夕方の作業場で、検査台に並べた数個の不良品を前に、ベテランと若手が手直しするか作り直すかを話し合っている場面

手直しか作り直しか。不良が出た日の判断の順番と記録の残し方

金曜の夕方、最終検査で手が止まる。

50個のうち、5個か6個。目で見てわかる浅いキズが入っている。納期は月曜の午前。材料はもう在庫にない。

「これ、磨けば消えますよね」と若手が言う。たぶん消えます。時間もそんなにかかりません。

でも、磨いていいものかどうかは、別の話です。

この場面でいちばん怖いのは、判断を間違えることではありません。判断の順番を決めていないせいで、その場の空気で決まってしまうことです。 納期が迫っていれば「直そう」に傾く。客先が厳しければ「作り直そう」に傾く。同じ不良でも、出た曜日によって違う結論になる。

この記事では、その場の空気ではなく順番で決められるように、見る順番を4つに固定します。あわせて、決めたあとに3行だけ残す記録の付け方もまとめました。手直しは、いちばん記録に残りにくい仕事だからです。

結論:不良が出たら、①品質 → ②客先 → ③納期 → ④原価の順に見ます。①で「規格に戻せない」なら、そこで作り直しか客先相談に決まります。金額を比べるのは、いちばん最後です。 先に電卓を叩くと、規格から外れた品物を安いほうの理由で通してしまいます。決めたら、品名・どうしたか・かかった分数の3行を残しておきます。

進め方は、こうです。

  1. 判断の順番を紙1枚に決めて、検査台のそばに貼る
  2. 手直しの可否を「削る/足す/やり直す」の3つで見分ける
  3. 原価は3つ足すだけで比べる(時間×賃率+材料+段取り)
  4. 決めた人と決めた理由を、3行残す
  5. 月に一度、手直しにかかった時間だけ合計する

いちばん効くのは1番です。順番が紙になっていないと、忙しい日ほど順番が入れ替わります。

何が起きているか — 手直しは、記録に残らない仕事

不良が出たときの選択肢は、実は4つあります。

選択肢中身
手直し追加の作業で規格内に戻して、良品として出す
作り直しその分だけ、材料から作り直す
特別採用(特採)規格から外れたまま、客先の承認をもらって使ってもらう
廃棄直せず、作り直しも間に合わないので、数量を減らして相談する

3つ目の「特別採用(特採)」は、聞き慣れないかもしれません。規格には合っていないけれど、機能上は問題ないので、客先に事情を説明して承認をもらったうえで、そのまま納めさせてもらうことです。会社によっては「特採申請」「ロット特別採用」と呼びます。承認をもらうのが前提なので、黙って出すこととはまったく別のものです。

現場でよく起きるのは、この4つのうちいちばん手が動くものが選ばれることです。多くの場合、それは手直しです。

手直しは「なかったこと」になりやすい

作り直しをすれば、材料が動きます。倉庫から出庫され、加工機が回り、日報に製番と時間が乗ります。誰が見ても、そこに仕事があったことがわかります。

手直しは、そうなりません。

つまり手直しは、やった人の手間だけが増えて、どこにも残らないという性質を持っています。

残らないと、3つのことが起きる

ひとつ目は、手直しの本当のコストが誰にも見えないことです。1回30分でも、月に10回あれば5時間です。それが翌月の見積に反映されることはありません。

ふたつ目は、規格ぎりぎりの品物が出やすくなることです。判断の順番が決まっていないと、「間に合わせたい」という気持ちが先に立ちます。磨けば見た目は良くなる。でも寸法は戻っていない。ここが、いちばん危ないところです。

みっつ目は、同じ不良が繰り返されることです。手直しで乗り切った不良は、記録に残らないぶん、原因を追う対象にもなりません。次のロットでも同じことが起きて、また磨きます。

ここで悩んでいる時点で、その現場はきちんと品質を見ようとしています。問題は姿勢ではなく、その場で判断するための順番が用意されていないことです。

出てしまった不良を後工程に流さない仕組みは 不良品を識別・隔離して、後工程への流出を止める現場ルール、件数のつかみ方は 不良率を記録して傾向をつかむ、集計の始め方 にまとめています。

