
クレームを1回で終わらせない。社内共有と水平展開の回し方
春に一度、取引先からクレームが入った部品がありました。 原因を調べて、是正報告書を書いて、客先にも説明して、ようやくひと区切り。
ところが夏になって、別の機械で流していた別の品番で、よく似たミスが出る。 朝礼で誰かがぽつりと言います。「……これ、前にもなかったっけ」
その場の空気が、少し重くなりますよね。 でも、これは誰かが怠けていたから起きたわけではありません。春のクレームの学びが、その品番と、その担当者のところで止まっていただけです。
この記事では、1件のクレームを工場全体の学びに広げる社内共有と水平展開の回し方を、小さな手順に分けて整理します。
結論:クレームの再発防止は、その品番だけで閉じずに「似ているところ」にも広げて確かめると、ぐっと効きます。進め方は、①1枚で共有する(事実・原因・対策を短く)→ ②似ているところを探す(同じ設備・同じ工程・似た品物)→ ③確かめた結果を記録して閉じるの3つ。立派な会議はいりません。朝礼の5分と、紙1枚から始められます。
進める順番は、こうです。
- クレームの中身を、A4・1枚の「共有シート」にまとめる
- 朝礼などで、関係ありそうな人全員に5分で伝える
- 同じ設備・同じ工程・似た品物に、同じ原因が隠れていないか確かめる
- 確かめた結果を一覧に書き、全部に印がついたら閉じる
何が起きているか──是正報告書は「客先向け」で止まりやすい
クレームが入ると、現場はまず目の前の対応で手いっぱいになります。 選別をして、代品を作って、原因を調べて、是正報告書を出す。ここまでで、担当者はかなり消耗しています。
是正報告書(不良の原因と再発防止策を客先にまとめて出す書類)は、もともとお客さんに向けた書類です。 だから、出し終えると「終わった」という感覚になりやすい。社内で知っているのは、担当者と班長と社長くらい、ということも珍しくありません。
すると、こんなことが起きます。
- 同じ機械を使う夜勤や別の班の人が、クレームがあったことを知らない
- 対策が「その品番の作業指示書」にだけ書き足され、似た品番には反映されない
- 半年後に入った新人は、そもそも過去のクレームを知る手段がない
もうひとつ、見落とされやすいのが「話しにくさ」です。 クレームの話をすると、担当した人が責められているように感じてしまう。だから、できれば静かに終わらせたい。この気持ちは、とても自然なものです。
共有がうまく回らないのは、仕組みがないからであって、誰かの意識が低いからではありません。 だからこそ、責める場にならない共有の型を先に用意しておくのが近道です。
①1枚で共有する──「誰が」ではなく「どこで・なぜ」を書く
最初に作るのは、社内向けのクレーム共有シートです。是正報告書をそのまま回すと長くて読まれないので、A4・1枚に要点だけを抜き出します。
| 項目 | 書き方の例 |
|---|---|
| いつ・どの品物 | 4月、取引先B社向けの軸部品(品番を記入) |
| 何が起きたか | 片側の端面に、図面で指示された面取りがなかった |
| 見つかった場所 | 客先の組立工程(流出してしまった) |
| なぜ起きたか | 面取りの指示が図面の注記欄にだけあり、加工プログラムに入っていなかった |
| 何を変えたか | 作業指示書に「図面注記の確認」欄を追加。プログラム作成時に注記を読み上げて確認する |
| ほかにもありそうか | 注記の多いB社の図面、同じ旋盤で流す品番 |
ポイントは2つあります。
ひとつは、担当者の名前を書かないこと。 書くのは「誰がやったか」ではなく、「どこで・なぜ起きたか」です。名前が載らないと分かっていれば、次にクレームが入ったときも、ありのままを話してもらいやすくなります。
