
リピート品の見積を毎回作り直さない。標準見積のひな形を1枚に
「いつものシャフト、また50本お願いできますか。見積だけ先にください」。
電話を切って、去年の見積書を探します。ファイルをめくって、やっと見つけた単価は1,370円。「じゃあ今回も同じで」と返しかけて、ふと手が止まる。材料、あのあと上がったよな。段取りは前と同じだっけ。そもそもこの1,370円、どうやって出したんだっけ。
リピート品の見積は、慣れているはずなのに、毎回ちょっとだけ迷います。そして多くの工場で、その「どうやって出したか」は見積を作った人の頭の中にしか残っていません。
それでも毎回きちんと返してきたのなら、それは現場の力です。今日は、その頭の中の計算を、次の自分や別の人が使える1枚に写しておく話です。
結論:リピート品の見積は、単価だけでなく「内訳と式」を品番ごとに1枚に残すのがいちばんの近道です。①内訳を「材料・段取り・加工・検査梱包・外注」に分ける → ②ロットごとにかかる費用(段取りなど)と1個ごとにかかる費用(材料・加工など)を分けて書く → ③材料単価や時間チャージは別の欄にまとめて、そこだけ直せば単価が出直るようにする → ④見直す条件を書いておく。これで、次の見積は「数量を入れて、変わったところだけ直す」で返せます。
やることを並べると、こうなります。
- よく来るリピート品を3つだけ選ぶ
- 前回の見積の内訳を思い出して書き出す
- ロットごとと1個ごとに分ける
- 材料単価・チャージなどの前提を1か所にまとめる
- 見直す条件と、前回の実績を書き添える
今日いちばん手軽なのは、今月来たリピート品の注文を眺めて、「この3つはよく来るな」という品番に丸をつけることです。5分で終わります。
何が起きているか — 残っているのが「単価」だけ
リピート品の見積が毎回ちょっと大変なのは、手を抜いているからではありません。残っているのが単価だけだからです。
見積書に書いてあるのは、たいてい「品番・数量・単価・金額」。お客さんに出す書類としてはそれで十分です。でも、次に見積を作る側から見ると、こんなことが分かりません。
- その単価に、材料費がいくら入っていたか
- 段取りを何時間で見ていたか
- 表面処理などの外注代を入れていたか
- 前回は何個のときの単価だったか
だから、数量が変わったり、材料が上がったりしたときに、「前と同じ」で出していいのか判断がつかなくなります。結果として、
- 前回の単価をそのまま写して、上がった材料分を自分でかぶる
- 念のため一から計算し直して、返事が遅くなる
- 作る人によって、同じ品番なのに見積の金額が変わる
のどれかになりやすいのです。
特に気づきにくいのが数量です。段取りのように「1回の注文ごとにかかる費用」は、数が少ないほど1個あたりが重くなります。前回100個の単価を、今回50個にそのまま使うと、段取りの分が足りなくなります。
標準見積のひな形は「内訳と式」を残す1枚

標準見積のひな形といっても、立派なシステムは要りません。品番ごとに紙1枚、またはExcelの1シートで十分です。大事なのは、単価の「中身」と「出し方」が残っていることです。
内訳を5つに分ける
多くの町工場の加工品は、だいたい次の5つで単価ができています。
- 材料:1個あたりの材料代(切りしろや端材のロスを含めて)
- 段取り:刃物・治具・プログラムの準備。注文1回ごとにかかる
- 加工:1個あたりの加工時間 × 時間チャージ
- 検査・梱包:測定、検査成績書、梱包の手間
- 外注:表面処理や熱処理など、外に出す工程の代金
自社の品物に合わせて、増やしたり減らしたりして構いません。「この品番にはこれが入っている」と分かることが目的です。
材料のロスの見方は 材料費の歩留まりと端材ロスを見積に織り込む方法 に、検査や梱包の手間は 検査・梱包・出荷の手間賃。見積から抜けやすい付帯作業の乗せ方 にまとめています。
「ロットごと」と「1個ごと」を分けて書く
ここがひな形のいちばんの要です。
| 分け方 | 入るもの | 数量が変わると |
|---|---|---|
| ロットごと(注文1回ごと) | 段取り、プログラムの確認、初物の検査 | 合計は変わらない。1個あたりは数が多いほど軽くなる |
| 1個ごと | 材料、加工、検査・梱包、外注(個数で払うもの) | 合計が数量に比例して増える |
こう分けておくと、数量がいくつで来ても、「ロットごとの合計 ÷ 数量 + 1個ごとの合計」で単価が出せます。数量が違う注文でも、同じ1枚から答えが出るのです。