判断の順番 — 金額を比べるのは、いちばん最後

見る順番は、次の4つです。上から順に見て、そこで結論が出たら下は見ません。

不良が出たときに見る順番を上から4段に並べた図。上から品質、客先、納期、原価の順で、下向きの矢印でつながっている
上から順に見る。①で規格に戻せなければ、そこで結論が出る。金額を比べるのはいちばん最後

① 品質 — 規格に戻せるか

最初に見るのは、その手直しで図面の規格内に戻るのかどうかです。見た目が良くなるかどうかではありません。

見分け方は、手直しの中身を次の3つに分けると早くなります。

型どんな手直しか見るところ
削る研磨、バリ取り、追加の切削、ペーパー掛け寸法が減る。板厚・外径・深さが公差の下限を割らないか
足す溶接の肉盛り、再メッキ、塗り直し、充填熱や密着で新しいリスクが出る。材質・強度・膜厚の指定を確認
やり直す洗い直し、組み直し、梱包し直し、ラベル貼り替え素材そのものは変わらない。比較的通しやすい

いちばん事故が多いのは「削る」型です。削った瞬間に、寸法は元に戻せません。 キズが消えても公差から外れていたら、それは良品ではなく、見た目のきれいな不良品です。

「足す」型は、通ることもありますが条件つきです。肉盛りしたところの硬度、再メッキの膜厚、塗り直しの密着。図面や仕様書に指定があるなら、そこを満たせるかを先に確かめます。

「やり直す」型は、比較的安心して選べます。素材に手を入れないからです。

公差の読み方に自信が持てないときは 図面の公差の読み方。はめあいと幾何公差でつまずかないために、良品と不良品の線引きをそろえる話は 限度見本で判断をそろえる。作り方と運用のしかた が参考になります。

② 客先 — 手直し品を納めていい約束になっているか

規格に戻せるとしても、そこで即決はしません。客先との取り決めで、手直し品の扱いが決まっている場合があるからです。

確認したいのは、この3つです。

自動車部品や医療機器のように、追いかけができることを求められる品目では、手直しそのものを事前承認制にしていることがあります。ここを飛ばすと、品質の問題ではなく約束の問題になります。あとから発覚したときにこじれるのは、たいていこちらです。

判断がつかないときは、電話1本が最短です。「規格には戻せるのですが、補修の扱いを確認させてください」と聞くだけで済みます。

③ 納期 — 作り直して間に合うか

ここでようやく時間の話になります。見るのは3つです。

作り直しが間に合わないとわかったら、選択肢は「手直し」か「特採の相談」か「数量を減らして分納の相談」に絞られます。間に合わないのに黙って進めるのが、いちばん傷が深くなります。

遅れそうだとわかった時点での伝え方は 納期遅延の連絡と、再発を防ぐ進め方 にまとめています。

④ 原価 — どちらが安いか

①〜③をくぐり抜けて、はじめて金額を比べます。両方とも選んでいい状態になったときだけ、安いほうを選ぶという順番です。

比べ方は、3つ足すだけで足ります。

手直しの費用  = 手直しにかかる時間 × 時間チャージ + 追加でかかる材料費
作り直しの費用 = 材料費 + 加工時間 × 時間チャージ + 段取り替えの時間 × 時間チャージ

検査のやり直しは、どちらにも発生します。忘れやすいので、時間に含めておきます。

時間チャージ(賃率)は、1時間あたりいくらで仕事をしているかの数字です。まだ自社の数字を出していないなら、加工賃の時間チャージを自社で計算する手順 が入口になります。

具体例 — 同じキズでも、結論が変わった2つのロット

ケース1:磨けば消えるが、公差から外れる

アルミのブラケット、ロット50個。最終検査で8個に、深さ0.3mmほどのキズが見つかりました。不良率は 8 ÷ 50 = 16% です。

図面の板厚指定は t3.0±0.1。つまり許されるのは 2.9mm から 3.1mm の範囲です。

まず①の品質から見ます。キズを消すには、その面を0.3mm以上削る必要があります。削ったあとの板厚は 3.0 − 0.3 = 2.7mm。公差の下限 2.9mm を下回ります。

