朝の作業場で、旋盤の摺動面に油差しで油をさしているベテランと、その手元を横から見ている若手の作業者

給油はいつ、どこに。設備の潤滑管理を紙1枚から始める決め方

「この機械、給油って誰がやってるんだろう」

ふと思って、聞いてみる相手を探して、そのまま一日が終わる。次の日にはもう忘れている。——そういう機械、たぶん一台や二台ではないですよね。

前任者が毎朝やっていたのは知っている。でも、どこに何をどれだけさしていたのかは、誰も引き継いでいない。取扱説明書は事務所の棚のどこかにあるはずだけれど、型式も古いし、探す時間もない。それでも機械は今日も動いているので、そのまま置いてある。

責める話ではありません。給油は、やっても誰にも気づかれない仕事です。やらなくても、しばらくは何も起きません。だから後回しになる。当たり前です。

ただ、給油だけは「気づいたときにはもう遅い」の形で返ってくることがあります。しかも返ってくるのは、たいてい忙しい日です。

この記事でやりたいのは、完璧な潤滑管理をつくることではありません。「どこに・何を・どれくらいの間隔で」を、A4一枚に書き出すところまでです。 一台からで大丈夫です。

結論:まず一台だけ選んで、給油口を写真に撮り、番号を貼り、番号ごとに「油種・量・周期」を1行書く。これだけで潤滑管理は始まります。周期は毎日・毎週・毎月の3つに丸めると現場で回ります。油の種類と間隔は取扱説明書(メーカー指定)が最優先で、自己流で変えないのが安心です。記録は点検表に「給油」の欄を1行足すだけで十分です。

進め方は、こうです。

  1. 止まるといちばん困る機械を1台だけ選ぶ
  2. その機械の取扱説明書(または メーカーの給油指示)を手に入れる
  3. 給油口を写真に撮って、現物に番号シールを貼る
  4. 番号ごとに「油種・量・周期」を1行書いて、A4一枚にする
  5. 点検表に「給油」の欄を1行足して、やったらチェックする

いちばん効くのは3番です。言葉で書いた場所は伝わりませんが、写真に番号が貼ってあれば、初日の人でも同じ場所に行けます。

何が起きているか — 給油は、いちばん属人化しやすい仕事

「見えないところに、決まった量を、決まった間隔で」

給油という作業は、三つの条件がそろって初めて意味を持ちます。

そして、この三つはどれも外から見えません。ちゃんとやっている人と、やっていない人の区別が、その場ではつかない。だから、引き継ぎのときに落ちます。

掃除なら「きれいかどうか」が見えます。増し締めなら「ゆるんでいるか」を確かめられます。給油だけは、やった証拠がその場に残らない。ここが、他の日常保全と決定的に違うところです。

だから、こういう形で抜ける

現場でよく起きるのは、この5つです。

よくある抜け何が起きているか
場所が抜ける目に付く給油口だけさして、機械の裏や下の1〜2か所が何年も手つかず
油種が混ざる手近な缶から入れてしまう。摺動面油のところに作動油、など
量が多すぎる「たっぷりが安心」と入れすぎて、かえって発熱や漏れのもとになる
間隔が延びる忙しい月に飛ばして、そのまま元に戻らない
人が変わって消えるベテランが辞めた時点で、どこに何をさすかの情報も一緒に無くなる

とくに油種が混ざるは、あとから見つけにくい抜け方です。油やグリスは種類ごとに設計が違うので、違うものを混ぜると本来の性能が出なかったり、分離してしまったりすることがあります。缶の外側に何も書いていない状態は、いつかそうなる余地を残しています。

「量が多すぎる」も、ちゃんと問題になります

意外に思われるところなので、先に書いておきます。グリスや油は、入れれば入れるほど良いものではありません。軸受まわりにグリスを詰めすぎると、余分なグリスが抵抗になって温度が上がったり、シールを押し出して外へにじんだりすることがあります。油面計(のぞき窓)に上限と下限の線が引いてあるのは、そのためです。

「適量」というのは、遠慮した言い方ではなく、そのまま指示です。 上限と下限の間に入っていれば、それで合っています。

油の種類 — 見た目では区別がつかないので、缶に書く

町工場で扱う油脂は、だいたいこのあたりに分かれます。呼び方はメーカーによって変わるので、自社の機械の取扱説明書にある呼び方に合わせるのがいちばん確実です。

ざっくりした種類主に使うところ
摺動面油(スライドウェイオイル)テーブル・サドルなど、滑って動く面
油圧作動油油圧ユニット、油圧チャック、クランプまわり
主軸用オイル(スピンドルオイル)主軸の軸受まわり(機種による)
ギヤオイル減速機・ギヤボックス
グリスボールねじ、リニアガイド、ベアリング、グリスニップル
切削油・クーラント加工点にかけるもの(潤滑管理とは別の管理)

