材料置き場で、内示表を片手に、使われないまま残った丸棒の材料を見つめている町工場の担当者

内示どおりに来ない。確定注文とのズレに振り回されない構え方

月初に、内示表が届く。

3か月先まで数字が並んでいて、来月は600個。去年より多い。ありがたい話です。だから材料屋に電話して、600個ぶんの丸棒を手配する。ここで動いておかないと、あとで慌てるのは目に見えている。

そして月末、確定注文が入る。420個。

その瞬間、悪いことをしたわけでもないのに、なぜか自分が責められているような気持ちになります。棚には180個ぶんの材料が、切られないまま立っている。誰にも文句は言えない。内示は「予定」だと、書面のどこかに小さく書いてある。

内示と確定注文がズレるのは、こちらの読みが甘いからではありません。 内示は、客先が「今わかっている範囲」で出してくれている数字です。その先には、客先のさらに客先がいます。そこが動けば、数字は動きます。ズレをゼロにするのは、構造として無理です。

だからこの記事でやりたいのは、内示を当てにいくことではありません。 ズレる前提で、「どこまで先に動いて、どこから待つか」の線を品番ごとに引く。そのための数え方と、決め方の話です。

結論:内示と確定のズレは、①品番ごとに直近6か月の「内示に対する確定の割合」を並べる → ②その中のいちばん低かった月を自社の下限とする → ③下限までは先行手配、そこから上は様子見、確定が出てから動く、と3段階に分ける — この順番で扱えます。読むのは平均ではなく最低値です。平均で構えると、悪い月にそのまま在庫が残ります。

進め方は、こうです。

  1. 数の多い品番を5つだけ選ぶ
  2. 直近6か月の内示と確定を並べて、割合を出す
  3. 品番ごとにいちばん低かった月を見つける
  4. その数字で、先行手配・様子見・確定待ちの3段階に分ける
  5. ズレたときの材料の扱いを、客先と一度だけ話しておく

いちばん効くのは2番です。「なんとなくズレる」を「この品番は最低でも6割は来る」に変えるだけで、手配の量に根拠が生まれます。 5番は気が重い話に見えますが、実際にやってみると、揉めるより先に「そうだよね」で終わることのほうが多いところです。

何が起きているか — 内示は嘘ではなく、「その時点の見込み」

まず、内示という書類の立ち位置を整理しておきます。

内示(ないじ)は、客先が「このくらい注文する見込みです」と前もって知らせてくれる数字です。フォーキャスト、生産計画、所要量計画など、客先によって呼び方は変わります。3か月先まで、半年先まで、といった形で出てくることが多いですね。

大事なのは、内示は注文書ではないということです。多くの取引で、内示は「注文の約束」ではなく「準備のための情報提供」として扱われています。だから、ズレても客先が嘘をついたことにはなりません。

では、なぜズレるのか。理由はだいたいこの4つに集約されます。

ここで見ておきたいのは、この4つのどれも、こちらからは見えないということです。見えないものを当てにいこうとすると、疲れます。当てるのではなく、外れ方の幅を知るほうが現実的です。

ズレたときに、こちら側で何が残るか

内示が下振れしたとき、町工場側に残るのは材料だけではありません。

このうち、金額としていちばん見えやすいのは材料です。でも、現場でいちばん効くのは人と機械の枠のほうかもしれません。「来月は忙しいから」と断った別の仕事が、あとになって効いてきます。

逆に、内示が上振れすることもあります。600個の内示に対して、確定が680個。こちらのほうが一見ありがたいのですが、材料のリードタイムが2週間ある品番だと、足りないぶんが間に合わないことになります。上振れも、備えのない現場ではトラブルです。

「なんとなく多めに持つ」が効かなくなる理由

多くの現場では、経験でこれをこなしています。「あの客先は8割くらいで見ておけばいい」。これはこれで、実はかなり正しい判断です。

ただ、この読みには弱点が2つあります。

ひとつは、客先単位で丸めてしまうこと。同じ客先でも、量産の定番品と、動きの読めない品番では、ズレ方がまるで違います。ひとまとめに8割で見ると、定番品では材料が足りず、読めない品番では余ります。

もうひとつは、その読みが一人の頭の中にしかないこと。その人が休んだ日に注文が入ると、判断が止まります。材料を手配する人と、内示を見ている人が別なら、なおさらです。

やることは、経験を捨てて数字に置き換えることではありません。 頭の中にある「8割くらい」を、品番ごとの数字にして、紙に出すだけです。

具体例 — 6か月並べると、品番ごとに顔が違う

内示の数量を3つの帯に分けた図。下から先行手配、様子見、確定待ちの順に積み上がり、全体の高さが内示の数量を表している
内示の数量をそのまま追わず、下から「先行手配」「様子見」「確定待ち」の3段に分けて構える

上の図が、これから作る構えの全体像です。内示の数量をひとかたまりで追わず、下から先行手配様子見確定待ちの3段に分けます。では、その境目をどこに引くのか。実際に数字を置いてみます。

