夕方の工場の出荷場で、加工の終わった部品を前に、梱包しながら手を止めて考えている町工場の担当者

検査・梱包・出荷の手間賃。見積から抜けやすい付帯作業の乗せ方

加工は、読みどおりに終わりました。

見積では「1個あたり25分」で出していて、実際もだいたいそのくらい。機械も止まらなかったし、不良も出ていない。ここまでは、うまくいった仕事のはずです。

なのに月末、実際原価を並べてみると、思ったほど利益が残っていません。

日報をさかのぼって見ると、加工が終わったあとにこんな時間が並んでいます。全数の寸法検査。バリの当たり確認。1個ずつの袋入れ。検査成績書の作成。ミルシートのコピー。箱詰め。ラベル貼り。送り状の入力と集荷の電話。

どれも、やらないわけにいかない作業です。そして、どれも見積の中に行がありません。

これは、見積が甘かったという話ではありません。 加工時間はきちんと読めていたのです。抜けていたのは、「加工が終わったあと」という、見積書に欄がなかったところです。

この記事でやりたいのは、その欄をつくることです。付帯作業を洗い出して、時間を測って、見積に乗せる。難しい計算はありません。ストップウォッチと紙が1枚あれば足ります。

結論:検査・梱包・出荷の手間は、①加工が終わってからトラックに載るまでにやることを全部書き出す → ②それぞれを3回だけ時間を測る → ③「1個ごと」に増える作業と「1ロットに1回」で済む作業に分ける → ④時間チャージを掛けて、見積書に1行足す — この順番で乗せられます。いちばん大事なのは3番です。 ここを分けずに「1個あたり◯円」でまとめると、小ロットのときに必ず足が出ます。

進め方は、こうです。

  1. 加工後にやることを、思い出しながら全部書き出す
  2. それぞれ、3回だけ時間を測る
  3. 「1個ごと」と「1ロットに1回」に仕分ける
  4. 梱包材の実費を足す
  5. 時間チャージを掛けて、見積書に1行として乗せる

いちばん時間がかからないのは1番で、いちばん効くのは3番です。1番は、次の出荷を1回見ているだけで終わります。

何が起きているか — 付帯作業は「原価の外」に置かれやすい

まず、言葉を整理しておきます。

この記事で言う付帯作業(ふたいさぎょう)とは、加工そのものではないけれど、その仕事のために必ず発生する作業のことです。検査、洗浄、バリの確認、袋入れ、箱詰め、書類作成、ラベル貼り、出荷手配。呼び方は現場によって「後工程」「出荷準備」「雑作業」などさまざまです。

呼び方はどれでも構いません。問題は、この作業が誰かの手で確かに行われているのに、見積書の上に居場所がないことです。

なぜ抜けるのか

付帯作業が見積から抜けるのには、はっきりした理由があります。責任感の問題ではありません。

1. 図面に書いていない

見積を作るとき、多くの人は図面を見ます。図面には、材質と寸法と公差と表面処理が書いてあります。でも「箱に詰める」とは書いていません。 図面を出発点にして積み上げると、図面に書いていない作業はそもそも思い出す機会がありません。

2. 機械が動いていない時間だから

加工時間は、機械の前に立って測れます。切削している音が聞こえます。一方、袋に入れる作業や書類を書く時間は、機械が止まっている時間です。現場では「機械が動いている=仕事をしている」という感覚があるため、止まっている時間は原価として数えにくい。 これは感覚の問題であって、実際にはどちらも人の時間を使っています。

3. 「ついで」に見えてしまう

出荷の直前にまとめてやることが多いので、複数の仕事がまとまって見えます。「今日の出荷ぶん」を一気に片づけると、どの品番に何分かかったのかが分からなくなります。まとめてやると効率は上がりますが、そのぶん原価が品番に紐づかなくなります。