※あくまで一般的な区分です。同じ機械でも部位によって指定が違うので、最終的には取扱説明書に従ってください。

現場でできる、混ざらないための3つ

  1. 缶と容器に、油種を大きく書く。 中身が減って詰め替えたときにこそ、書き忘れます。ラベルを貼るより、油性ペンで直接書くほうが剥がれません。
  2. じょうご・ポンプ・油差しを、油種ごとに分ける。 分けたうえで、持ち手をビニールテープで色分けしておくと、迷いません。テープ1本で済みます。
  3. グリスガンは中身の名前を巻いておく。 グリスガンは中身が見えないので、いちばん取り違えやすい道具です。
油差しで油をさす手元、グリスガンをグリスニップルに当てる手元、油面計をのぞき込む顔の3つを横に並べた説明図
給油の作業は、大きくこの3つ。まずは自社の機械のどこがどれに当たるかを見分けるところから

具体例 — 5台ぶんの給油箇所を、書き出してみた話

社員6人、汎用機と NC 機を合わせて5台という工場を思い浮かべてみます。給油は「気づいた人がやる」状態で、決まった担当はいません。

まず、一台ずつ給油口を数えてみたところ、こうなりました。

機械給油箇所内訳
NC 旋盤6か所集中潤滑タンク1/油圧ユニット1/チャック2/その他2
マシニングセンタ7か所集中潤滑タンク1/主軸まわり1/ATC2/その他3
汎用旋盤5か所摺動面3/ギヤボックス1/心押台1
フライス盤6か所摺動面3/ギヤボックス1/その他2
コンプレッサー4か所本体油面1/ドレン1/その他2
合計28か所—

28か所。数えるまで、誰も数を知りませんでした。ここが出発点です。

28か所を、3つの周期に振り分ける

全部を毎日やる必要はありません。取扱説明書を見ながら、日・週・月の3つに丸めていきます。

周期中身箇所数かかる時間の目安
毎日(始業前)油面をのぞく/摺動面に油が回っているか見る8か所5台で10分ほど
毎週グリスニップルに規定量/集中潤滑タンクの補充14か所15分ほど
毎月〜年1回油の交換、フィルタ、汚れや水の混入の確認6か所メーカー指定に合わせる

「毎日10分」と聞くと長く感じるかもしれませんが、5台ぶんで10分、つまり1台あたり2分です。始業前にコーヒーを飲む時間くらいで回ります。

手間と、止まったときを並べてみる

数字で見てみます。時間チャージを仮に1時間4,000円として計算します。

毎日の給油にかかる手間

機械が1台、突発で2日止まったとき

64,000円 ÷ 13,300円 ≒ 約5。つまり、1回止まるだけで、給油およそ5か月分の時間が飛ぶ計算になります。

もちろん、給油をすれば故障がゼロになるという話ではありません。止まる原因はほかにもたくさんあります。ただ、手間のほうがずっと小さいというバランスは、見ておいて損はありません。社内で「その10分、必要なの?」と聞かれたときに、この形で説明できると話が早いです。

時間チャージが自社でいくらになるかは、計算ツール一覧の時間チャージの計算機で出せます。上の4,000円はあくまで仮置きなので、自社の数字に入れ替えて見てみてください。

影響 — 潤滑が決まると、ほかの管理もつながり始める

給油を紙1枚にすると、思っていたより広い範囲に効いてきます。

変わること中身
突発停止が減る方向に働く摺動面や軸受の焼き付き・かじりは、潤滑が絡むことが多い
精度の変化に気づきやすい毎日同じ場所を見るので、いつもと違う音・熱・にじみに先に気づける
属人化がほどける「前任者しか知らない場所」が写真と番号で残る
油の在庫が読める使う量が見えるので、切らして慌てて買いに走ることが減る
チョコ停の記録と結びつく「またここか」が分かると、原因を追う対象が絞れる

とくに2つ目は、給油のいちばん大きな副産物かもしれません。給油は、毎日決まった場所に手を伸ばして、機械の同じ面をのぞき込む作業です。その繰り返しの中で、「今日はちょっと音が高い」「ここ、昨日はにじんでいなかった」に気づく人が出てきます。

異音や振動の見方は機械が止まる前に。異音・振動で不調に気づくチェック点を整理にまとめてあるので、あわせて読むと拾える範囲が広がります。

明日やること — 5つの手順

手順1:機械を1台だけ選ぶ

全台まとめてやろうとすると、たいてい途中で止まります。選ぶ基準はシンプルに、「止まったらいちばん困る機械」です。代わりが利かない機械、その工程を通らないと出荷できない機械。1台でいいです。

主力機がどれかピンとこないときは、「いつもここで詰まる」を減らす、ボトルネック工程の見つけ方の考え方で選ぶと外れにくくなります。

手順2:取扱説明書(給油指示)を手に入れる

まずは事務所の棚と、機械の裏の書類ケースを探してみてください。それでも見つからないときは、次の順で当たります。

  1. メーカーのサイトで型式を検索する。近年は PDF が公開されていることが多いです
  2. メーカーのサポート窓口に型式と製造番号を伝えて問い合わせる
  3. その機械を入れた販売店・商社に聞く(古い機械ほど、こちらが早いことがあります)
  4. 中古機で出どころが不明なら、同型機の資料を持っている同業に聞いてみる