この時点で、手直しは選べません。 金額を計算するまでもなく、結論は「作り直し」か「客先に相談」の二択に絞られました。

ただ、参考までに金額も出してみます。時間チャージは 4,500円/時 とします。

もし手直しした場合

項目計算金額
研磨15分 × 8個 = 120分 = 2.0時間 × 4,500円9,000円
再検査3分 × 8個 = 24分 = 0.4時間 × 4,500円1,800円
合計144分(2.4時間)10,800円

作り直した場合

項目計算金額
材料費700円 × 8個5,600円
加工12分 × 8個 = 96分 = 1.6時間 × 4,500円7,200円
段取り替え30分 = 0.5時間 × 4,500円2,250円
再検査3分 × 8個 = 24分 = 0.4時間 × 4,500円1,800円
合計150分(2.5時間)+ 材料16,850円

差は 16,850 − 10,800 = 6,050円。手直しのほうが 6,050円 安い、という数字が出ます。

そして、この6,050円は選んではいけない6,050円です。

もし①を飛ばして金額から見ていたら、「6,000円も違うなら磨こう」となっていたはずです。磨いた品物は見た目がきれいで、キズもありません。外から見て問題に気づけないぶん、あとで見つかったときの話が重くなります。

この工場が実際に取ったのは、少し違う道でした。作り直しは月曜の朝に間に合わないとわかったので、客先に電話をして事情を伝え、キズのある8個について、機能面で問題ないか判断を仰いだのです。結果は「そのキズなら支障ないので、報告書を添えて納品してほしい」。特別採用として処理され、追加の費用はかかりませんでした。

もちろん、毎回この返事がもらえるわけではありません。断られることもあります。それでも、黙って磨くよりは、聞くほうがずっと安全です。

ケース2:作り直したら、材料が丸ごと無駄になる

同じ月、別のロットです。ステンレスのプレート、ロット20個の全数に、洗浄の残りが見つかりました。細かい切粉が面に付いたまま、次工程へ回りかけていた状態です。

①の品質から見ます。洗い直しは「やり直す」型です。素材に手を入れず、本来やるはずだった作業をもう一度やるだけなので、規格に戻せます。板厚も外径も変わりません。

②の客先。図面に補修の制限はなく、洗浄はもともと通常工程の一部です。問題ありません。

③の納期。洗い直しは 1個2分。20個で 40分 = 約0.67時間です。当日中に終わります。

④の原価。

桁が違います。 ここで作り直しを選ぶ理由はありません。使える材料を20個ぶん捨てることになります。

このケースで大事なのは、「不良が出たら作り直すのが誠実」ではないということです。誠実さの中身は、作り直すことではなく、規格に戻せるかどうかを先に確かめることのほうにあります。

2つのケースを並べてみる

ケース1(キズ)ケース2(洗浄の残り)
手直しの型削るやり直す
①品質:規格に戻るか戻らない(板厚が公差外)戻る
②客先:手直しの制限確認が必要だったなし
③納期:作り直しで間に合うか間に合わない(手直しで当日中)
④原価:安いのは手直し(6,050円 安い)手直し(21,000円以上 安い)
結論客先に相談 → 特別採用手直し

金額だけを見れば、どちらも「手直し」です。でも中身はまったく違います。④が同じ答えでも、①が違えば別の話になる——これが、順番を決めておく理由です。

影響 — 順番が決まっていると、何が変わるか

順番がないとき順番があるとき
決め方その日の納期の切迫具合で変わるどの日でも同じ順で見る
決める人その場にいたいちばん立場が上の人誰でも同じ結論にたどり着く
公差の確認忙しいと飛ばされる①なので必ず通る
客先への連絡「言わなくていいか」と迷う②で判断がつく
手直しの工数残業に紛れて消える分数で残る
見積への反映されない月次の合計から反映できる
若手の学びベテランの背中を見るだけ順番を覚えれば自分で判断できる

最後の行が、いちばん静かに効いてきます。

判断がベテランの頭の中にあるうちは、その人がいない日に不良が出ると現場が止まります。順番が紙になっていれば、若手が「①から見ました。板厚が公差外なので、作り直しか相談だと思います」と言えるようになります。判断そのものを教えなくても、判断の順番なら渡せます。