「小さいから、まあいいか」が効いてくるところ

1個あたり数分の話なので、感覚としては誤差に見えます。実際、1個だけなら誤差です。

効いてくるのは、同じ品番を何度も受けているときと、小ロットのときです。

リピート品は、最初に決めた単価がそのまま何年も使われます。最初の見積で付帯が抜けていると、その抜けが受注のたびにコピーされていきます。リピートの単価を見直す機会は、そう多くありません。

小ロットはもっと直接的です。理由は次の章で数字を見ますが、書類作成や箱詰めは、5個でも100個でもかかる時間があまり変わらないからです。この「変わらない時間」を個数で割ると、個数が少ないほど1個あたりが跳ね上がります。

見積全体の抜けの点検は、見積で「見落としがちな原価」を防ぐ、確認の順番に整理してあります。この記事は、そのうち「検査・梱包・出荷」のところだけを深く掘る話だと思ってください。

具体例 — 「1個ごと」と「1ロットに1回」に分ける

付帯作業を左右2つの列に分けた図。左は個数ぶん増える作業、右はロットに1回だけの作業を表している
付帯作業は「1個ごと」に増えるものと「1ロットに1回」で済むものに分けて数える

ここが、この記事でいちばん伝えたいところです。

付帯作業には、性格の違う2種類が混ざっています。

1個ごとに増える作業

1ロットに1回で済む作業

この2つを混ぜて「1個あたり◯分」にしてしまうと、その個数のときしか合わない数字ができあがります。20個で計算した数字を5個の見積にそのまま使うと、足りません。

実際に測ってみる

ある現場で、部品Aの付帯作業を測ってみた例です。時間チャージは1時間3,600円(1分あたり60円)として計算します。自社のチャージの出し方は加工賃の「時間チャージ」を自社で計算する手順にまとめてあります。

1個ごとにかかる作業

作業時間
寸法検査(3か所)1.5分
外観・バリの確認1.0分
袋入れ・緩衝材1.2分
合計3.7分/個

1ロットに1回かかる作業

作業時間
検査成績書の作成12分
ミルシートのコピー・添付3分
箱詰め・緩衝材詰め・封10分
外装ラベル印字・貼付4分
送り状作成・集荷手配6分
合計35分/ロット

梱包材の実費

品目金額
段ボール箱180円/ロット
緩衝材60円/ロット
外装ラベル10円/ロット
個別の袋8円/個

この数字はあくまで一例です。自社の品物・自社の梱包で測り直してください。 大事なのは金額そのものではなく、この2つの表に分かれている形のほうです。

20個のとき

時間
1個ごと:3.7分 × 20個 = 74分
1ロット:35分
合計 = 109分

手間賃
109分 × 60円 = 6,540円

梱包材
ロット分:180 + 60 + 10 = 250円
個別の袋:8円 × 20個 = 160円
合計 = 410円

付帯の合計 6,540 + 410 = 6,950円
1個あたり 6,950 ÷ 20 = 約348円

同じ品物を5個だけ作るとき

時間
1個ごと:3.7分 × 5個 = 18.5分
1ロット:35分(個数が減っても、ここは変わりません)
合計 = 53.5分

手間賃
53.5分 × 60円 = 3,210円

梱包材
ロット分:250円
個別の袋:8円 × 5個 = 40円
合計 = 290円

付帯の合計 3,210 + 290 = 3,500円
1個あたり 3,500 ÷ 5 = 700円

同じ品物、同じ作業なのに、1個あたりは348円と700円。およそ2倍の開きが出ます。

100個ならこうなります。

1個ごと:3.7分 × 100個 = 370分
1ロット:35分
合計 405分 × 60円 = 24,300円
梱包材:250 + 8円 × 100個 = 1,050円
付帯の合計 25,350円 ÷ 100個 = 約254円

3つ並べると、こうです。

数量付帯の1個あたり
5個約700円
20個約348円
100個約254円

個数が増えるほど下がって、あるところから下がり方がゆるくなります。 これは、35分の「1ロットに1回」が薄まっていくからです。逆に言えば、小ロットで足が出るのは段取りだけが理由ではありません。書類と箱詰めも、しっかり効いています。