数量ごとの単価を一覧にしてお客さんに示したいときは、ロット別単価表の作り方 数量で変わる単価を一枚に整理する がそのまま使えます。
前提の数字は1か所にまとめる
材料のkg単価、時間チャージ、外注の単価。こうした前提の数字は、内訳の中に直接書き込まず、シートの上のほうにまとめて書いておきます。
材料が上がったら、そこを1か所直すだけで単価が出直る。Excelなら計算式でつないでおき、紙なら「材料単価が変わったらこの行を直す」と矢印を引いておけば十分です。時間チャージの出し方は 加工賃の「時間チャージ」を自社で計算する手順 を参考にしてみてください。
具体例 — ステンレスのシャフト、50本と100本
ある工場のリピート品で、実際に1枚作ってみます。ステンレスのシャフトで、旋盤で加工し、表面処理を外注に出している品物です。
前提の数字は、シートの上にこうまとめました。
- 材料:1本あたり 380円(切りしろ・端材を含む)
- 時間チャージ:6,000円/時間
- 段取り:1.5時間(刃物・チャック爪の準備と初物確認まで)
- 加工時間:1個 6分
- 検査・梱包:1個 60円
- 表面処理(外注):1個 150円
これで50本のときを計算すると、次のようになります。
| 内訳 | 分け方 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 段取り | ロットごと | 1.5時間 × 6,000円 | 9,000円 |
| 材料 | 1個ごと | 380円 × 50本 | 19,000円 |
| 加工 | 1個ごと | 6分 × 50本 = 5時間 × 6,000円 | 30,000円 |
| 検査・梱包 | 1個ごと | 60円 × 50本 | 3,000円 |
| 表面処理 | 1個ごと | 150円 × 50本 | 7,500円 |
| 合計 | 68,500円 |
68,500円 ÷ 50本 = 1本 1,370円。冒頭の「去年の単価」は、こうやってできていたわけです。
同じ1枚で、100本のときも出せます。段取りの9,000円はそのままで、1個ごとの分が倍になります。
- 段取り 9,000円 + 材料 38,000円 + 加工 60,000円 + 検査・梱包 6,000円 + 表面処理 15,000円 = 128,000円
- 128,000円 ÷ 100本 = 1本 1,280円
50本と100本で、1本あたり90円違います。差のほとんどは、段取りの9,000円を何本で割るかの違いです(50本なら1本180円、100本なら90円)。前回が100本で1,280円だったのに、今回50本で同じ1,280円を出すと、1本90円、50本で4,500円ぶん段取りを自分でかぶることになります。
次に、材料が 380円から420円に上がったとします。直すのは前提の「材料」の1行だけです。
- 50本のとき:材料が 420円 × 50本 = 21,000円(2,000円増)
- 合計 70,500円 ÷ 50本 = 1本 1,410円
「何となく上げたい」ではなく、「材料が1本40円上がったので、単価も40円上がります」と言える形になります。値上げの伝え方は 値上げ交渉を切り出すための、原価根拠資料のつくり方 にまとめています。この1枚が、そのまま根拠資料の土台になります。
影響 — 見積の速さと、利益の残り方が変わる
ひな形があると、変わるのは主に3つです。
- 返事が速くなる:数量を入れて、変わった前提を直すだけ。一から計算する時間が要らなくなります。見積の速さについては 見積の返信が遅れて失注する前に、速く返す段取り でも触れています。
- 数量や材料の変化に気づける:「前回と数が違う」「材料が上がった」が、1枚の上で目に見えます。気づかないうちに利益が削られていく流れを止めやすくなります。
- 誰が作っても同じ金額になる:社長がいない日でも、事務の人や現場リーダーが同じ1枚から見積を返せます。見積が一人の頭の中にしかない状態から、少しずつ抜け出せます。
そしてもうひとつ。ひな形は、作ったあとの振り返りにも使えます。「段取り1.5時間で見ていたけど、実際は2時間かかった」と分かれば、その1行を直せばいい。見積と実績の差の見方は 見積と実際原価の差を、月末にそっと振り返る手順 にまとめています。
明日やること — 5つの手順
1. よく来るリピート品を3つだけ選ぶ