品番Aと品番B、同じ客先でも顔が違う

ある現場で、同じ客先の2品番について、直近6か月の内示(確定の2か月前に出ていた数字)と、実際の確定注文を並べてみました。

品番A(動きの読めない品番)

内示確定確定 ÷ 内示
3月500個460個92%
4月600個420個70%
5月500個510個102%
6月700個450個64%
7月600個540個90%
8月550個500個91%
合計3,450個2,880個83%

品番B(量産の定番品)

内示確定確定 ÷ 内示
3月200個200個100%
4月200個190個95%
5月250個250個100%
6月200個200個100%
7月250個240個96%
8月200個200個100%
合計1,300個1,280個98%

同じ客先です。それでも、こうなります。

品番Aは、合計で見れば83%。悪くない数字に見えます。でも月ごとに見ると、64%の月から102%の月まで、ばらばらです。品番Bは、いちばん低い月でも95%。ほぼ内示どおりに来ています。

この2つを「あの客先は8割で」とひとまとめにしていたのが、これまでの構えです。 品番Bでは毎回2割ぶん材料が足りず、追加手配で慌てていたはずです。

見るのは平均ではなく、いちばん低かった月

ここが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。

品番Aの平均は83%です。では83%で構えればいいかというと、そうはなりません。83%で手配すると、64%だった6月には、内示700個に対して581個ぶんを用意していたことになります。実際は450個。131個ぶんが残ります。

700個 × 83% = 581個
581個 − 450個 = 131個ぶんが残る

一方、いちばん低かった月=64%で構えていたら、こうです。

700個 × 64% = 448個
確定450個 − 448個 = 2個ぶん足りないだけ

平均で構えると、悪い月にそのまま在庫として残ります。下限で構えると、良い月に追加手配が要るだけです。 どちらも手間ですが、追加手配は動かせる手間、残った材料は動かせないお金です。

金額にすると、どのくらい違うか

品番Aの材料費を、1個あたり800円としてみます。来月の内示は600個です。

これまで(内示どおり600個ぶん手配)

600個 × 800円 = 480,000円
確定が420個だった場合、余りは 180個 × 800円 = 144,000円ぶんが棚に残る

下限64%で構える(切りのいい380個ぶんを先行手配)

380個 × 800円 = 304,000円
確定が420個なら、不足40個ぶんを追加手配。余りは0

差は144,000円です。1品番、1か月で。しかもこの144,000円は、消えたわけではなく棚で止まっているお金です。次にこの品番の注文が来れば使えます。ただ、それがいつになるかは分かりません。

ここで確認しておきたいのが、追加手配が間に合うかです。不足40個ぶんの材料が2日で入るなら、この構えは成立します。2週間かかるなら、成立しません。

だから、下限で構えられるかどうかは、材料のリードタイム次第です。

材料のリードタイム取れる構え
数日で入る(定尺の常備材など)下限で構えて、足りたら追加。いちばん効く
1〜2週間かかる下限+α(下限と平均の間くらい)で構える
1か月以上、特注材・指定材内示どおり手配せざるを得ない。ここは客先と話す領域

いちばん下の行が、次の章の話につながります。

影響 — 3段階にすると、判断が人から離れる

品番ごとに下限を出して3段階に分けると、現場では次のようなことが起きます。

1. 材料手配が、その日の担当者で変わらなくなる

いちばん大きい変化はここです。これまでは、内示表を見た人が「まあ8割くらいかな」と頭で判断していました。品番ごとに数字が決まっていると、内示表が来たら、その数字を掛けるだけになります。事務の人でも、若手でも、同じ答えが出ます。

判断が人から離れると、休みを取りやすくなります。地味ですが、少人数の現場ではここが効きます。

2. 「余った材料」が、責める話ではなくなる

下限で構えて、それでも余ることはあります。でもそのときは、決めた基準どおりにやった結果です。誰かの読み違いではありません。

これは思っている以上に大きいところです。基準がないと、材料が余るたびに「誰が手配したんだ」という空気になります。基準があると、「基準のほうを直そうか」という会話に変わります。同じ出来事なのに、向いている先がまったく違います。

3. 客先との会話が、感情の話から数字の話になる

「内示、当てにならないんだよね」は、こぼしても何も変わりません。

「品番Aは直近6か月で、内示に対して64%〜102%の幅があります。特注材のリードタイムが3週間あるので、内示どおり手配すると読み違えたぶんが残ってしまいます。この品番だけ、確定を出すタイミングを2週間早めていただけませんか

これは、通ることがあります。客先の担当者も、内示がぶれていることは分かっています。責める言い方でなければ、相談として受け取ってもらえます。 取引先とのこうした距離の取り方は、特定の取引先に依存しすぎないための考え方とも地続きです。

4. 上振れにも構えられるようになる

3段階に分けると、下だけでなくも見えます。品番Aは102%の月がありました。つまり内示より多く来ることがある品番です。この情報を持っていれば、繁忙期に「この品番は1割増える可能性がある」と工程を組めます。