数量ごとの単価を1枚の表にしておく話は、ロット別単価表の作り方 数量で変わる単価を一枚に整理するにまとめました。この付帯の計算は、そのまま単価表の材料になります。

加工賃と並べてみると

仮に、この部品の加工賃が1個1,800円だったとします。

数量加工賃付帯合計
5個1,800円700円2,500円
20個1,800円348円2,148円
100個1,800円254円2,054円

付帯を入れずに1,800円で見積を出していたとすると、5個の仕事では1個あたり700円ぶんが原価として先に出ていっています。5個で3,500円。1回なら飲み込める額かもしれませんが、これが毎月続く品番なら、話が変わってきます。

赤字かどうかの見極め方そのものは、赤字受注を見抜く、限界利益で「受ける仕事」を選ぶのほうに書きました。小口の仕事に下限を決める話は小口の仕事で赤字にしない。最低受注金額(ミニマムチャージ)の決め方が近いところです。

影響 — 見えていなかった時間が、数字になる

付帯作業を測って乗せると、現場では次のようなことが起きます。

1. 小ロットの見積が、根拠のある数字になる

これまで「小ロットは割高です」と感覚で言っていたところが、「書類と箱詰めで35分かかるので、5個だとこうなります」と説明できるようになります。客先に伝えるときの落ち着き方が変わります。 値段を上げる話ではなく、内訳を見せる話になるからです。

2. 「検査を厚くしてほしい」に答えられる

全数検査を求められたときや、成績書の項目を増やしてほしいと言われたとき、その追加が何分・いくらなのかを、その場で足せます。断るためではありません。受けるにしても、乗せて受けるためです。 抜き取りと全数の線引きは抜き取り検査と全数検査の使い分け。迷った日の決め方を整理にあります。

3. 書類の時間が、削る対象として見えてくる

検査成績書に12分かかっていると数字で出ると、「毎回ゼロから作っているからだ」と気づけます。ここは、見積を上げなくても短くできるところです。ひな形を1枚に決める手順は検査成績書の書き方。客先が見る項目と、社内で迷わない決め方にまとめました。

測って初めて、削れる場所が分かります。 見積に乗せることと、時間を短くすることは、どちらか一方ではありません。

4. 実際原価との差が小さくなる

月末に見積と実績を並べたとき、これまで「なぜか合わない」だったズレの一部が、はっきり説明できるようになります。原因が分かっているズレは、次の見積に反映できます。振り返りのやり方は見積と実際原価の差を、月末にそっと振り返る手順にあります。

5. 現場の作業が、原価として認められる

これは数字の話ではありませんが、いちばん大きいかもしれません。袋に入れて、箱に詰めて、送り状を書く。この時間が見積の中に行を持つと、その作業をしている人の時間が、会社の中で認められた形になります。 これまで「片づけ」と呼ばれていた時間に、名前と値段がつきます。

明日やること — 付帯作業を見積に乗せる5つの手順

手順1:加工後にやることを、全部書き出す

紙を1枚用意して、加工が終わってからトラックに載るまでを思い出しながら書き出します。5分で終わります。

思い出しやすいように、順番で並べてみてください。

抜けやすいのは、書類まわりと客先への連絡です。パソコンの前でやる作業は、現場の作業として数えられにくいところがあります。

洗浄やバリ取りそのものの工数はバリ取り・手仕上げの工数を見積に入れる、測り方と乗せ方に詳しく書いています。この記事と合わせると、加工後の時間がひととおり埋まります。

手順2:3回だけ、時間を測る

書き出した作業を、実際に測ります。3回で十分です。

完璧を目指さないでください。ゼロだった項目に「3.7分」と入るだけで、精度は劇的に上がります。 3.7分が実は4.2分だったとしても、ゼロよりはるかに近い数字です。