もうひとつは、最後の「ほかにもありそうか」の欄です。 ここが、次の水平展開の入口になります。分からなければ空欄でも大丈夫です。朝礼で「ほかにもありそうな所、思い当たる人いますか」と聞けば、現場のほうがよく知っています。
原因の深掘りがまだ浅いと感じたら、なぜなぜ分析のやり方、不良の原因を一緒にたどる で一度たどってから書くと、共有シートの「なぜ起きたか」が具体的になります。
伝えるのは朝礼の5分で十分
共有シートができたら、朝礼で5分だけ時間をもらいます。 読み上げるのは「何が起きたか」「なぜ起きたか」「何を変えたか」の3つだけ。話し終えたら、シートは休憩所や品質の掲示板に貼っておきます。
夜勤や別の班がある工場なら、同じシートを交代時の引き継ぎで渡すか、確認した人がシートの端に印をつけていく形にすると、伝わったかどうかが見えます。
②似ているところを探す──同じ設備・同じ工程・似た品物

共有ができたら、いよいよ水平展開です。 水平展開とは、1か所で見つかった不具合の原因が、ほかの似た場所にも隠れていないかを確かめ、必要なら同じ対策を広げること。「横展開」と呼ぶ工場もあります。
「似た場所」と言われても、どこまで見ればいいか迷いますよね。 まずは次の3つの観点で探すと、範囲を絞りやすくなります。
| 観点 | 確かめるところ | さきほどの面取り抜けの例 |
|---|---|---|
| 同じ設備 | クレーム品を流した機械で、ほかに加工している品番 | 同じ旋盤で流している常連品番のプログラム |
| 同じ工程 | 別の機械でも、同じ作業・同じ手順をしている所 | ほかの旋盤でのプログラム作成と段取りの手順 |
| 似た品物 | 形・材質・図面の書き方が似ている品番 | 面取りの指示が注記欄にあるB社の図面 |
工場によっては、「同じ材料ロット」「同じ作業者が担当している別の作業」「同じお客さんの別の品番」も当てはまります。 人・機械・材料・方法のどこが変わると同じことが起きるか、という見方は、4M変化点管理で「いつもと違う」を見逃さない始め方 の考え方とよく似ています。
全部を見なくていい。「近い順」に絞る
観点を広げると、確かめる先がいくらでも増えてしまいます。 少人数の工場で全部を見るのは現実的ではないので、クレームの原因に近い順に、まずは5〜10か所くらいに絞れば十分です。
たとえば面取り抜けの例なら、こんな流れになります。
- 同じ旋盤で流している常連品番を書き出す:12品番
- そのうち、面取りの指示が注記欄にある図面に絞る:5品番
- 5品番のプログラムと図面を、2人で突き合わせる:およそ1時間
実際にこうして確かめたところ、5品番のうち2品番で、同じように注記の面取りがプログラムに入っていなかった、ということは十分に起こりえます。 出荷前に見つかれば、それはクレームではなく未然に防げた不良です。ここで見つけた人は、ぜひ朝礼で褒めてください。
対策は「同じ」でなく「その場に合う形」で広げる
見つかった先に、元の対策をそのまま貼り付ける必要はありません。 別の機械では作業指示書の様式が違うかもしれないし、似た品物でも検査のやり方が違うかもしれません。原因が同じなら、対策の考え方をそろえて、形はその場に合わせるくらいの気持ちで大丈夫です。
人の注意に頼らない対策の作り方は 「気をつけます」で終わらせない、再発防止策の立て方 や ポカヨケの作り方、人のミスを仕組みで止める始め方 にまとめています。
③確かめた結果を記録して閉じる
水平展開でいちばん抜けやすいのは、「やったかどうか分からないまま、いつの間にか終わる」ことです。 そこで、確かめた先を一覧にして、結果を書き込んでいきます。
| 確かめる先 | 担当 | 期限 | 結果 | 対策 |
|---|---|---|---|---|
| 同じ旋盤の品番C | 班長 | 4/25 | 問題なし | ― |
| 同じ旋盤の品番D | 班長 | 4/25 | 同じ抜けあり | プログラム修正・指示書に注記欄 |
