で、そのあとに失う時間は小さくできます。
- 一度に全部入れて、またブレーカーが落ちる → 原因を探すところからやり直しになる
- 原点や位置がずれたまま動かす → 治具や刃物をぶつけて、修理が必要になることもある
- 途中の品物を続きから削る → 不良が出て、材料と加工時間がまるごと消える
- 止まったことを知らせずにいる → 納期の相談が遅れて、お客さんとの調整が難しくなる
どれも、順番を決めておけば起きにくくなることです。
加工途中で止まった品物は、初物検査のやり方。段取り替え後の不良を作り込まない一手 と同じ考え方で扱うと迷いません。止まった品物は、いったん「初物」に戻す。これだけで、続きから削ってしまう事故はぐっと減ります。
明日やること — 5つの手順
1. 配電盤とブレーカーの対応を確かめる
配電盤の扉を開けて、どのブレーカーがどの設備につながっているかを確かめます。表示が消えていたり、設備を入れ替えたあと古いままだったりしたら、テープに書いて貼り直します。暗い中でも探せるように、配電盤のそばに懐中電灯を1本。
2. 初動3つを紙に書く
「止める・確かめる・知らせる」の中身を、自分の工場の言葉で書きます。先ほどの表のように、順番と担当を並べるだけで十分です。
3. 立ち上げの順番を決める
電気が戻ったら、全部を一度に入れずに1台ずつ。たとえば、こんな順番が考えやすいです。
- 照明と事務所まわり
- コンプレッサ(エアが要る機械の前に)
- 機械を1台ずつ。電源を入れたらアラームを確かめ、取扱説明書の手順で原点に戻す
- いつもの暖機をしてから加工に入る
機械によっては、原点に戻す手順や、止まったときの工具の位置の確かめ方が決まっています。立ち上げの暖機については、暖機運転は何分?朝いちばんの精度確認を毎朝のルーティンにする にまとめています。
4. 止まった品物の扱いを決める
「止まったときに加工中だった品物は、脇に分けて赤い札を付け、測って確かめてから続きに入る」。この一文を紙に入れておきます。測る人と、続けてよいか決める人も書いておくと安心です。不良かもしれない品物の分け方は、不良品の識別と隔離。良品に混ざって流出させないための置き方 が参考になります。
5. 連絡先を紙で持ち、年に1回読み合わせる
電力会社、電気の保安をお願いしている方、電気工事の業者、主な設備のメーカーの窓口。電話番号を紙に書いて、事務所と配電盤のそばに貼ります。
そして年に1回、朝礼の5分でいいので、みんなで紙を読み合わせます。台風や雷の季節の前がちょうどいいきっかけです。書いてあることが今の工場と合っているか、そのときに直せます。
日ごろの保全の記録が残っていれば、停電のあとの不調にも気づきやすくなります。記録の残し方は 保全記録の残し方、故障の「またか」を減らす一枚 にまとめています。
停電・設備トラブル時の初動チェックリスト
まず1つだけやるなら、これだけで十分です。
- 配電盤の場所と、主なブレーカーがどの設備につながっているかを確かめたか
これだけで、止まったときに「どこを見ればいいか」で迷う時間がなくなります。 残りは、手が空いたときに少しずつで大丈夫です。
慣れてきたら確認:
- 配電盤のそばと事務所に、懐中電灯を置いているか
- 止まったらまず、みんなの無事を声で確かめる決まりがあるか
- 止まった機械の電源を切る担当が決まっているか
- 取扱説明書の「停電したら」のページが分かるようにしてあるか
- 構内だけか地域の停電かを確かめる方法(電力会社の停電情報など)が決まっているか
- 原因が分からないまま、ブレーカーを何度も入れ直さないことが共有されているか
- 連絡先の一覧を、紙で事務所と配電盤のそばに貼っているか
- 電気が戻ったら、1台ずつ立ち上げる順番が決まっているか
- 立ち上げのあと、原点に戻す・暖機をする手順が決まっているか
- 止まったときに加工中だった品物を、脇に分けて確かめる決まりがあるか
- 水を使う設備と、断水したときの扱いを書き出しているか
- 年に1回、紙をみんなで読み合わせているか
全部そろっていなくて構いません。上のひとつが分かっているだけで、止まった瞬間の心細さはずいぶん小さくなります。
よければ、こちらも
- 止まったあとの不調に早く気づくには、機械が止まる前に。異音・振動で不調に気づくチェック点を整理 が役立ちます。
- 立ち上げのあとの暖機と精度の確かめ方は、暖機運転は何分?朝いちばんの精度確認を毎朝のルーティンにする をあわせてどうぞ。
- 加工途中で止まった品物の確かめ方は、初物検査のやり方。段取り替え後の不良を作り込まない一手 と同じ考え方です。
- 止まった設備がなかなか直らないときは、止まってから慌てない、予備部品・消耗品の在庫の持ち方 で備えを整理しています。
- 止まった時間を取り戻す段取りは、急な欠勤で人が足りない日。何を止めて何を通すか、決める順番 の考え方が使えます。
- お客さんへの連絡が必要になったら、納期遅延が起きた日の連絡と、再発を防ぐ振り返り方 を参考にしてみてください。
- 止まった時間の損失を数字で見たいときは、町工場のツール も使えます。

停電で止まった日に、うまく動けなかったことがあっても、自分を責める必要はありません。
突然、明かりも音も消えた工場で、みんなの無事を確かめて、機械を止めて、電気が戻るのを待った。それだけでも、現場はちゃんと仕事をしています。
足りなかったのは、腕や気持ちではなく、順番を書いた紙1枚だけです。それは、落ち着いている今日のうちに作れます。
まずは配電盤の扉を開けて、ブレーカーの表示を見てみる。そこから、止まっても慌てない工場が始まります。