全部の品番をいきなりひな形にしなくて大丈夫です。最近3か月の注文を見て、よく来る品番を3つ選びます。迷ったら、金額の大きいものか、見積のたびに悩む品番から。
2. 前回の見積の内訳を思い出して書き出す
前回の見積書と、図面、作業日報を並べて、材料・段取り・加工・検査梱包・外注の5つに分けて書き出します。前回の計算メモが残っていなければ、作った人に聞きながらで構いません。分からない欄は空けておいて、次に作るときに測って埋める、でも十分です。
加工時間や段取り時間の実績は、日報から拾えることが多いです。拾い方は 作業日報から工数の実績を集める。次の見積の精度を上げる仕組み が参考になります。
3. ロットごとと1個ごとに分ける
書き出した内訳に、「ロットごと」「1個ごと」の印をつけます。段取り・プログラムの確認・初物の検査はロットごと、それ以外は1個ごと、がひとつの目安です。外注で「1回あたりの最低料金」がある工程は、その金額も書いておくと安心です。
4. 前提の数字を1か所にまとめる
材料単価、時間チャージ、外注の単価を、シートの上にまとめて書きます。横に「いつの数字か」(例:2026年10月時点)も添えておきます。あとで見たとき、どれが古い数字かがすぐ分かります。
5. 見直す条件と、前回の実績を書き添える
シートの下に、次の2つを書いておきます。
- 見直す条件:材料の仕入れ値が変わったとき/時間チャージを見直したとき/図面の改訂が入ったとき/前回の見積から1年たったとき
- 前回の実績:納めた日、数量、実際にかかった段取りと加工の時間、気づいたこと
図面の改訂は見落としやすいところです。品番が同じでも、公差や表面処理の指定が変わっていることがあります。改訂の確かめ方は 客先の設計変更・仕様変更に慌てない。工程を止めずに受け止める手順 にまとめています。見積書にどこまでの条件を書き添えるかは 見積書の有効期限と但し書き。材料が上がった日に困らない書き方 もあわせてどうぞ。
リピート品の標準見積ひな形チェックリスト
まず1つだけやるなら、これだけで十分です。
- よく来るリピート品を3つ選んで、前回の見積の内訳を1枚に書き出したか
これだけで、次にその品番の見積依頼が来たとき、「どうやって出したっけ」で止まる時間がなくなります。 残りは、手が空いたときに少しずつで大丈夫です。
慣れてきたら確認:
- 内訳を「材料・段取り・加工・検査梱包・外注」に分けているか
- 「ロットごと」と「1個ごと」の費用を分けて書いているか
- 数量が変わったとき、同じ1枚から単価を出し直せるか
- 材料単価・時間チャージ・外注単価を1か所にまとめているか
- 前提の数字に「いつの数字か」を書き添えているか
- 材料の切りしろや端材のロスを、材料費に含めているか
- 外注の最低料金がある工程は、その金額も書いているか
- 見直す条件(材料の値上がり・図面改訂・1年経過など)を書いているか
- 前回の実績(実際の段取り・加工時間)を書き添えているか
- 実績が見積とずれていたら、ひな形の数字を直しているか
- ひな形の置き場所を決めて、社内の誰でも開けるようにしているか
全部そろっていなくて構いません。1品番でも中身の分かる1枚があれば、次の見積はずいぶん気持ちが楽になります。
よければ、こちらも
- 数量ごとの単価をお客さんに示すなら、ロット別単価表の作り方 数量で変わる単価を一枚に整理する がひな形とそのままつながります。
- 段取りを見積に入れ忘れないためには、段取り時間を見積に入れ忘れない、確認のコツ をあわせてどうぞ。
- 内訳の抜けを防ぐ確認の順番は、見積で「見落としがちな原価」を防ぐ、確認の順番 にまとめています。
- 少ない数の注文で利益を残すには、小口の仕事で赤字にしない。最低受注金額(ミニマムチャージ)の決め方 が参考になります。
- リピート注文そのものを増やしたいときは、納品して終わりにしない。リピート受注を増やす納品後フォローの型 もどうぞ。
- 材料費や時間チャージの計算は、町工場のツール で手早く確かめられます。

リピート品の見積で迷うのは、あなたが雑だからではありません。毎回、材料や数量のことまで気にかけて、ちゃんと考えようとしているからこそ手が止まるのです。
足りなかったのは、腕や気持ちではなく、前回の計算の中身を残しておく1枚だけです。それは、見積の依頼が来ていない今日のうちに作れます。
まずは、よく来る品番をひとつ選んで、前回の単価の中身を書き出してみる。そこから、見積のたびに迷わない工場が始まります。