ここは省かないほうがいい工程です。 油種と間隔は、勘で決めると外します。1本の電話で済むことも多いので、まず聞いてしまうのが結局いちばん速いです。

手順3:給油口を写真に撮って、番号を貼る

ここが、この記事でいちばん伝えたいところです。

これで「機械の裏の、下から2番目の」という説明が要らなくなります。言葉ではなく、番号と写真で場所を指す。 新人でも、応援に来た人でも、同じ場所に行けます。

最近は、機械の横に QR コードを貼って、手元で撮った短い動画に飛ばしている工場もあります。凝った編集は要りません。「ここに、これを、これくらい」と話しながら30秒撮るだけで十分伝わります。動画で残す進め方はベテランの段取りを動画で残す。技能伝承の始め方を整理が参考になります。

手順4:番号ごとに1行、A4一枚にまとめる

書く項目は、5つだけにします。

番号場所油種量・目安周期
①摺動面(前)摺動面油油差しで数滴毎日
②集中潤滑タンク摺動面油上限線まで毎週
③主軸まわり指定オイルのぞき窓の線の間毎日(見るだけ)
④ギヤボックスギヤオイル交換:指定どおり年1回
⑤グリスニップルグリス数回押す(指定量)毎週

A4で1枚に収まる分量にしてください。2枚になった時点で、現場では読まれなくなります。収まらなければ、毎日の欄だけを1枚目にして、月次・年次は別紙にすると回ります。

作った紙は、その機械のそばに貼る。事務所のファイルに綴じると、二度と開かれません。

手順5:点検表に「給油」の欄を1行足す

新しい表は作らないでください。すでにある設備点検表に、「給油」の行を1行足すだけにします。

点検表そのものが続かない、という悩みがあるなら続く設備点検表のつくり方、まず減らしたい3つの手間を先に読んでみてください。項目を増やさないことが、いちばんのコツです。

記録が溜まってきたら、保全記録の残し方、故障の「またか」を減らす一枚の要領で、月に一度だけ見返します。毎月見なくても大丈夫です。3か月に一度でも、傾向は見えてきます。

ついでに整えておきたい、油まわりの置き場

給油の仕組みを作ると、たいてい「油の置き場、これでいいんだっけ」という話が出てきます。あわせて見ておきたいのは、この3つです。

1. 缶の置き場を1か所にまとめる あちこちに散っていると、手近な缶から入れる事故が起きます。1か所に集めて、油種ごとに並べる。それだけで取り違えはかなり減ります。工具や治具の置き場を整えた話と考え方は同じで、工具・治具の置き場を決めて、探すムダを減らす整理の手順がそのまま使えます。

2. 油のしみたウエスは、フタ付きの金属容器へ 油の付いた布を丸めて積んでおくと、条件によっては自然に発熱することがあります。フタ付きの金属容器に入れて、その日のうちに片づける——これは昔から言われている基本ですが、忙しいと山積みになりがちなところです。ゴミ箱を1つ替えるだけの話なので、今日でも変えられます。

3. 保管量が増えてきたら、一度確認する 油は消防法上の危険物にあたるものが多く、保管する量によっては届出や保管方法の決まりが関わってきます。量が増えてきた実感があるなら、購入している販売店か、所轄の消防署に一度聞いてみてください。ここは自己判断で済ませず、確認したほうが安心です。あわせて、油脂のSDS(安全データシート)を1か所にまとめておくと、聞かれたときにすぐ出せます。

切削油・クーラントは潤滑管理とは別の管理になりますが、置き場と扱いは近い話です。切削油・クーラントの管理と交換の目安を現場で続けられる形にもあわせてどうぞ。

潤滑管理チェックリスト(コピーして使えます)

まず1台ぶん

紙1枚をつくる

油を取り違えないために

続けるために

安全まわり

深追いしない目安

やらないと決めること

よければ、こちらも

明るい昼の作業場で、機械の横に貼った紙を見ながら若手が油差しを持ち、離れたところからベテランが穏やかに見守っている場面

給油は、やっても誰にも褒められない仕事です。取引先も、社長も、たぶん気づきません。それでも毎朝、機械の同じ場所に手を伸ばしている人がいるから、今日も予定どおりに削れている。 その事実は、記録に残らなくても消えません。

今日できることは、ひとつだけです。機械を1台選んで、給油口をスマホで撮ってみてください。 それだけで、今まで一人の頭の中にしかなかったものが、外に出ます。番号を貼るのも、紙を書くのも、その次の日で構いません。

28か所を一度に整えなくて大丈夫です。1台ぶん、5行の紙が1枚あれば、それはもう潤滑管理です。 残りの4台は、その紙が3か月続いてから考えれば十分間に合います。

「この機械、給油って誰がやってるんだろう」——その疑問が頭をよぎった時点で、もう半分は始まっています。あとは、写真を1枚撮るだけです。

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