| 2号旋盤の段取り手順 | 品質担当 | 4/30 | 注記確認なし | 指示書の様式をそろえた |
| B社の別図面E | 品質担当 | 4/30 | 問題なし | ― |
全部の行の「結果」が埋まったら、その水平展開は閉じてかまいません。 閉じた一覧は共有シートの裏にホチキスで留めて、クレームごとに1冊のファイルにしておくと、あとから新人に見せる教材にもなります。
1か月後に、もう一度だけ見る
閉じたあと、1か月ほどしたら一度だけ振り返ります。 同じ種類の不良が出ていないかを、不良の記録で確かめるだけです。記録の取り方は 不良率を記録して傾向をつかむ、簡単な集計の始め方 を参考にしてください。
出ていなければ、それで十分です。もし出ていたら、展開の範囲が足りなかったか、対策がその場に合っていなかったサインなので、責めずにもう一度だけ範囲を見直しましょう。
影響──1件のクレームが、工場の財産に変わる
共有と水平展開が回るようになると、こんな変化が出てきます。
- 同じ種類のクレームが減る:1件の学びが、似た品番や別の機械にも先回りで届く
- 話しやすくなる:名前ではなく「どこで・なぜ」を話す場になるので、小さな異常も上がってきやすい
- 客先の信頼につながる:是正報告書に「類似品番も確認済み」と書けると、対策の確かさが伝わる
- 教える材料が残る:クレームごとの共有シートが、そのまま新人教育の教材になる
クレームは、できれば起きてほしくないものです。 でも、起きてしまった1件から工場全体が学べたなら、その対応にかけた時間は、決して無駄ではありません。
明日やること
明日は、次の3つだけで十分です。
- 直近のクレームか社内不良を1件選び、共有シートの6項目を埋めてみる
- 「ほかにもありそうか」の欄に、思い当たる設備・工程・品物を3つだけ書く
- 次の朝礼で、5分だけ時間をもらう約束をする
一覧表や1冊のファイルづくりは、そのあとで大丈夫です。まず1件、1枚から始めてみましょう。
クレームの社内共有・水平展開チェックリスト
- クレームの要点を、A4・1枚の共有シートにまとめているか
- 共有シートに、担当者の名前ではなく「どこで・なぜ」を書いているか
- 「ほかにもありそうか」の欄を設けているか
- 朝礼や引き継ぎで、関係しそうな人全員に伝えているか
- 夜勤や別の班にも伝わったか、確認の印などで見えるようにしているか
- 水平展開の先を「同じ設備・同じ工程・似た品物」で洗い出しているか
- 確かめる先を、原因に近い順に絞っているか
- 確かめる先ごとに、担当と期限を決めているか
- 結果をすべて書き込んでから、水平展開を閉じているか
- 1か月後に、同じ種類の不良が出ていないかを確かめているか
全部そろえる必要はありません。 まずは「1枚にまとめる」と「似ているところを3つ書く」の2つができれば、クレームはもう1回では終わりません。
よければ、こちらも
- クレームが入った直後の動き方は クレーム発生時の初動対応と是正報告書の書き方 にまとめています。
- 原因をたどるときは なぜなぜ分析のやり方、不良の原因を一緒にたどる が役立ちます。
- クレームになる前の小さな異常を集めたいときは ヒヤリ・ハットが集まらない現場で、報告を続ける仕組みのつくり方 も近い話です。
- 共有した対策を作業の手順に落とすなら 作業標準書の書き方、現場が実際に使う一枚に整えるには をどうぞ。
- 不良のコストを数字でつかむには 町工場のツール も使えます。

クレームの電話を受けた日は、誰だって気持ちが沈みます。 それでも原因を調べ、対策を考え、報告書を書き上げた。その時点で、もう十分に前へ進んでいます。
あとは、その学びを工場のみんなに手渡すだけです。 1枚の紙と朝礼の5分が、次の誰かのミスを、そっと先回りして止めてくれます。
まずは明日、直近の1件を1枚に。そこから、この工場の品質はもっと強くなっていきます。