順番の組み方はどれを先に流すか迷わない、生産の優先順位ルールの作り方と合わせて考えると整理しやすいはずです。

5. 内示の精度そのものが見えるようになる

半年も続けると、品番ごとの下限が動いていることに気づきます。下限が上がってきた品番は、客先の読みが安定してきた証拠です。その品番は、先行手配の範囲を広げていいということになります。

逆に下限が下がった品番は、何かが変わりかけています。モデル切替が近いのかもしれません。数字は、聞けない情報を少しだけ教えてくれます。

明日やること — 内示のズレを数字にする5つの手順

手順1:品番を5つだけ選ぶ

全品番でやろうとすると、その時点で止まります。数量か金額の多い順に、上から5品番だけ選んでください。

選ぶ目安は3つです。

3つ目が意外と当たります。印象に残っているズレは、たいてい実際に大きいズレです。

手順2:直近6か月の内示と確定を並べる

用意するのは紙1枚か、Excelのシート1枚です。列は4つだけ。

内示確定確定 ÷ 内示

ここで大事なのが、内示を「いつ時点の数字」で取るかをそろえることです。

内示は毎月更新されます。3か月前の内示、2か月前の内示、1か月前の内示で、数字が違うのが普通です。並べるなら、材料を手配する判断をしている時点の内示にそろえてください。材料手配を2か月前にしているなら、2か月前の内示です。

内示表を捨ててしまっていて過去分が残っていない、という現場も多いと思います。その場合は、今月から取っておくで大丈夫です。3か月ぶん貯まれば、荒くても傾向は見えます。今日から始めれば、年内には使える数字になります。

手順3:いちばん低かった月を見つけて、丸める

6か月ぶん並べたら、割合の列でいちばん小さい数字に印をつけます。それが、その品番の下限です。

丸め方には、少しだけコツがあります。

2つ目は判断が要るところです。迷ったら、外さないほうが安全です。外して構えを緩めると、また同じことが起きたときに材料が残ります。

手順4:3段階の線を引いて、紙にする

品番ごとに、こういう表を1枚作ります。

品番内示に対する下限先行手配様子見確定待ち
品番A60%内示の60%まで60〜85%85%超
品番B95%内示の95%まで95〜100%100%超
品番Cデータ不足全量

それぞれの段で、やることを決めておきます。

真ん中の様子見が、実は一番効きます。発注しないけれど、相手には伝えておく。 これだけで、いざ確定が来たときの材料の入りが早くなることがあります。材料屋にとっても、いきなり言われるより助かる話です。

在庫として持つ量の考え方は、材料・部品が欠品しない発注タイミング(発注点)の決め方と合わせて見ると、常備材との切り分けがしやすくなります。

手順5:材料の扱いを、客先と一度だけ話しておく

ここが、気が重いけれど一番大事な手順です。

特注材・指定材で、リードタイムが長い品番については、下限で構えることができません。内示どおり手配するしかない。だから、ズレたときにその材料をどうするかを、先に話しておく必要があります。

切り出し方は、責める形にしないのがコツです。

「品番Aの材料が、指定材で入荷まで3週間かかります。ご迷惑をおかけしないよう内示の数量で手配しているのですが、確定が下がったときに材料が残ってしまいます。この品番だけ、材料の手配についてどう扱うか、一度決めておきたいのですが

話しておきたいのは、この3つです。

そして、話した内容は必ず書面かメールで残します。口約束は、担当者が替わった瞬間に消えます。メールで「先日ご相談した件、下記の理解でよろしいでしょうか」と一度送って、返信をもらっておけば十分です。

なお、取引条件の取り決めそのものについては、業種や取引形態によって守るべきルールが変わります。取り決めの内容に不安がある場合は、取引先との合意を書面にしたうえで、必要に応じて商工会議所の相談窓口や中小企業の支援機関に一度相談してみてください。この記事は実務の整理までを扱っています。

内示と確定のズレに構えるチェックリスト(コピーして使えます)

今週やること

下限を出すときに確認すること

3段階を決めるときに確認すること

客先と話すときに確認すること

月に1回見ること

深追いしない目安

迷ったときの原則

よければ、こちらも

明るい事務所で、内示と確定を並べた表を前に、担当者と経営者が向かい合って落ち着いた表情で話し合っている場面

内示どおりに来なかった月に、悔しい気持ちになるのは、その内示をちゃんと信じて動いたからです。届いた数字を軽く見て、何も手配せずにいたら、そもそも余ることもありません。棚に残った材料は、客先に迷惑をかけまいとして先に動いた、その証拠でもあります。

それでも、同じことが何度も続くと、だんだん内示を見るのが億劫になります。信じたぶんだけ、外れたときに疲れるからです。

だから、信じる範囲をこちらで決めてしまう。 ここまでは信じる。ここから先は待つ。 そう決めた瞬間から、内示表は「当てにならない紙」ではなく、使える情報に変わります。

今日、いちばん数の多い品番を1つだけ選んで、直近6か月の内示と確定を紙に並べてみてください。 そこに並ぶのは、読み違えの記録ではありません。ズレのある数字を相手に、それでも毎月なんとか納めてきた、この工場の記録です。

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