ベテランの頭の中を言葉にしていく話は 勘やコツを言葉にする、暗黙知の引き出し方 にまとめています。

明日やること — 5つの手順

手順1:判断の順番を紙1枚にして貼る

A4を1枚。書くのは、これだけで足ります。

不良が出たら、上から順に見る
① 品質:手直しで図面の規格に戻るか(削る手直しは寸法を確認)
② 客先:再加工不可の指定・連絡の約束がないか
③ 納期:作り直して間に合うか(材料・機械の空き)
④ 原価:①〜③が両方OKなら、安いほうを選ぶ
※ ①か②で引っかかったら、その場で決めずに相談する

貼る場所は、最終検査をする台のそばです。事務所ではありません。判断は、品物を見ている場所で起きます。

手順2:手直しの可否を3つの型で見分ける

紙の裏に、この3行を足しておきます。

迷ったら「これは削る話か、足す話か、やり直す話か」と自分に聞くだけで、見るべきところが決まります。

手順3:原価は3つ足すだけで比べる

比較用の欄を、紙の下半分に作っておくと早いです。

手直し作り直し
時間(分)
時間 × 時間チャージ
材料費(追加ぶんのみ)
段取り替え—
合計

電卓を一度叩けば埋まります。大事なのは、この欄を①〜③のあとに埋めることです。先に埋めてしまうと、金額のほうが判断を引っぱります。

手順4:3行だけ残す

決めたら、その場で3行残します。ノート1冊でもExcel1枚でもかまいません。

項目書き方例
何が/どれだけ品名・製番・数量・不良の中身8/25 ブラケット 製番1234 8個 キズ
どうしたか手直し/作り直し/特採/廃棄 と、決めた人特採(客先確認済)/決:山田
何分かかったか追加でかかった時間45分(連絡・書類含む)

3つ目の「何分かかったか」が、いちばん大事です。ここが空いていると、手直しはまた見えない仕事に戻ります。

理由まで書ければ理想ですが、忙しい日は無理をしなくて大丈夫です。分数だけでも残っていれば、あとから意味を持ちます。

手順5:月に一度、手直しの時間だけ合計する

月末に、記録の「分数」の列だけ足します。10分もかかりません。

たとえば、ひと月ぶんを足したら 合計9時間 だったとします。時間チャージ 4,500円/時 なら、9 × 4,500 = 40,500円。年間に直すと 40,500 × 12 = 約49万円 ぶんの時間を、手直しに使っている計算になります。

この数字は、誰かを責めるためのものではありません。使い道は、次の2つです。

全部の不良に手を打とうとしないのがコツです。1つに絞るから、翌月の分数が減ったかどうかで効いたか判定できます。

原因の追い方は 不良の原因を絞り込む、なぜなぜ分析の進め方、対策を形にするところは 再発防止の具体策を、続く形で立てる にまとめています。

手直しか作り直しかの判断チェックリスト(コピーして使えます)

その場で見る(順番どおりに)

決め方の原則

記録する

月に一度

深追いしない目安

やらないと決めること

よければ、こちらも

朝の明るい作業場で、検査台のそばに貼った判断の紙を見ながら、若手が自分で判断を伝え、ベテランがうなずいている場面

不良が出た日に迷うのは、その品物をちゃんと仕上げたかったからです。どうでもいい仕事なら、迷いません。「これ、直していいのかな」と一瞬止まれる人が、いちばん品質を守っています。

ただ、その迷いを毎回ゼロから考えるのは、しんどい。しかも忙しい日ほど、考える時間がありません。

だから、順番だけ決めておきます。①品質、②客先、③納期、④原価。この4つを上から見るだけで、その日の空気に流されずに済みます。判断が正しくなるというより、判断が毎回同じになる——現場で効くのは、そちらのほうです。

今日できることは、ひとつだけです。A4を1枚、検査台のそばに貼ってみてください。 4行書くだけで結構です。次に不良が出たときに、若手がその紙を指差して「①から見ました」と言ってくれたら、それがいちばんの成果です。

手直しは、これからも必要な仕事です。なくす必要はありません。順番と、かかった分数。この2つが残るだけで、同じ手直しが、次のロットを良くする材料に変わります。

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