町工場のマシニングセンタの前で、作業着姿の現場リーダーと、メーカーのサービス担当者が並んで立ち、開いた点検カバーの中をのぞき込みながら話している情景

設備点検、どこまで自社でやる?メーカー点検との線引き5つの目安

年に一度のメーカー点検。来てもらった日は安心するけれど、請求書を見ると「この項目、うちでもできたんじゃないか」と思うことがある。 かといって、全部自分たちでやろうとすると、どこを触っていいのか分からないところも多い。 そして結局、「次の点検までは、壊れないことを祈る」になっていませんか。

設備の点検をどこまで自社でやって、どこからメーカーに任せるか。 これは、はっきり線を引いている工場のほうが少ないくらいです。設備を入れたときの流れのまま、なんとなく続いている。それは怠けているのではなく、目の前の加工と納期を優先してきた結果です。

この記事では、点検を「誰がやるか」で分ける目安を、一緒に整理していきます。

結論:設備の点検項目を、日常点検(毎日、使う人が)・定期点検(月に一度ほど、自社で)・メーカー点検(専門の知識や道具、資格が要るもの)の3つに分けます。分ける目安は①安全 ②法令や保証の決まり ③必要な道具と技能 ④精度への影響 ⑤止まったときの影響の5つ。迷う項目は、まず「メーカー点検」に置いておき、点検の日にサービス担当者へ「自社でやってよいか」を聞けば大丈夫です。

進める順番は、こうです。

  1. いちばん止まると困る設備を1台選び、今の点検項目を書き出す
  2. 5つの目安で、各項目を3つのどれかに振り分ける
  3. 迷った項目は、次のメーカー点検の日に聞く
  4. メーカー点検の報告書を、自社の保全記録とひとつにまとめる

何が起きているか──「全部お任せ」と「全部自前」のあいだで迷う

設備の点検には、大きく2つの偏り方があります。

どちらも、その工場なりの理由があって今の形になっています。 ただ、本当はその中間に、「使う人が毎日見る」「自社で月に一度見る」「専門家に任せる」という3つの持ち場があります。点検項目をこの3つに置き直すだけで、費用と安心のバランスが取りやすくなります。

ここで言う「自社でやる」は、修理や分解のことではありません。 掃除・給油・増し締め・目で見る点検・消耗品の交換など、取扱説明書で使う人に任されている範囲のことです。ここを自社で受け持つと、メーカー点検の日は「専門家にしか見られないところ」に時間を使ってもらえるようになります。

線引きの5つの目安──その項目は、誰が見るのがいいか

設備点検を3つの持ち場に分けた説明図。左は作業者が機械を布で拭いている絵、中央は現場リーダーがクリップボードを持って機械のベルトを確かめている絵、右はメーカーのサービス担当者がノートパソコンを使って制御盤を調べている絵
点検項目を「日常点検」「定期点検」「メーカー点検」の3つの持ち場に分ける。自社で受け持つほど、メーカー点検の日を専門的なところに使える

点検項目をひとつずつ見ながら、次の5つを確かめていきます。厳密な点数をつける必要はありません。「これは自社で見ても大丈夫そうか」の感触がつかめれば十分です。

目安自社で見やすい項目メーカーや専門業者に任せたい項目
① 安全電源を切った状態で、外から見る・拭く・給油する制御盤の中、高圧の油圧・空圧回路、高所や重量物の作業
② 法令や保証の決まり取扱説明書で使う人に任されている点検法令で資格者や登録業者による検査が決まっているもの、自社で触ると保証の対象外になるもの
③ 道具と技能目視・手で触る・ゲージや油の量の確認専用の測定器や診断ソフト、分解の技能が要るもの
④ 精度への影響触っても加工精度に影響しない部分主軸、送り機構の調整、水平出しなど精度に直結する部分
⑤ 止まったときの影響代わりの設備があり、止まっても段取りで回せる1台しかなく、止まると納期に直結する

いちばん先に見るのは、①の安全と②の決まりです。 ここに当てはまる項目は、ほかの目安に関係なくメーカーや専門業者に任せます。フォークリフトやプレス機械、クレーンなど、法令で定期の自主検査が決まっている設備もあります。対象や頻度は設備ごとに違うので、取扱説明書やメーカー、所轄の労働基準監督署で一度確かめておくと安心です。

③と④は、「やろうと思えばできる」けれど、やり方を間違えると後が大変な項目です。 たとえば主軸まわりの調整は、少しのずれが寸法不良につながることがあります。こういう項目は、メーカー点検の日にやり方を見せてもらい、自社でやってよい範囲だけを教えてもらうのがおすすめです。