日報から拾えるなら、そちらのほうが早いこともあります(作業日報から工数の実績を集める。次の見積の精度を上げる仕組み)。

手順3:「1個ごと」と「1ロットに1回」に仕分ける

測った作業を、2つの箱に振り分けます。判断は、この問いかけひとつです。

「個数が10倍になったら、この時間も10倍になるか?」

迷うものもあります。たとえば箱詰めは、個数が増えると箱が2つ3つと増えます。この場合は「箱1つあたり◯分」として、箱の数で数えるのがいちばん実態に合います。無理に2つに押し込めなくて構いません。「◯個ごとに1回」という3つ目の箱を作っても大丈夫です。

手順4:梱包材の実費を足す

時間とは別に、モノのお金を足します。ここは領収書を見れば分かります。

木枠やパレットが必要な品物は、ここだけで数千円になることがあります。「箱代くらい」と思っていると、いちばん外れやすいところです。

なお、運送費・送料はこの記事の範囲外にしています。付帯作業(自社の手間)と運賃(外に払うお金)は、性格も変わり方も違うためです。運賃の乗せ方は運送費・送料を見積に反映する方法。入れ忘れを防ぐ順番に分けて書きました。

手順5:見積書に1行として乗せる

最後に、見積書の形を決めます。ここで迷う人が多いところです。

行を分けて出すか、加工賃に含めるか。 どちらでも構いませんが、性格が違います。

行を分ける加工賃に含める
見え方何にいくらか分かる総額だけ見える
客先の反応「この行は何?」と聞かれることがある単価だけを比べられやすい
数量が変わったとき説明しやすい説明しづらい
向いている相手内訳を見る客先、長い付き合いの客先総額で判断する客先

おすすめは、社内では必ず分けて、客先に出す形はその都度決めることです。 社内の見積計算書では「検査費」「梱包・出荷費」の行を必ず持つ。客先に出す見積書では、その2行を合わせて「検査・梱包・出荷費」の1行にする、あるいは加工賃に含める。

大事なのは、内訳を自分たちが把握していることです。客先に見せるかどうかは、その次の話です。どこまで開示するかの線引きは、相手との関係によって変わります。

書き方の一例です。

検査・梱包・出荷費  1式  6,950円
(全数寸法検査、検査成績書作成、個別包装、梱包資材、出荷手配を含む)

括弧の中を書いておくと、「この行は何をしてくれるのか」が伝わります。 金額だけの行より、聞かれる回数が減ります。

見積書に添える但し書きの整え方は見積書の有効期限と但し書き。材料が上がった日に困らない書き方にまとめてあります。

なお、付帯作業の負担を客先とどう分け合うかは、取引条件そのものに関わる話です。取り決めの内容や取引の形によって考え方が変わるため、判断に迷う場合は商工会議所や中小企業の支援機関、顧問の専門家に一度相談してみてください。この記事では、自社の原価を把握するところまでを扱っています。

付帯作業を見積に乗せるチェックリスト(コピーして使えます)

今週やること

書き出すときに、思い出したい項目

測るときに気をつけること

仕分けるときに確認すること

見積に乗せるときに確認すること

深追いしない目安

迷ったときの原則

よければ、こちらも

朝の明るい事務所で、付帯作業の時間を書き込んだ紙を見ながら、二人で見積を確認して笑顔になっている場面

付帯作業が見積から抜けていたのは、丁寧に仕事をしていなかったからではありません。むしろ逆で、丁寧にやっていたからこそ、それが当たり前の作業になっていたのだと思います。

検査して、袋に入れて、箱に詰めて、書類をそろえて、送り状を書く。この一連の作業は、客先に届いた瞬間の「ちゃんとした会社だな」を作っている部分です。誰にも褒められないところですが、確実に効いています。

今日できることは、ひとつだけです。次の出荷のとき、スマホのストップウォッチを押してみてください。 箱詰めが終わったら止める。それだけで、これまでゼロだった欄に、初めて数字が入ります。

その数字は、誰かが確かに使った時間です。見積書にその行が生まれたとき、その時間はようやく、会社の仕事として数えられるようになります。 一度に全部の品番でやらなくて大丈夫です。よく出る品番ひとつから、ゆっくり始めてみてください。

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