⑤は、ほかの4つで迷ったときの決め手になります。 1台しかない設備、止まると取引先に迷惑がかかる設備ほど、日常点検を手厚くし、メーカー点検も間をあけすぎないようにしておくと落ち着きます。

3つの持ち場──日常点検・定期点検・メーカー点検

日常点検──毎日、その機械を使う人が見る

始業前や終業後に、使う人が数分で見る項目です。 掃除、油の量、エアの圧力、いつもと違う音やにおい、切りくずのたまり具合。「いつもと違う」に気づけるのは、毎日その機械を使っている人だけです。

項目は5つ前後に絞るのが続けるコツです。決め方は 自主保全(TPM)を少人数の町工場で無理なく始める第一歩 と 清掃点検の始め方 で整理しています。

定期点検──月に一度ほど、自社で少し深く見る

毎日は見なくていいけれど、年1回のメーカー点検まで放っておくには長い項目です。 ベルトの張りや傷み、フィルタの汚れ、ボルトのゆるみ、消耗品の交換、潤滑油の入れ替えなど。取扱説明書の「定期点検」の章に、使う人がやってよい項目が書かれていることが多いので、まずはそこから拾います。

担当は、設備に少し詳しい人がひとりで抱えるより、2人で受け持つほうが安心です。ひとりが休んでも止まりませんし、教えながら回すことで技能も残ります。給油の決め方は 設備の潤滑管理を紙1枚から始める決め方 が参考になります。

メーカー点検──専門の知識・道具・資格が要るところを任せる

5つの目安で「任せたい」に入った項目です。 精度の測定と調整、制御盤や油圧ユニットの点検、法令で決まった検査など。ここは無理に自社で抱えず、専門家の時間を買うと割り切ってしまって大丈夫です。

自社で日常・定期の点検を受け持っていれば、メーカー点検の日に「掃除から始める」時間が減り、そのぶん専門的なところを見てもらえます。

具体例──8台・40項目を振り分けてみると

仮に、マシニングセンタやNC旋盤など8台の設備がある工場で、点検項目を書き出したら40項目あったとします。 これまでは、半分ほどを「詳しいベテランがたまに見る」、残りを「年1回のメーカー点検で見てもらう」という形でした。

5つの目安で振り分けると、こうなりました。

22+10+8で40項目。 大きく変わったのは、ベテランひとりが抱えていた項目が、日常点検と定期点検に分かれて、ほかの人にも見える形になったことです。メーカー点検の日には、8項目に絞って見てもらい、空いた時間で「この定期点検の項目、自社でやって大丈夫か」を確かめてもらえました。

数字は一例で、設備の種類や台数で変わります。 ただ、「なんとなく」を「誰が見るか決まっている」に変えるだけで、点検の抜けや重なりはずいぶん減ります。

影響──持ち場が決まると、メーカー点検の日が変わる

持ち場を分けると、点検の費用のほかにも変わることがあります。

メーカー点検の日は、立ち会って話を聞くのがおすすめです。 報告書をもらうだけでなく、「次の点検までに気をつけて見るところ」「自社でやってよい範囲」を聞いておくと、それがそのまま日常点検・定期点検の項目になります。報告書は自社の保全記録と同じところにとじておくと、保全記録の残し方 で振り返るときにも役立ちます。

明日やること

明日は、次の3つだけで十分です。

取扱説明書が見つからないときは、設備の取説・図面が見つからない日に から始めてみてください。 全部の設備を一度に分けなくて大丈夫です。1台分の表ができれば、2台目からはずっと早くなります。

自社点検とメーカー点検の線引きチェックリスト

全部そろえなくて大丈夫です。まずは最初の2つだけでも、点検の抜けはずいぶん減ります。

最低ライン(ここだけは)

余裕があれば

よければ、こちらも

朝の町工場で、作業者たちがそれぞれ自分の機械の前で始業前の点検をしていて、現場リーダーが少し離れたところから明るい笑顔で見守っている情景

メーカー点検に頼りきりだった。あるいは、詳しい人がひとりで全部見てきた。 どちらも、限られた人と時間の中で、機械を止めないためにやってきたことです。そのがんばりがあったから、今日も機械は動いています。

変えるのは、持ち場の分け方だけ。 毎日見るのは使う人、月に一度は自社で、専門的なところはプロに。そうやって分けることで、機械を見守る目が少しずつ増えていきます。

まずは明日、1台分の点検項目を書き出して、3つに分けてみませんか。 次のメーカー点検の日が、「来てもらう日」から「一緒に機械を見る日」に変わるはずです。